読書ごっこ

西順

日常

「パパ、どこ?」


「ここだよ」


 リビングの絨毯の上で読書をしていると、娘が声を掛けてきた。それに返事をする。


「パパ捕まえた」


 娘が私に覆い被さってくる。


「捕まっちゃったかあ」


 なんていつものやり取りをしながら、俺は娘の頭を撫でる。


「パパ、本取って」


「はいはい」


 リビングの書棚から適当な本を一冊掴むと、娘の手に握らせる。そして俺たちは背中合わせになりながら、本を読み始めるのだ。これが我が家のいつもの日常だ。


「パパは何を読んでいるの?」


「ん? 推理小説さ」


「へえ、面白い?」


「面白いよ。今丁度、名探偵が犯人を追い詰めているところなんだ」


「おお! クライマックスだね!」


 可愛らしく反応する娘の為に、本の粗筋を説明する。陸の孤島となった謎多き屋敷で、どんな殺人事件が起きたとか、まだ幼い娘に話してあげる内容じゃないかも知れないし、説明しても理解出来ないかも知れないが、娘はいつも楽しげに俺の話を聞いてくれる。


「そう言うお前はどんな本を読んでいるんだ?」


 説明も終わり、今度は俺が娘に尋ねる番だ。


「ふっふっふっ、私の読んだ本は凄いんだよ! 地底のお姫様がロケットで火星に行って、魔王に乗っ取られたタコ帝国を救うの!」


 そうやって、娘はそのお姫様がどんなに凄いか、窮地に陥った時に仲間のタコ星人がどんな活躍をしたか、まるで見てきたかのように説明してくれる。そんな娘の姿に、心が温かくなる。


「二人とも、もう寝る時間よ?」


 それを中断させるのはいつも妻の仕事だ。俺としてはもっと娘の話を聞いていても良かったのだが、うちでは寝る時間はきっちり決まっている。


「仕方ない。寝室に行こうか」


 俺が立ち上がると、娘も立ち上がる。


「そこ、オモチャ箱があるから気を付けてな」


「え? どこ?」


 目の見えない娘は、必死に手を伸ばしてオモチャ箱を探すが、その前に足がオモチャ箱に当たって転びそうになる。思わず身体ごとオモチャ箱に突っ込みそうになる娘を、すんでで抱きかかえる。


「ふふん」


「何だ? わざとか?」


 笑顔を見せる娘にそんな言葉を掛けると、娘は首を横に振りながら、俺の首に手を回す。


「パパ、今日もおとぎ話してね」


「ああ、今日はどんな話をしようかな」


 そんな他愛ない会話を交わしながら、俺は娘を寝室へ運ぶのだった。

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読書ごっこ 西順 @nisijun624

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