第1話 悪役に転生

目が覚めたら、知らない天井…ではなく、知らない“メイド”がいた。


“ここはどこ”


聞こうとしたが声が出ない。それどころか、腕も足も体すら動かない。


わからない。俺の体じゃないのか?


混乱していたら、不意に手が動いた。俺の意思とは無関係に。

その手はぎゅっと固く拳を握っている。


目の前のメイドに、振り下ろされようとしていた。


“やめろッッッッッ!!!!!”


無意識に叫んだ。目の前で暴力沙汰を見せられちゃ、不愉快極まれる。


その刹那、みょうちくりんな、体が何かを取り込む感覚とともに、その腕が止まった。





…違う、俺が『俺の腕を止めた』…?





俺は、目の前のメイドを殴ろうとしたのか?

いや、間違いなく『俺の意思』ではなかった。


それに、あの感覚はなんだ?


何一つわからない、状況も掴めない。



何を思ったか、不意に周囲を見渡してみた。

知らない風景…いや、知ってる…?


…ちょっとまて。ここ、俺の記憶が正しければ


『救世の神託』の世界じゃないか??


しかも、かの邪智暴虐の悪役ユグナ・キルボーラルが住んでいる、キルボーラル家の邸宅…?



つまり…だ。先ほどの暴力未遂、この風景。俺…悪役に転生したのか!?!??!?



——



さて、俺はどうやら救世の神託における悪役ユグナ・キルボーラルに転生してしまったらしい。


…転生するなら主人公が良かったな…



いやいや!嘆いていても仕方がないだろう!


悪役に転生してしまったというのなら


——更生して、真っ当に生きるだけだ!


というか、そうしないとユグナ破滅するんだもん。(ここまで、約1.41421356秒)



———


真っ当に生きると決めたのなら、まずやるべきことがあるよな。


ユグナ「…フィッツ」


フィッツ「ひぃっ!…え?」


鳩が豆鉄砲を喰らったような反応をしている。


ユグナ「申し訳ない。きっと今回だけじゃなく、これまでもひどいことをたくさんしてきたと思う。本当に、申し訳ない。」


俺は先ほど暴力未遂に巻き込んでしまったメイドの少女—フィッツにできる限りの誠意を込めて謝辞を贈った。


フィッツ「え、え?ええぇぇ〜???!!ユ、ユグナ様!?私程度の従者にそんな…御顔をお上げください!!!!」


ユグナ「いいや、君程度なんかじゃない。みんなが大切な家族だ。それに、悪いことをしたら謝る。当然のことじゃないかな?」


フィッツ「そのこと自体に異論はございませんが…」


ユグナ「では、どうかこの謝罪を受け入れてほしい。もしも、できないというのであれば…この謝罪は本物だと、行動で示していくさ。」


自らの行動で崩してきた信頼は、己が行動でのみ再構築できるのだ。

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