第15話 不機嫌な黒ネコ


「暑い……」


 和室の畳の上に敷かれた布団で目を覚ました俺――うん、今日もいつも通りだ。


「すぅすぅ……」


 可愛い寝息が聞こえる。目を開けなくてもわかる。俺の腕にるびぃがしがみついて寝ているのだろう。わざわざ見なくてもわかる。

 うん、いつも通りだ。

 ……と思うのだが、何か今日はるびぃがもふもふしている気がした。


「ふわあ……」


 まあどうでもいいや、もうちょっと寝たい。このまま二度寝することにする。


 ――コンコンっ。


 ノック? るびぃはここにいるからかーさんか? 俺は眠い、寝させてくれ。


 ――コンコンっ。


 しつこいな、るびぃがいるんだから寝過ごすわけがない。俺は二度寝する。

 別に鍵が閉まっているわけではないが、かーさんは無断には入ってこないはずだ。思春期の男の部屋に入ってはいけないと、わかっているよな?


「すぅすぅ……」


 それに、俺の部屋に無断で入ってくるのは一人だけだ。そいつはすでに侵入を許してしまっている。だから俺の部屋に入ってくる奴などいない。


「し、失礼しまーす……」


 ……え? かーさん入ってきたの? 


「真珠さんに起こしてきて言われたんだけど……蒼~? 起きてる~? 暗くてよく見えない……あ、寝てるの? よかった、変なことしてなくて……」

「何だよ変なことって、ふわあ……」


 かーさんの癖に何でそんな恐る恐るなんだよ……ああ、頭がボーッとする。


「びっくりした!? 蒼、起きてたんだ、それじゃあカーテン開けるよ」


かーさん(?)はズカズカと俺の部屋に入ってくると、一気にカーテンを開けた。


「明るくなったわね。蒼……え、黒い大きな猫? いや黒い猫の抱き枕? 蒼ってそんなものを横に置いて寝て……あれ、動いた?」

「ふわっ、ま、眩しいです、きゅぴさん……」


「――え? ええええええっ!?!?!?」


「な、なんだなんだっ!?」


 悲鳴に近い声に驚いて飛び起きると、かーさんではなくウサギ……でもなくて、ウサギパジャマを着たきゅぴが、驚きの表情で俺を見下ろしていた。

 ……あ、そうだった、きゅぴもこの寮に住んでいるだった、寝ぼけて忘れてた。


「え? あ、え、一緒に、え、兄妹、え……」


 ところで何できゅぴは驚きの表情で固まって動かないんだ?


「ふわっ、どうしたんですか、まだ大丈夫な筈ですよ……」


 遅れてるびぃも目を擦りながら起き上がったのだが、


「いやきゅぴが……って、何だお前その格好は?!」


 普通のパジャマ姿のるびぃじゃなかった。


「はい、そうで……あ、そうですにゃ、妹のるびぃですにゃあ……」


 黒ネコのパジャマを着たるびぃが、招きネコのポーズをしてそこにいた。

 ……たぶん恥ずかしいのだろう、るびぃの顔が赤い。


「にゃあって……」


 たぶん、きゅぴの着ているウサギパジャマの色違い……いや、動物違いだと思うんだけど、そんなものをるびぃが着る性格じゃないことは、俺が一番わかっている。


「どうしたんだよ、急にそんなもん着て……」

「お母さんが前に買ってくれたんですが、どうも子供っぽくてそのまま放置していたんです。ですがその可愛いかと思って着てみました……あ、着てみましたにゃあ」


 たどたどしく語尾を付け足したるびぃの着ているネコのパジャマも、ご丁寧にフード付きで、にゃあにゃあとネコ耳がついてあった。


「どうですか……にゃあ?」


 ぎこちないというか、よっぽど恥ずかしいのだろう、さらにるびぃの顔が赤くなった。


「無理するなよ……」

「むぅ……」


 絶対に無理しているとわかっていたので優しくそう言ったのだが、るびぃはほっぺを膨らませて露骨に不満顔だ。


「そうではなくてですね、私もきゅぴさんと同じ動物の格好なんですよ」


 そういえば何の因果か、俺の部屋に動物の格好した女の子が二人いるんだな。

 ……どういう状況だよ。


「だからなんだよ?」


 それよりも今はるびぃだ。何をそんなに怒っているんだ?


「もしかしてネコは嫌いですか? それともウサギの方が好きとかですか? にーさんって動物で差をつけるタイプですか? そうですかそうですか」


 ……あ、るびぃがめんどくさいモードに入った。

 この状態になったるびぃの不満を解消させないと、長いんだよなこれ……。


「別にネコは嫌いじゃないし、ウサギも嫌いじゃないけど、何が言いたいんだ?」

「だから、あれですよ。くっかわです、くっかわ……」


 さらにさらに顔を真っ赤にして何言ってんだこいつは?


「……くっかわ? なんだそれ? なあきゅぴわか――」


「いやいやいやっ! 何を普通に話してんのっ!?」


「どうした?」「どうされました?」


 俺とるびぃは同時にきゅぴに訊ねると、まだ向こうは驚きの表情だった。


「ど、どうしたじゃなくて、この状況は何っ!?」


 ……どういうことだろう? ともかく今は先にるびぃの機嫌だ。


「悪い、るびぃの機嫌はすぐに直さないと結構引きずるんだよ、だから、ちょっと待ってくれるか?」

「人をめんどくさいみたいな言い方やめてくれますか? にーさんが私を見て、素直な気持ちで出る言葉が欲しいんです。何も考えずに――」


「だから二人ともっ! 何で一緒の布団で寝ているのっ!」


「「何を今さら……」」


 さすが兄妹、見事にハモった。


「あ、そっか、きゅぴは知らなかったか……」


 部屋で俺とるびぃが一緒に寝ていたら、そりゃ驚くか、機嫌の悪いるびぃとのこともあって理解が遅れたけど、どうして驚いているのかやっとわかった。


「実はな……朝起きると、毎回るびぃが横で寝ているんだ」


 俺は事実のままに言った。


「絶対説明が足りてないからそれっ!」


 だよね、そう言うと思った。

 でも仕方がない。俺ですら本当の理由を知らないんだから、しょうがないので、るびぃにいつも通り訊いてみる……どうせ本当のことは答えないとわかっているけど。


「るびぃ、今日はどうして隣で寝ているんだ?」


 それに今は機嫌が悪い。ちゃんと答えてくれるかどうか……。


「はあ、そうですね、えっとサキュバスがにーさんを夜這いするかもしれないと思ったので、心配になったからでしょうか……」


 すっごく嫌そうにだけど答えたくれた。そしてまた、変な嘘を……いや、そういえばこの寮には、サキュバスはいるな一人。

 自然と俺の目は、サキュバスであるきゅぴを見た。


「え……いやいやいやっ! あたし失神しちゃうから! た、確かにサキュバスにとって夜這いは憧れだけど、まだ出来ないってわかっているからしないよっ!」

「「……まだ?」」


 俺とるびぃがまた揃えて言った。兄妹そろって引っかかったらしい。


「く、口が滑っただけでしないよ! み、見ないでよ……」


 俺たちの視線に耐えきれなかったのか、きゅぴはフードを深く被って視線を遮った。でも、まだ何か言い足りないのか、すぐにフードを少しあげると、


「でも、いつかはしてみたいと思っているよ、だ、だってサキュバスだもん……」


 ほんのりと顔を赤くして、きゅぴはそう付け足した。


「くっ、可愛……」

「はあ!?」


 何か急にるびぃの言葉遣いが悪くなった!? よくわからんが怒りの琴線に触れたらしい……や、やばい、いよいよ危険水域だ!


「にーさんは、私のこと……」

「きゅぴちゃーん? 蒼たちを起こしてくれた~?」

 

 今度はかーさんか!? 

 エプロン姿のかーさんがのほほんとした雰囲気で俺の部屋に入ってきた。

 ……今日はたくさん俺の部屋に来るな。

 何だ祭りか、祭りでもあるのか?


「お、起こしに来たんですけど、二人が一緒に寝てて……」


 せめてもの常識人に頼ろうとしたのか、きゅぴの目が理解を求めている。


「いつものことだから気にしないで」

「いつものことっ!?」


 朝からテンション高いなきゅぴのやつ。


「で、でもるびぃちゃんが、あたしが蒼を夜這いすると思って警戒していたみたいで、一緒に寝ていたって言っているんですけど……」

「それはるびぃのいつもの嘘だから気にしなくていいわよ」

「嘘っ!?」


 きゅぴのやつ大丈夫か、朝だけでエネルギー全部使い果たすぞ。


「あら?」


 何かに気付いたかーさんが、俺の横で不機嫌なるびぃに近づいた。


「るびぃ、そんなに不機嫌そうにしてどうしたの? 昨日、私の部屋にまでそのネコのパジャマを探しに来て、見つかったときは嬉しそうにしていたのに……」


 ……るびぃ、わざわざそれを探してたのか?

 そんなことを思っていると、かーさんの目が流れるように俺を見た。


「……もしかして蒼、ちゃんと言ってあげてないの?」

「だ、だから何をだよ?」


 俺がそう言うや否や、るびぃが立ち上がった。


「もういいです、にーさんなんて知りません……」

「お、おい、るびぃ……」


 ダメ元で呼び止めたのだが、るびぃは意外にもすぐに立ち止まってくれた。


「……何ですか?」

「えっと、何だ……」

「……ぷいっ」


 何を言えば良いかわからない俺に気付いたのか、るびぃはそのまま出て行ってしまった。


「何だってんだよ、はあ……」

「……あらら、るびぃを怒らせると長いわよ~」


 その事実に思わず項垂れてしまうが、何故かかーさんは楽しそうだ。


「何で楽しそうなんだよ……」

「怒っているるびぃも可愛いなと思っただけよ、蒼もそう思わない?」

「何言ってんだ? るびぃはいつだって可愛いだろが、さっきのネコのパジャマも可愛かったし、るびぃは何着たって可愛いぞ」


 そんなこと、わざわざ言わなくてもわかっていることだ。


「……それじゃない?」


 きゅぴが言った。呆れているように聞こえるのは気のせいだろうか?


「何が?」


 わかっていない俺に、きゅぴは『やれやれ』とでも言いたげにため息を吐いた。


「行きましょう、きゅぴちゃん……」

「そうですね、真珠さん……」


 そのまま二人は、呆れたのか俺を置いて部屋から出て行ったのだった。


「何だよ……」


 るびぃと顔を合わせのが気まずい俺は、顔を洗う前に制服に着替えるのだった。


 ――――――。


 朝食を食べ終えて、きゅぴとかーさんは隣同士で楽しく話していた。


「それにしても真珠さん、朝ご飯美味しかったです! 人間界のご飯ってどうなんだろうって思ってましたけど、全然美味しかったです!」

「あらあらきゅぴちゃんたらお上手ね、そんなこと言ってくれて嬉しいわ」

「いえいえ、本当のことですよ。昨日の夜もお腹が空いたあたしのために、おにぎりも用意してくれましたし、ありがとうございました」

「ふふふっ、気にしなくていいのよ。あたしはこの寮の寮母だからね。何かあったら言ってくれたら、私に出来ることなら任せてちょうだい」

「あははは」

「うふふふ」


 二人は笑い合うと、そーっとした雰囲気で俺を……正確には俺たちを見た。


「…………ずずっ」

「…………何だよ?」


 隣のるびぃが不機嫌そうにお茶を飲んでいるので、俺が言う嵌めになってしまった。


「何って……ねぇ、真珠さん?」

「そうよねぇ、きゅぴちゃん?」


 こいつらいつの間にこんなに仲良くなったんだ? 食事中も、俺たち兄妹はほぼ無言だったのに、この二人はずっと喋っていた。

 それに、こいつらの言いたいことはわかる。


『早く仲直りしたら?』


 ……俺だってそうしたいが、何をどうすればいいかわからない。

 謝りたくないわけじゃないが、何もわかっていない状態で、とりあえずで謝っていいものだろうか、逆にるびぃを怒らせることになりそうで……躊躇ってしまう。


「………………」

「………………」


 そんなこと思っているから、さっきからずっと膠着状態が続いているんだよな。食事中もずーっとこんな感じ、ああ、どうしたらいいんだ……。


「チラッ……」


 と隣を盗み見るが、るびぃは涼しい顔で受け流している。


「しょうがないわね……」


 途方に暮れていると、きゅぴが聞こえるか聞こえないかギリギリの声でそう言った。


「るびぃちゃん、ちょっといい?」


 きゅぴはテーブルに肘を付けると、顔の前で指を絡ませた。おじさんが考えるようなポーズを取っているが、とりあえず無視することにする。


「……何でしょう?」


 不機嫌が声に乗っているが、それでもるびぃは返答した。


「さっき蒼と一緒に寝ている理由をあたしのせいにしたこと謝ってくれたけど、蒼と一緒に寝ている理由は教えてくれなかったよね?」

「そうですね」

「どうして?」


 それは俺も気になっているので、そろーっと隣のるびぃを盗み見る。今まで本当の理由を教えてくれなかったけど、もしかしたらもしかすると、


「別に……」


 だよね、答えてくれるわけないよね。


「なるほど、答えたくないわけね……では真珠さん、ちょっと良いですか?」


 きゅぴは指を離すと、今度は隣のかーさんへと向き直る。


「あらあら名探偵さん、今度は私かしら?」


 探偵……確かにそんな感じだな、きゅぴによる朝の推理劇場が始まった。


「ちなみに真珠さんは、二人が一緒に寝ていることはご存じだったんですよね」

「ええ、小学生ぐらいからかしら?」

「二人が一緒に寝ていることについて何か思うことはありますか?」

「ないわ、兄妹仲良くて良いじゃない?」


 そういえば昔、かーさんにどうしてるびぃが俺と一緒に寝ているか訊いたことがあったけど、今みたいなことを言われたなあそういや。


「仲が良い。確かに兄妹で大きくなっても一緒に寝ることは人間界では一般的かもしれんません――」


……たぶん、俺とるびぃだけだと思う。


「――ですが真珠さん……いや、るびぃちゃん!」


 まるで犯人を指さすきゅぴに対して、


「お楽しみ中のところ失礼ですが……あと十分以内に出ないと遅刻ですよ」


 るびぃはあくまで冷静だった。


「時間がないと言うわけねですね? いいでしょうよ、ではお聴きしますわ」


 きゅぴは敬語に慣れていないのか、語尾が所々おかしいけど……まあいいや。


「実はるびぃちゃんには、蒼と一緒に寝ないと駄目な理由があるんじゃないですか?」

「っ……」

「ふふふ」


 ……今、一瞬るびぃの空気がピリッとしたような気がしたけど、気のせいか?


「蒼はちょっと抜けているから誤魔化せたかも知れませんが、サキュバスであるあたしには誤魔化せんませんよ……ねぇ、るびぃちゃん?」

「きゅぴさん、まさかあなた……」


 誰が抜けてるだとすっごく言いたいが、そんな空気じゃないし、それよりも、きゅぴの指摘にるびぃが動揺を見せたのが気になった。

 もしかしてきゅぴは、どうしてるびぃが俺と一緒に寝ているのかわかったのか?


「ふふふ」


 あと、さっきから不敵な笑みを見せているかーさんは……無視でいいや。


「そう、るびぃちゃん! あなたは……」


 きゅぴは立ち上がって、ビシッとるびぃを指さすと言った。


「あなたはお兄ちゃんと一緒じゃないと、寝られないのね!」


「そ、そんなわけ……あっ、そういえば……昔、枕を持ったるびぃに『一人じゃ寝れなくて』って言われたけど、まさかあれは本当だっ――」


 その流れで隣を見ると、もの凄く機嫌が悪いるびぃがそこにいた。照れとかじゃなくて単純に不機嫌な様子を見るに、全然違う理由だわこれ。


「違います、別ににーさんと一緒じゃなくても寝られます」

「えっ、違うのっ!?」


 名推理かと思いきや、どうやらきゅぴは迷探偵の方だったらしい。


「ふふふ」


 そして一人だけずっと楽しそうだな、かーさん……。


「一人じゃ寝られないからだと思ったのに違うんだ……それじゃあもしかして、蒼のせーきが少なくなっていることに、るびぃちゃんが何か関係が……」


 せーき……あ、生気か?


「ああああーっ!?」


 るびぃが急に声を上げて立ち上がった。普段冷静なだけに驚いてしまう。


「あ、えっと……」


 自分でも状況を理解していないのか、るびぃは立ち上がってから放心したように何も言わない。もしかしたら、状況を必死に理解しようとしているのかもしれない。

 そんな中、俺ときゅぴは驚いた表情でるびぃを見つめているのだが、


「あらあら……どうするのかしら?」


 やっぱり一人だけ余裕そうにしていた。


「ど、どした? るびぃ……」


 何とか状況を理解しようと、立ち上がったるびぃを見上げてそう言うと、


「さ、さっきのきゅぴさんの言っていたことですが……」


 さっき? 


「えっと確か、俺の生気が少なくなっていることにお前が――」

「違います! ついさっきではなくて! その前に言っていた、にーさんと一緒じゃないと寝られないってのが、えっと……実は、本当です、はい……」


 顔を真っ赤にしたるびぃは、渋々認めるみたいな雰囲気で搾り出した。


「……あれ? やっぱりそうだったの? 何だ、やっぱりあっていたんじゃない」


 きゅぴは自分の推理があっていたことが嬉しいみたいだ。 


「嫉妬の真実と恥の嘘を天秤にかけた結果、そっちを選んだのね、ふふふ」


 そして、よくわかんないことを言って高見の見物している人もいるが、それよりも俺は純粋に驚いていた。

 ……あれ、本当だったの? 

 まさかまさかのるびぃが、実は俺と一緒じゃないと寝られないとか、しかも一度はそれを無表情を徹して否定したのに、あとから顔を真っ赤にして言うだなんて、


「えっ、可愛……」


 思わず心の本音が漏れてしまった。


「……今、なんて言いました?」

「え、えっと、あー……か、可愛いかな?」


 るびぃに直接可愛いとか言うの、普通に恥ずかしいんだが!


「か、可愛いですか? そ、それは心からの声ですか?」


 ……心からの声って何? 何かどっかでそんなこと……今はいいや。


「ああ、か、可愛いと思うよ、心から……」

「つ、ついでに、本当にただのついでに聴いているだけで、特に意味はないし他意もないのですが、ちなみにですが、私の黒ネコパジャマは、どうでしたか?」


 ……何でそんなに聴いてくるんだるびぃの奴? 顔が赤いくせに口調は落ち着いているから、恥ずかしさと冷静のコントラストが変に際立っているんだが……。


「一瞬驚いたけど、か、可愛かったぞ……」


 一度言ってしまえば同じだ、恥ずかしいけど言った。


「そ、そうですか、そうですかそうですか……」


 噛みしめるように納得したるびぃは、顔を赤くしたまま椅子に座るのだった。


「やっぱりそうだったわね! じゃないとあんな黒ネコの格好して、蒼を喜ばせようとしないと思ったのよね。どうして一度嘘を吐いたのよ?」

「………………」


 聞こえていないのか、俯いたままるびぃは答えない。


「まあまあ、いいじゃない。それよりも、そろそろ出ないと学校に遅刻しちゃうわよ」


 時計を見ると、まだ間に合うが結構ギリギリだ。


「うおっ、マジか!?」


 せっかく学校に近い寮だと言うのに、せっかくの高立地が台無しだ。


「あたしはおっけーだよ!」


 気付いたらきゅぴは万全の状態で立ち上がってポーズを決めていた。谷間を少し露出させた制服に、鞄を持って元気に待っている。

 ……うん、目に毒だ。


「ほら、るびぃも行くぞ」


 俺も立ち上がるが、立ち上がろうとしないるびぃの肩を叩いた。


「ふひゃあっ!」


 聴いたことない声を上げて、きゅぴが驚きの目でそろりそろりと俺を見上げた。


「……ほら、行くぞるびぃ?」


 時計を指さして、俺は時間がないことをアピールすると、


「……あ、はいっ!」


 すぐに状況に気付いたるびぃはすぐに立ち上がった。身だしなみを軽く整えて、足下に置いてあった鞄を手に取ると、大丈夫ですと俺の前でシュッと決めた。

 ……うん、清楚で可愛い。


「よし、それじゃあ行こうか」


 何か朝から色々とあったが、今日は華の金曜日、学校が終われば二日間は休みだ。


「いってらっしゃーい、ふふふ」


 最後まで楽しそうなかーさんに見送られながら、俺たち三人は学校へと向かうのだった。

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