プリズマ・スクリプト ー七橋凜花の色彩理論と次元改変概論ー

おおにもつ

イントロダクション

2075_05_02_七橋凜花のレポート


 「プリズマディメンション理論」 ー 私たちが見ている世界は果たして同一のものなのか?

 はじめは量子もつれ現象に発端した何気ない仮説だった。

 この疑問に決着がつくのは、わずか5年前のことである。

 かつて学問は「客観的で不変たる現実」を追い求めていた。しかし現在の一般論は異なる結果を示している。

 世界とは、観測者の認識が描き出す「固有認識の次元」ーすなわち主観次元サブジェクトの集合体に過ぎないということを。


 この理論は研究者の注目を集め彼らの話題の中心になった。『人類はついに魔法が使えるかもしれない』そうみんながささやきあった。そして研究者は開発した装置の補助を受けて、私たちで無意識に共有する「集合体の次元」ー共有次元オブジェクトに主観次元の情報を書き込み、現象を改変ー小さな火を発生させる実験に成功した。

 この技術は「スクリプト」と名付けられ、人類は原初の炎のように新たな知識による道具を手に入れた。

 現代の社会に大きな影響をもたらしうるこの「炎」を確固たる技術として体系化して世間に証し、瞬く間に実用化へ至らしめたのが、イグルーコーポレーションの開発した「S.T.A.R.S.」スターズー (Synapse-Translation-Augmented-Reality-System)《シナプス翻訳拡張現実システム》だ。 スマートフォンに代わって超急速的に普及したこのデバイスは、個人の脳波を現実の空間へと同期させ、情報の交換やスクリプトの実行を行う。このスクリプト運用技術こそ、この新しい理論がわずかな年月で社会の核心を握るに至った最たる理由だ。


 例えば、通勤ラッシュの交差点は現代に存在しない。 誰もが認識上の空間を圧縮し、瞬間的に目的地に到達する移動系スクリプト『シルバー・シューズ』を日常的に行使している。玄関を出るまもなく一歩歩けばそこは目的地だ、というスクリプトが皆の世界たる共有次元オブジェクトを書き換えて現実のものとしている。 それは魔法ではなくして魔法のようだとされた、新しい科学理論に基づいた「次元の最適化」である。


 ――――

 音声ログより抜粋


 ーって、言われても小難しいですよね!要点は新技術でみんなが各々の好きなように現実を書き換えることができるようになったってことです!もちろん本人のキャパシティの上限とか、ほかにもいろんな制限とか、ありますけど。ここでは割愛しますね。

 2070年に実験が成功して発表されたこの技術は、以後5年で急速に普及し、瞬く間に世界を変えました。その動かぬ証拠がS.T.A.R.S.デバイスです。ヘッドセット、カチューシャ、メガネ、首輪とかが多いですね。様々な形態のデバイスから脳波に直接アクセスし、その信号を読み取り、情報の書きかえを行い、使用者に多大な恩恵をもたらして。その用途は多岐にわたる……って感じです。

 試しに五感で例えてみましょうか。

 たとえば視覚!。目で見た情報はすべてが検索の対象にできて、視線の先にあるものを自由に検索、アクセスできる。目で見たQRコードにアクセスしたり、そこから自由に視界の上で取引や決済なんかもできる。共有次元の改変も応用して契約書なんかも何も用意せず書けちゃいます!あ、セキュリティは最新鋭の生体認証ー脳波パターン認証ですね。これで万全、安心。ですが詐欺には気をつけて!

 ほかにも聴覚!。外部音、ラジオ、音楽なんかも、すべてを自由に自分の知覚する音量をコントロールできます!一昔前のパソコンみたいですね。外部音を遮断して音楽や配信とかの趣味に集中!……なんてことももちろんできますけど、トラブルには注意……ですね。

 味覚や嗅覚、触覚なんかの他の五感も自分の意志に応じて機能を強化したり、遮断したりできるんです。使い所は美味しいものを味わうときなんかに限られる気がするけれど、意外にも目利きやソムリエ、食品製造なんかも、この機能に与かってるところがあるみたいです。捨てたもんじゃないんですね。

 というより、この技術S.T.A.R.S.を使った私達の生活にかかわらない要素のほうが少ないかもしれません。医療の現場でも麻酔の代わりに部分感覚遮断スクリプトが使われたり、医師のカウンセリングや問診も仮想空間上で行われる。他にも教育、政治、ビジネス、治安維持、建築、衣食住から私の好きなゲームなんかの娯楽なんかにまで、ダ・ヴィンチさんもびっくりの万能っぷりですね。そんな我々の新しい期待の「星」、それが、S.T.A.R.S.と、いうわけなのです。

 こぼれ話ですがこの技術を作って世界に広めたまさに神様のような存在、天下の「イグルーコーポレーション」のCEO!天才・氷室一ひむろはじめさんはホログラム技術やVR空間を応用して会社をまとめあげて、ベッドで眠りながら巨万の富を築いているそうな。時代は変わりましたねぇー、と感じる一方でまさしく雲の上の話、気が遠くなりますね。

 ーでも。彼が作った今の社会は、認識のツギハギだらけでどこかチグハグな気がします。

 ……あ!自己紹介が遅れました……わたしは七橋凜花ななはしりんかといいます!

 このレポートは大学の課題でして、「近代の社会の変化についての所感を個人の視点でまとめてプレゼンしろ」というものです……。

 こんなのまとめさせて何に使うんでしょう?……って、ぼやいても誰も聞いてないかぁ。

 音声ログ終了!っと

 ー2075年5月2日 音声ログ_七橋凜花

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