雨降り部下の癒やし方

睦 ようじ

ウチの部下は雨で休む。

 雨は嫌いだ。

 街をぶらつく事もできなければ、釣りもできない。

 雨のせいで電車は時間が遅れるので、早出である。

 曇り空のオフィスはどこかどんよりしてて何か嫌だ。

「えーと、今日はKADコーポレーションと天海工業に……」

 打ち合わせ先のスケジュールを確認していると、私の携帯に電話が鳴った。


「もしもし」

『……あ、あのおはようございます、中山です』

「おはようございます、どうしました?」


 少しの無言の後、

『あ、雨なんで今日欠勤してもいいでしょうか?』

 またか、と思った。

「良く雨が降りますね」

『は、はい。今月は降ったり止んだりでして』

「いい加減にしてほしいくらいですね」

『……』

「雨は嫌いなんでとっとと止んで欲しい、私もそう思います」

『あ、あの……』

 私はため息を吐いた。


「中山さん」

『はい』

 中山さんは怯えた声を出している。


「いかがでしょうか、1ヶ月まとめて休みませんか?」


『……』

「怖いですか?」

 わずかに涙ぐんだ声が聞こえる。

『私は……会社のお荷物でしょうか?』

「いいえ」

『……』

「私は貴方の病について分かるワケもないし、正直分かりたくもないです」

 中山さんが泣き始める。


「ですが」

 スマートフォンを握りしめる。

「私は怒ってます。貴方の可能性を潰したこのクソ会社を」

『……』

 中山さんの息をのむ声が聞こえる。

『課長ってそういう言葉遣いするんですね』

「えぇ。私、元ヤンなので」

 吹き出す声に少し安堵する。


「まずは、お休みください。

 あぁ、いらぬお節介かもですが、近くに散歩するくらいならいいでしょう」

『実は……寝てなくて』

「無茶はいいません。目を閉じていいくらいに思っててください。

 後は専門外なので、お医者さんにおまかせ致します」

『そう、します』

 中山さんの声がかなり落ち着いてきた。

「中山さん」

『はい?』

 私は大きく息を吸って、静かに声を出す。


「やまない雨はありません」


 少しの間、無言。

『クサい台詞吐きますね』

「おや?私、この言葉で妻が結婚を決めてくれたのですが」

『いや、奥様が寛大なだけかと』

「うーむ……」

『あ、でもありがとうございます。ちょっと眠気が来たので寝ます』

「そうしてください、後、間食ばかりしてはいけませんよ」

『分かりました。必ず1ヶ月で戻りますので』

「はい、それでは」

 電話は切れた。



「どうしたものか……」

 彼女は優秀な営業だったが、自分で抱え込んでしまった。

 真面目さゆえの自滅。そうとも捉えられかねない。

 しかし、そういう言えないような環境を作ってしまった会社や自分にも問題があるのでは無いか。そう思えるようになった。

「まぁ、気づかなかった私も部下への監督不行き届けでしょうし」

 自嘲の声を出して、文章ソフトを立ち上げる。

「そして、部下の声に報いるのも上司の務めでしょうね」

 そう言って彼女の復帰支援のための簡単な仕事割り振りを考えはじめた。

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雨降り部下の癒やし方 睦 ようじ @oguna108

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