【捜索記録】1
今、私は大分に来ています。くもりさんが住んでいた県です。あとから確認したとき、動画内で「大分観光名所」という看板が映り込んでいたので気づきました。大きな進歩です。
まず、誰に話すわけでもありませんが、この報告書に懺悔させてください。私はくもりさんの捜索のためにここまで来たはずなのに、観光を楽しんでいました。くもりさんが生活していた地域だと考えると、とてもテンションがあがってしまって、全く関係のない飲食店やお店に行ってしまいました。買い物もしました。私は最低です。人間失格なくらい最悪な人間でした。くもりさん、ほんとうにすみませんでした。
改めて、くもりさんの捜索に戻ります。これからはきちんと捜索だけに集中します。飲まず食わずでも、成果が得られないのなら我慢して探します。さっきまで真剣に探していなかった自分への罰です。それが、ただのファンである私がくもりさんにしてあげられることなので。
とにかく、くもりさんの痕跡を追うには、くもりさんがどこに住んでいたのかを特定しなければいけません。片っ端からアパートやマンションを見て回りました。
くもりさんがアパートかマンションに住んでいることはわかっています。動画を見返して窓の形やカーテンに透けた外の景色を見たとき、窓はマンションやアパートにありがちな形でした。窓の外の景色も少し高い位置に見えました。くもりさんの家は少なくとも二階だと思います。一人暮らしをしているので、二階建ての一軒家に住んでいる可能性は少ないですが、一応はそれも視野に入れています。私の勝手な決めつけでくもりさんの痕跡を逃したら大変なので。
捜索方法は簡単です。
「くもりさんどこですか」
「くもりさん知りませんか」
と呼びかけながら歩き回ります。
最初は少し恥ずかしくて小声でしたが、だんだんと勇気が出て大きな声を出せるようになってきました。こんなに大きな声を出したのは人生で初めてだと思います。ご老人から怪訝そうな目で見られましたが、私の決意は揺らぎません。くもりさんはどんなときでも私を成長させてくれます。
ただ、平日に来てしまったので、人が少なかったです。すれ違うとしても、散歩中と見られる高齢な方ばかりでした。くもりさんと同年代のような人の方が話を聞きやすかったのですが…高齢者に突然「vlog動画を投稿していたくもりさんを探しているのですが」と声をかけても、そもそもvlogすらわかってもらえなさそうです。こんなふうに人が少ないのは予想できていましたが、くもりさんが今もどこかで家に帰れずにいるんじゃないかと思うと、いても立ってもいられなかったんです。私はくもりさんに助けられたので、恩返ししなければいけません。今こそ、私がくもりさんを救うときだと思うんです。
午前中は大分の住宅街を練り歩きました。私の住む地域とは違った町並みで、土地勘もなくわからないのでとにかくまっすぐ歩きました。それでもめぼしい収穫はなく、ただの一人旅の散歩のようになってしまいました。結局、くもりさんに関する情報の一つも見つからないまま十二時になりました。
お昼ご飯は食べずに一時までマンションやアパートを探したあと、警察署に行きました。「失踪した人を探してもらうことはできますか」と聞いた時点では真剣に話を聞いてもらえましたが、私が「動画投稿者なので、詳しい住所や名前はわかりません」といった途端に反応が悪くなりました。なんとか食い下がってくもりさんのことや、くもりさんがどれだけ素晴らしい人かを説明しましたが、説明すればするほど伝わらず、最後はいたずら目的だと勘違いされて追い出されました。警察を信用できなくなりそうです。それでも私は一人でくもりさんを探します。まだ心は折れていません。だれも信じてくれなくても、くもりさんを探します。それが今の私の使命だと思うからです。
午後からは少し方法を変えました。マンション、アパートだけに絞り込み、あまり良くはありませんが窓を覗き込むようにしました。それでもくもりさんの部屋なのかはわかりません。カーテンがよっぽど透けていないと部屋の中は正確には見えないんです。わざわざ部屋の中を見せびらかす人もいませんし。これまでに挙げた資料は、とにかくがむしゃらにネットを調べれば見つかりましたが、名前すらわからない人の家を探すのは難しいです。くもりさんの部屋の捜索は難航しました。
三十分くらい経った頃、道を歩いてたおばさんに怒鳴られてしまいました。「さっきから変なことばっかりして…!通報するよ!!」と、かなりヒステリックな様子で怒鳴り散らしていました。私は真摯にくもりさんを探していることを説明しましたが、おばさんは理解できていないようでした。この人は少し頭がおかしくて、だから私にも怒鳴り散らしてくるんだな、可哀想な人だなと思いました。ですが、わたしはくもりさんを探さなければならいので、この人に構っている場合ではありません。それに、このヒステリックなおばさんをみていると怖くなってきました。
「また同じことしたら通報するからね!」
おばさんは歩いていく私に向かって叫んでいましたが、「そういう人なんだな」と思って気にせずに捜索を再開しました。
しばらくした頃、パトカーのサイレンが聞こえてきました。まさかあのおばさんが本当に通報して、警察も話を信じてしまったのかもしれません。もしかすると、都合よく話を作って私を悪者にしたのかもしれません。いろいろな考えが頭に浮かびましたが、とにかく今何をするべきかは一瞬でわかりました。私はパトカーが近づく前に狭い路地へ隠れました。私のしていることは何も間違っていませんし当たり前のことですが、今捕まるわけにはいきません。くもりさんを探す時間がなくなってしまいます。それに、もし警察があのおばさんの言う事を信じてしまったら大変です。私の方が頭のおかしな人にされてしまいます。
しばらく近くを巡回したあと、パトカーは離れていきました。私はほっとして路地裏から出たあと、あのおばさんに遭遇しないように気をつけて住宅街を離れました。私はただくもりさんを心配して探しているだけなのに、初っ端から散々な目に遭ってしまいました。やっぱりネットを駆使して探す方が現実的なのかもしれません。
その後はビジネスホテルに入り、スマホでくもりさんに関する情報を探しました。ベッドに寝転がって探すのはなんとなく不真面目な感じがしたので、きちんと椅子に座ってから検索し続けました。そのときに、気になるブログや動画を発見したので後日載せます。その情報は、くもりさんが言っていた「瞬間移動しているように見える人」、そして炎上したSNSの投稿にあった「人を轢いたはずなのに何もなかった」に共通しているように見えました。やっぱり探してみるものですね、ネットにならこんなに情報が転がっています。
今夜は徹夜してくもりさんに少しでも近づけるような情報を探します。明日以降にいい報告ができるように頑張ります。今日はうまくいきませんでしたが、また明日もくもりさんの家を探そうと思います。あんなことがあって若干心も折れかけましたが、やっぱり逃げ出すわけにはいきません。どうしてもくもりさんに会いたいんです。会ってもいないのに、これで終わりなんてあまりにもひどいです。許せません。だから私はくもりさんを探します。
探してください かさね @KASANE00
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