氷山の隣席と距離を置く百の方法

夏目よる (夜)

第1話 氷山の隣席と距離の掟

四月の桜が丘高校、ピンクの桜の花びらが雪片のように校舎の廊下に舞い落ちていた。


長谷川悠太はランドセルを背負い、授業のベルが鳴る最後の一秒に二年A組の教室に忍び込んだ。彼は慣れたように教室の後ろの窓際の席に歩み寄り、ランドセルを置いた瞬間、ほっとため息をついた。


「フフ、遅刻寸前だった」


悠太はつぶやきながらランドセルから教科書を取り出し、ついでに机をさらに五センチ窓側に移動させた——これが彼の「安全距離」の第一歩で、周りのクラスメイトからなるべく遠ざかり、不要な社交を避けるためだ。


悠太が掲げるのは「低欲望学園生活則」だ。部活に入らず、クラスメイトに話しかけず、学園のゴシップに巻き込まれず、成績は中流に維持するだけでいい。要するに「透明人間」になるのが彼の究極の目標だ。


社交などというものは、時間を浪費するだけでなく、トラブルを引き起こしやすい。悠太はこれに深く感じていた。高1の時、彼は無心に委員長の手伝いをしただけなのに、それからクラスの様々なイベントに引き込まれ、一整年静かな日々を過ごせなかった。


だから今学期が始まると、彼は早くも心の中で「学園透明人間計画」を立てた。その核心は誰とも少なくとも一米の安全距離を保つことだ。


「長谷川くん、ちょっと待って!」


担任の佐藤先生の声が突然響き、悠太の体は一瞬硬直した。彼はゆっくり振り返り、顔に「社会不安症風の作り笑い」を浮かべた。


「佐藤先生、なにか用ですか?」


佐藤先生は席替えの表を持って彼の前に歩み寄り、笑顔で言った。


「今学期は身長と成績に基づいて席替えをするんだ。君は第三列の真ん中の席に移ることになった、綾瀬くんと隣席だ」


悠太の瞳は劇的に収縮し、まるで晴天の霹靂を聞いたようだ。


綾瀬くん?綾瀬雪緒?


その全校的に有名な氷山の美少女?


悠太は無意識に教室の第三列の空席を見た。席の隣には一人の少女が座っていた。肩までのショートカットで、前髪の切れ毛は緑色のカチューシャで留められ、肌は雪のように白く、眉目は精巧だが、人を千里の外に蹴り出すような冷たさを帯びていた。


彼女こそ綾瀬雪緒で、成績は常に学年一位を独占し、体育も万能だが、どんな部活にも参加せず、クラスメイトともほとんど話さない。悠太よりも徹底的な「透明人間」だった。ただ彼女の「透明」は、誰も近づけないからだ。


「先生、席を替えてもらえませんか?」


悠太は抗おうとした。


「後ろの席に慣れていて、それに……」


「ダメだよ」


佐藤先生は彼の肩をポンと叩いた。


「これは総合的に考えた結果だ。綾瀬くんは成績がいいから、君は彼女に教えを請うことができる。さあ、早く移動しなさい」


悠太は佐藤先生の拒否できない眼差しを見て、心の中で嘆き、覚悟を決めて机を片付け始めた。


周りのクラスメイトは同情の目で彼を見て、ささやき声が聞こえてきた。


「長谷川は可哀想だな、綾瀬雪緒と隣席になっちゃって」

「綾瀬くんは誰とも話さないって聞いたよ、前に男子生徒が話しかけようとしたら、一目で睨み返された」

「長谷川の透明人間生活、終わりだな」


悠太はこれらの議論を聞かないふりをし、机を抱えて一歩一歩第三列の席に移動した。彼は机を綾瀬雪緒の隣に置き、意図的に十センチ横に移動させ、二人の間に十分な「安全距離」を確保した。


綾瀬雪緒は目を少し上げて彼を一瞥し、また頭を下げて本を読み続け、何の反応も示さず、身の回りに突然現れたこの人間をただの空気のように扱った。


悠太はほっとしたと同時に、心の中で新たな計画を立て始めた——『氷山の隣席と距離を置く百の方法』。


第一条:相手が先に話しかけない限り、主动的に話しかけない。

第二条:机同士は少なくとも十センチの距離を保ち、絶対に境界線を越えない。

第三条:授業中は相手を盗み見ず、放課後はすぐに席を離れ、二人きりになるのを避ける。

第四条:相手から助けを求められたら、できるだけ簡潔な言葉で応え、深く交流しない。

……


悠太はこれらの掟を心の中で唱え、自分の学園透明人間生活にまた一つの挑戦が加わったと感じた。


一時間目は数学で、先生は講壇で複雑な関数の問題を講義していたが、悠太は聞く気がなく、時々隣の綾瀬雪緒をちらりと見ていた。彼女はまっすぐ座り、ペンを持ってまじめにノートを取り、横顔の輪郭は柔らかく精巧で、太陽の光が窓を通して彼女の髪に降り注ぎ、金色の輪郭を描いていた。


認めざるを得ない、綾瀬雪緒は本当に美しい。冷たく、褻瀬にできないような美しさだ。だが悠太はこの美しさに全く興味がなく、ただ彼女と距離を保ち、静かに今学期を過ごしたいだけだ。


突然、綾瀬雪緒のペンが床に落ち、悠太の足元に転がってきた。


悠太の体は一瞬硬直した。


拾うか、拾わないか?


「距離の掟」第三条によれば、見なかったふりをして講義を聞き続けるべきだ。だが基本的な礼儀から考えると、拾わないのはよくないように思える。


彼が迷っている間に、綾瀬雪緒は腰を曲げてペンを拾おうとしたが、うっかり机にぶつかり、「カタン」という音が響いた。


全班のクラスメイトの視線が彼らに集中し、数学の先生も講義を止めてこちらを見た。


「綾瀬くん、長谷川くん、どうしたの?」


「な、なにもないです」


綾瀬雪緒の頬は少し紅潮し、ささやくように答えた。


悠太も慌てて頭を下げた。


「先生、なにもないです」


数学の先生は彼らを一瞥し、深く追求せずに講義を続けた。


悠太はほっとして、足元のペンを見下ろした。銀色の万年筆で、筆身に精巧な模様が彫られていた。彼はためらいながら腰を曲げて拾い上げ、綾瀬雪緒の机の角に置いた。


「ありがとう」


冷たい声が響き、そっと、まるで風が風鈴を吹き抜ける音のようだ。


悠太は呆然とした。これは彼が初めて綾瀬雪緒の声を聞いた。彼女の声はとても美しく、人と同じように淡い冷たさを帯びていた。


「どういたしまして」


悠太は「距離の掟」第四条に従い、最も簡潔な言葉で応え、すぐに頭を振り向けて黒板を見、彼女を見る勇気がなかった。


彼は感じた、綾瀬雪緒の視線が彼の体に数秒間とどまり、それから戻されたのを。


悠太の心拍数は無性に速くなり、心の中で唱えた。


「落ち着け、長谷川悠太、ただ普通のことをしただけだ、考えすぎるな」


一時間目の授業が終わると、悠太はすぐに立ち上がり、「距離の掟」第三条に従い、席を離れようとした。しかし立ち上がった瞬間、隣の綾瀬雪緒にぶつかり、彼女の手に持っていた水筒が床に落ち、水が一面にこぼれ、制服のズボンにもはねかかった。


「すみません!すみません!」


悠太は慌てて謝罪し、ランドセルからティッシュを取り出そうとした。


「いいです」


綾瀬雪緒は彼を止め、声は依然として冷たいが、微かな慌てを帯びていた。


「自分でやります」


彼女はバッグからティッシュを取り出し、腰を曲げて黙って床の水と制服のズボンのシミを拭いていた。


悠太は彼女の少し不器用な仕草を見て、心の中で申し訳なく思った。結局自分が彼女にぶつかったのだし、「距離の掟」に従えば、もっと注意すべきだった。


「やっぱり俺がやるよ」


悠太は腰を曲げて彼女の手からティッシュを受け取り、素早く床の水を拭いた。


「ごめん、急いだから」


綾瀬雪緒は彼の仕草を見て、何も言わず、ただそばに静かに立っていた。


周りのクラスメイトは皆集まって見物し、ささやき声が聞こえてきた。


「わあ、長谷川が綾瀬くんに話しかけて、手伝ってる!すごく勇気があるね」

「綾瀬くんの顔が赤くなってる、照れてるのかな?」

「二人、なんか似合うじゃん」


悠太はこれらの議論を聞いて、地の裂け目に入りたいくらいだ。彼は素早く床の水を拭き終え、ティッシュをゴミ箱に捨て、すぐに立ち上がって教室を出た。


廊下に立って、悠太は壁にもたれ、大口で息をした。


彼の「距離の掟」は、たった一時間授業を受けただけで、何度も破られてしまった。


どうやら、氷山の隣席と距離を保つのは、思ったよりずっと難しいようだ。


悠太は頭を上げて窓外の桜の木を見た。花びらがまだらに舞い落ちていて、まるで彼の計画を嘲笑っているようだ。


彼はため息をつき、心の中で「距離の掟」を修正した。一条を追加する——突発的な状況に遭遇したら、まず冷静を保ち、交流を引き起こす可能性のある行動を避ける。


だが彼は知らなかった、この意図的に立てられた距離の掟は、未来の日々の中で何度も破られ、彼と綾瀬雪緒の間の距離も、これらの意外な出来事の中で少しずつ縮まっていくのだ。

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