【プロローグ】
春の陽光が優しく街路樹を照らす朝、桜ヶ丘高校の校門前では生徒たちの賑やかな声が響いていた。制服姿の少年少女たちが笑い合いながら登校する中、一人の少年が息を切らして駆け込んでくる。黒髪が少し乱れ、鋭い目つきが周囲を威圧するように見える彼は、佐藤健。いつも通り、遅刻ギリギリの到着だ。
「またかよ、佐藤。毎朝毎朝、何やってんだよ」
クラスメートの田中裕太が、健の肩を軽く叩きながらからかう。健は苦笑いを浮かべ、息を整えながら答える。
「いや、ちょっと道中でね。ま、気にすんなよ」
健の目つきは生まれつき鋭く、睨んでいるように見えるため、学校では「街で悪さしてるんじゃないか」との噂が絶えなかった。実際、街中で喧嘩をしている姿を目撃した生徒もいる。だが、真実は違う。健は通学途中で困っている人を見かけると、つい助けてしまうのだ。今日も、道端で転んだおばあさんの荷物を運んだり、迷子になった子供を警察に連れて行ったり。そんな善意が、毎日の遅刻を生む。でも、それを学校の誰にも知られたくない。知られたら、照れくさくてたまらないから。
一方、隣のクラス2-Bでは、鈴木あかりが窓辺でノートを広げていた。長い黒髪をポニーテールにまとめ、大きな瞳が優しく輝く彼女は、学校のアイドル的存在。勉強は学年トップ、テニス部ではエースとして全国大会を目指す。誰にでも優しく、クラスメートの高橋美咲がノートを忘れたと言えば、すぐに自分のを貸す。そんなあかりの日常は、穏やかで充実していた。だが、ある日の下校途中で、それが少し変わり始める。
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