世界を制したプロゲーマー、生まれ故郷のような過疎ゲーに復帰したけど、当時一緒にプレイしていた女の子がランキング一位になっていたし、なんならギャルになっていた。
フリオ
第1話 過疎ゲー①
五人で持ち上げた巨大なカップの重たさは今でも覚えている。
一か月前、僕が日本代表のプロゲーマーとして世界を制した『スターアニス(STAR ANISE)』は5vs5のVRMOVAという世界でも人気のゲームジャンルであり、世界大会の優勝賞金は5億円に設定されていた。過酷な日本予選を勝ち抜き、弱小ロースターとして世界大会ではダークホース的な立ち位置にいたのだが、蓋を開けてみれば僕たちのチームは無敗でリーグを勝ち上がり、ダブルイリミネーションのトーナメント方式でも一度も負けずに無敗のまま優勝を果たした。
プロゲーマーとして活動する上で僕には目標があった。それは妹が高校に通うための入学金を稼ぐというものだ。ついでに僕も大学に通えたらいいななんて思っていたのだが、世界大会を制したことで優勝賞金をたくさん頂くことになり、その目標も達成することができた。まあ要するに僕にはもうプロゲーマーとして活動していくための目標がなくなったわけだな。
マネージャーにプロゲーマーを引退すると伝えたのが一週間前のこと。オーナーからはしつこく引き止めがあったのだけど、もう燃え尽きてしまっていた僕は、契約更新を待たずに競技者としての活動に終止符を打った。契約の書類にハンコをポンと押して、これで僕はどこにでもいる普通の高校生ゲーマーになった。
「アオイがいてくれたら連覇も夢じゃないんだけどな」
オーナーのおじさんはとても残念そうに呟いた。ゲームの世界大会で優勝するのはおじさんにとっての悲願だったから、その夢を叶えた僕たちに対する思い入れは人一倍強いのだと思う。
「僕より優秀なサポーターはいくらでもいますよ。それに海外選手と比べてハングリー精神に劣る僕は、きっと一年で追いつかれる。すぐに通用しなくなりますよ」
「コーチなんてどうかな? まずはアカデミーから」
「考えておきます」
若者の夢を応援することが趣味のおじさんは、これ以上僕を止めることはなかった。
◇◇◇
僕が人生ではじめてプレイしたゲームはおそらくポケモンのミニゲームか何かだったと思うけど、人生で一番ハマったゲームといえば『ゴッドペア』というシンプルな名前のVRバトルロワイアルゲームだった。プレイヤーは二人一組のペアになって広大なマップに降り立ち、50ペアの中から最後の1ペア、つまりゴッドペアを目指して戦いを繰り返すという内容で、中学のときはこれにどっぷりとハマっていた。
フルダイブ型VRゲームのなかでは黎明期の作品で、のちに出てくる名作のタイトルに埋もれて日本で流行することはなかったし、現在では試合のマッチングに30分くらいかかるなんて噂を聞いているけど、僕にとっては青春を共にした神ゲーで間違いなかった。自分で言うのもなんだけど、その頃からフルダイブ型のゲームセンスが抜群で、ランクも上位に属していたし、小さなコミュニティの中ではぶいぶい言わせていたのを覚えている。
そんな『ゴッドペア』を妹がプレイしていた。どうやら妹世代の子供にはカリスマ的な人気を誇っている有名なインフルエンサーが『ゴッドペア』を積極的に宣伝しているらしく、若者世代では少しだけ注目を集めているらしい。そんな説明を妹から聞いて昔のことを思い出した僕は、久しぶりに『ゴッドペア』のアカウントを起動した。
三カ月に一回シーズンが進む『ゴッドペア』で実に、十一シーズンぶりの復帰だった。当時の雰囲気から変わっていないロビー画面ではランダムに集められたサーバー内のプレイヤーと交流することができるのだが、そのロビーにいたほとんどのプレイヤーがなんだか近寄り難い雰囲気を纏っていたと思う。その暗い雰囲気を見れば、まあ過疎るのも分かるな。
「君。復帰勢かな?」
ロビーの端っこの方に座ってフードを被ってマッチング待機していると、ギャルっぽい見た目の女性プレイヤーが話しかけてくる。水着の上からスケスケのシャツを着ているような戦場に立つとは思えないようなファッションだが、立派な称号を携えているので、過疎っているなかでもプレイし続けたこのゲームに残っている猛者の一人だろう。
「分かるのか?」
「そりゃ分かるよ。その格好、かなり前のシーズンの流行だもん。そんな格好している人、復帰勢しかいないよ」
「そうか」
たしかに僕は数シーズン前のイベントで上位に入賞した際に貰えたフード付きのレッドコートを着ていた。当時はこれを着ているプレイヤーが猛者であるという証明になっていたので最先端のファッションだったんだけど、どうやら少し時代遅れだったようだ。アバターを着飾ることにあまり執着がなかったので、僕はずっとこのレッドコートを着てプレイしていたのを思い出す。
「まあせっかく復帰したんだから楽しんでよ」
ギャルはそう言って水鉄砲で僕のおでこを撃つ。
「じゃあね」
手をひらひらと振ってどこかへ行ってしまった。なんだったんだ? と疑問に思っていたのだが、ギャルがどこかへ行くと同時に、近くにいたこれまた称号をたくさん身に付けた男性プレイヤーが僕に話しかけてくる。
「おいお前! あの人と知り合いなのか!?」
「いや? 初めて話したと思うけど」
「あの人はな、日本サーバーのランキングで一位のプレイヤー【スライムいつもありがとう】だぞ!」
「【スライムいつもありがとう】?」
ヘンテコなユーザーネームだなんて思うが、今日までずっと過疎ゲーをプレイしていた奇特な人間が考える名前なんてヘンテコで当然だった。というかサーバーランキングの一位だからって大袈裟じゃないか? 僕が昔一位だったときは、へーすごいですね、くらいの反応しかもらえなかったと思う。
「スラいつさんから話しかけられるなんて運がいいなお前」
「そうか? ゲーマーとしては会話じゃなくて、ぜひ対戦したいと思うけどな」
「おお……。何かカッコいいなお前」
煮詰まり切った過疎ゲーのランキング一位だ。
きっと想像を絶する猛者に違いない。
競技を離れて半年になるけど、強いプレイヤーと戦うときの高揚感はまだ残っていた。
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