黄色い記憶
perchin
黄色い記憶
BGM:
https://suno.com/s/L3s0uRedDsa7kTXI
父の卵焼き。
父の作る卵焼きは、いつも少しだけ形が悪かった。
巻きが甘くて崩れそうだったり、崩れていたり、焦げ目がつきすぎていたり。
味付けも日によってまちまちだ。砂糖が多かったり、塩っぱかったり。
でも、それが僕にとっての「普段の味」だった。
母がいない日曜日。
台所から油の爆ぜる音と、甘い匂いが漂ってくる。
不器用な父が、菜箸を握ってフライパンと格闘している背中。
食卓に並ぶ、歪な黄色い塊。
それを口に運ぶと、じゅわりと出汁と砂糖の甘みが広がった。
そういえば、運動会の日。重箱の隅には、必ず父の卵焼きがあった。
父の、無骨な応援だった。
風邪を引いて寝込んだ日。おかゆの横に添えられた卵焼き。
食欲なんてなかったけれど、それだけは食べた。
受験に合格した日。失恋して泣き腫らした翌朝。
楽しい時も、悲しい時も、辛い時も。
僕の人生の節目には、いつもあの不格好な黄色があった。
あれから、随分と時間が経った。
もう、あの味を食べることはできない。
深夜のリビング。
ハンガーに吊るされた、真新しい制服が目に入る。
明日は、息子の入学式だ。
あいつにとっても、明日が人生の節目になる。
僕は冷蔵庫を開けた。
卵パックが一つ。
「……卵焼きでも作るかな」
BGMは、sabamisony様のフンソング企画にて作成いただきました。
黄色い記憶 perchin @perchin
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