世、妖(あやかし)おらず ー厭世の虹夢ー
銀満ノ錦平
厭世(えんせい)の虹夢(こうむ)
私は今1番この現代という時の中で、空に近い場所にいる。
別に死に急いでいる訳ではない。
空を見たいのだ。
空の青は何物も寄せ付けない…どんな色も染み付かない純粋とした青天の色に私は目眩がしそうになる…。
…陽の光のせいかもしれない。
太陽の光は純粋が故に誰にも完全に遮ることなど出来ないし、光自体を汚し穢す事など出来るはずがない。
だからきっと陽の光を浴び過ぎて体調が悪くなってしまっただけなんだろう…。
それでも私は空を見続ける。
空の青は最低でも私が生きている限りは永遠だが、雲はそうもいかない。
雲は気体なので動けば形は崩れていく。
目で見る限りだと固体なのではと疑ってしまう程の塊でさえ中に入れば唯の気体でしかないのだから…私はこの変わりゆく天気をまじまじと眺める事で、今この時にしか原型を留めない雲の形をこの目で記憶するわけだ。
しかしそれこそ天気なんて気まぐれなもので、晴れの日が続くなんてあるわけなく…その日の午前中は雨が降っていたが、それでも私は外に出て空を眺めた。
いつも綺麗で一面青色の空がこれもまた視界一面にどす黒い雲が覆われていて、それはもう遠くを見ても途切れることのない雲に私は、少し興奮を思い起こした。
当たり前である。
だって純粋な青色がこれまた純粋な隙間無き気体に遮られてしまっているのだから…。
それはもう笑った。
この世の純粋で清純が汚され穢され、地に足を付く者共、海の中で外の空気を吸えぬ者共を嘲笑うかの様に雷の音を高々と鳴らし、笑い泣きで大量の雨を放出している。
勿論、これは本当に雨雲に感情を持ち合わせているなどという戯れ言を述べているわけではなく、あくまで私の感性が勝手に脳に情報を与えてしまっているが故の間違いで場違いで…そして気味の悪く下らない妄想でしかない。
それでも私の感情と感性は、死なない限り治ることがない…これは謂わば手足を自然に動かす様に、将又外出の際に当たり前に服を着る様に…当たり前で自動的に行う行為なのだ。
しかしそんな不純な感情を持つ私がこの純粋な空を見渡す権利などあるのだろうかと意味の無い自問を永遠と繰り返し、そして出るはずの無い答えを探している…何とも可笑しいとしか思えない。
だから晴れより曇天の空を眺める方が好きなのである。
空も汚れ、私と同じく穢れに浸っているこの景色に雨と共に共感も帯びていっそ清々しい気持ちに私も浸っていく。
楽しいのだ。
面白いのだ。
愉快で可笑しくて…。
出ない涙を雨に変えて、嘲笑っているこの雨模様に…。
だから、このまま、この光景のままに世界は止まって欲しかった。
それに今、丁度どんよりと動いている雲の形状がとてもお気に入りでその形を崩して欲しくなかった…。
しかし…矢張り天気は気紛れなのだ。
雲は動く…風に向かう先と共に…。
そして雨も止み…隙間から溢れる陽の光が穢れている私を照らしてくる。
嫌がらせなのではと思う程に…それでも私は空を見た。
雨上がりの後なのかうっすらと七色の架け橋が浮かび上がってくる。
あぁ…私が一番嫌いな気象現象だ…。
私は虹に嫌悪感を持つ。
まるで着飾っている色をしているし、これが自然現象だという事も信じられない。
もし私が周囲に虹が嫌いなんて言いおうものなら、きっと馬鹿にされるか貶されるか…だからこの気持ちだけは胸に留めといてる。
それでも、私はあの七色がまるで彼処に向かえば極楽浄土へ向かえると主張しているかの様に…昆虫が光へ集まる様に…何処か気に入らなかった。
そう…私はあの虹を見る度に登りたくなる…だから嫌いなのだ。
人なのだからもし空中に浮かぶならジェットパックか飛行機か…。
それか…そう、この身体を捨てるしかない。
捨てたくない…捨ててはいけない。
まだ私はこの足を地に付けた人生を送りたい。
送りたいが…あの虹を見ると私の精神の黒い部分が彼処に向かえとほざいてくる。
黒い部分が多分本来の私の本音だと感じている。
寧ろ虹に惹かれているのが自分自身だとはっきり述べているのだ。
グダグダと結局話したが、本当は虹が好きなんだ。
好きだけど嫌いなのだ。
嫌悪感と感極待った感情が渦巻く。
今日も結局ずぶ濡れになって虹が出来るのを待ったが近場に来る事はなかった。
あと一歩…あと一歩…私があの虹に届く距離…。
届いてほしい…地に足を付けるのがこの世なら、あの虹に足を付ければ…あの世なんだろうな…。
私はまた空を見る。
雨が降ろうが。
雪が積もろうが。
青天の晴れ模様に照らされようが…。
虹が私の目の前に現れ、一歩前進させてくれるまで私は空を見続ける。
今日もまた…空は晴れている。
世、妖(あやかし)おらず ー厭世の虹夢ー 銀満ノ錦平 @ginnmani
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