適合者として選ばれた俺はみんなを守るヒーローを目指します
@nooobMRN
第1話
「ありがとうねぇ、助かったよ」
「助かりました……迷子で、本当に……」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「ニホンジン、トテモ、シンセツ! アリガトウ! アリガトウ!」
横断歩道の脇で、おばあちゃんが深く頭を下げる。
その隣では、さっきまで泣いていた子どもが、母親の腕にしがみつきながら、何度も小さく頷いていた。
外国人観光客は満面の笑みで親指を立て、何度も礼を繰り返している。
「いえいえ。皆さんお困りのようでしたので!」
蘭堂悠真はそう言って、道に迷っていた外国人と笑顔で握手を交わした。
人助けは特別なことではない。困っている人がいれば、自然と体が動くだけだ。
――次の瞬間。
「……って、やっば! 遅れる!!」
叫ぶと同時に、悠真は踵を返した。
人混みを縫うように走り出す。胸元の校章が、朝の陽を受けてきらりと反射した。
国立帝都能力開発機構教育学園。
通称、帝都学園。
この国で“適合者”と判定された者が進む、ほぼ決まった進路だ。
入学は拒否できない。だが条件は悪くない。学力や家庭環境を問わず学費は免除、寮完備。卒業後は公的機関への配属が約束されている。
求められるのは、ただ一つ――適合者であること。
校舎が見えてきた。
白く、大きく、国の予算を惜しみなくつぎ込まれた建物。
近代的でありながら、どこか要塞めいた印象もある。
「たしか、新入生は直接、大ホールだったよな……」
息を整えながら案内表示に従う。校門から近く、どうやら間に合いそうだった。
「うぉっ……結構、席埋まってるなぁ」
空いている席を見つけ、悠真は腰を下ろす。
新入生は六十名ほど。在学生の席も同程度あるが、ところどころ空席が目立つのが気になった。
――その時。
「静粛に! 定刻により、入学式を開始する!!」
鋭い女性の声が響いた瞬間、ざわついていたホールの空気が一変した。
赤いポニーテールを揺らす女性。
スーツ姿だが、鍛え抜かれた身体であることは一目でわかる。
ただ立っているだけで、場を制圧する圧があった。
続いて壇上に現れたのは、柔らかな笑みを浮かべた老紳士――学園長だった。
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。帝都学園の教職員を代表し、心よりお祝い申し上げます」
穏やかな口調で語られる祝辞。
ここに集った者たちは、HEARTの適合者として選ばれ、近年激化しているテロ組織や武装国家に対する国防の要として期待されていること。
この学園での学びと経験が、この国の未来を担う力になること。
式辞は簡潔で、滞りなく終わった。
「以上で入学式を終了する。新入生はこのまま待機。在学生は退場しろ」
指示とともに、在学生と教職員が次々にホールを後にする。
やがて残ったのは、新入生と数名の教員だけだった。
赤髪の女性が、一歩前に出る。
「いいか。これより、HEART起動によるクラス分けを行う。配布の前に説明しておく」
手に掲げたのは、黒いグラスのような器だった。
鈍く光を反射し、どこか生き物のような存在感を放っている。
「これがHEART。正式名称は Human Emotion Adaptive Relic Translator。長いから覚えなくていい。呼び名は“ハート”だ」
一拍置いて、続ける。
「簡単に言う。人の願望を読み取り、力に変換する装置だ。
願望の種類は問わない。いや、正確には――問えない。
そして、強く願うほど出力は上がる」
ホールが、静まり返った。
「HEARTは翻訳機だ。お前たちの内側にあるものを、読み取り、出力する」
最後に、声が鋭く引き締まる。
「そして出力した力で国を守り、外敵を殺せ。その力を得て研ぎ澄ますこと――それがお前たちの責務だ」
言葉が落ちた瞬間、空気が変わった。
祝福の場は、はっきりと“選別の場”へと姿を変える。
「以上。これから一人ずつ、認証と初期起動に入る」
誰もが息を呑んだまま、動けずにいた。
「はーい、じゃあ配っていきますね~」
場違いなほど軽い声が割り込む。
ぼさぼさ頭に白衣、眼鏡の男が器を配りながら話し始めた。
「起動、って言ってください。そうすると、ちょうどいいサイズの剣になります。まだこの段階では普通の剣なので安心して――あ、でもめちゃくちゃ切れるから気をつけて。あ、ぼくは伯井。HEARTの研究者で、保健室担当です。ケガしたらいつでも来てね。あ、あと採血だけちょっと――」
ゴン、と鈍い音。
赤髪の女性が、伯井の頭を叩いた。
「伯井。話が長い。進めるぞ」
「マオちゃんごめんね~」
軽く流して、女性――マオは新入生を見渡す。
「全員、起動はできたな。その状態でも魔力は消費する。解除するか枯渇すればアクセサリー形態に戻るが……今はそのままでいい」
会場の扉が閉まり、重厚な鍵の音が響く。
「クラス分けは簡単だ」
マオは、淡々と告げた。
「全員、死なない程度に可愛がってやる。全力で抵抗しろ。逃げることと、抵抗をやめることは許さん」
起動。
その一言と同時に、マオの手に黒く、美しい刃が現れる。
露に濡れたような剣身。圧が、一気に膨れ上がった。
――勝てない。
――死ぬ。
誰もが同じイメージを脳裏に浮かべた、その時。
「マオちゃんせんせー! 質問いいっすか!?」
空気を読まない声。
誰もが「終わったな」と思ったが、マオは意外にも応じた。
「なんだ」
「もし、マオちゃんせんせーに勝ったら、特待生とかになれんの?」
一瞬の沈黙。
そして、マオはふっと笑った。
「そうだな。飛び級でも、授業免除でもいい」
刹那。
「――じゃあ、始めるぞ」
次の瞬間、マオは軽く跳ねるように間合いを詰め、空中で姿勢を保ったまま鋭い蹴りを放つ。
男子生徒の身体は美しい放物線を描き、壁に叩きつけられた。
床に落ちた彼は、動かず、喋らない。
マオは、淡々と告げる。
「まずは一人。」
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