お祭りから帰れない

ナナマル

第1話 お祭りから帰れない

額ににじむ汗をハンカチで拭いながら駅前を歩く。警官がところどころ配置され、交通規制が敷かれている。

今日は祭りの日らしい。こんな日は、早めに客先を回って帰ったほうがいい。

準備しているのであろう、ソースや甘い綿あめの匂い。子供のころよく行ったな。


「早く行こうぜ!」

「俺、今日は小遣いたくさんもらってきた!」

「いいなぁ!俺、千円しかねぇよ!」


放課後に一緒に遊ぶ友人と、街の鎮守の神様のお祭りに出かけた日。

あの日も風がなくて、蒸し暑かったっけ。


「おい、早くしろよ!」


友人のせかす声。何とかたこ焼きの屋台にお金を払って振り向く――

笑った顔がそのまま固まった。

一緒にいたはずの友人たちの姿がなかった。

のどにこみあげてくる熱い塊を飲み込みながら、友人たちを探す。

だが、探しても探しても友人たちの姿は見当たらなかった。


この人混みだ。友人たちも自分の姿を見失ったんだろう。そう納得させて、家に帰ることにした。


――ここどこ?


探すうち迷子になったのか、見覚えのない道、見覚えのない建物に囲まれていた。相変わらずにぎわっている屋台が今は煩わしい。

ふと、屋台の間に通れそうな隙間を見つける。ふらふらと隙間に身を滑り込ませた。


近くに他の神社なんてあったっけ?


数歩足を前に進めたところで、石でできた柵、その中に鎮守の神社とは違う、こじんまりとした神社が鎮座しているのが目に入った。

神社を見ながら石の柵にそって右に曲がり、そのまま進む。左は屋台の物であろう、商売道具がおかれていたからだ。

石の柵が終わり、ふと前を見ると、見慣れた鎮守の森が姿を現した。

あわてて振り向くが、そこにはもう小さな神社はなく、屋台がひしめいていた。


「あっ!いた!」

「お前どこ行ってたんだよ。」

「急にいなくなるからびっくりしたよ。」

「すげぇ探したんだぞ。」


口々に友人たちに責められる。だが、責めたいのはこっちだ。


「金払って振り向いたら、お前らいなかったじゃん。俺を置いてどこ行ったんだよ。」


一瞬の沈黙。


「俺ら、ずっといたよな?」

「うん、花火が上がってそっち見たけど、次見た時はもういなかった。」


友人たちはずっとそこにいたのだという。でも――


「だって、いなかったんだよ。俺だってすげぇ探したし。全然知らない場所に出たけど、神社に沿って歩いてたらここに出たんだ。」


「鎮守の神社?」


居心地の悪そうな顔で友人が尋ねる。


「ううん。知らない小さい神社だったけど。」


「この辺の神社は鎮守の神社だけだろ。」


皆それ以上話してはいけないような気になって、その日はそれでお開きになった。


そのあとも同じようなことが続いたっけ。高校を出る頃にはいなくなるからって誘われなくなったな。

結局親しい友人はいなくなって、大学からは東京に出たんだ。


最後に祭りに行ったのはいつだっけ。確か――


大学最後の年、就職は東京でするからって実家に帰った時だった。祭りから帰れなくなってたのは何かの間違いだったんじゃないかって、もう成人もしたししっかりしてれば大丈夫なんじゃないかって、そう思って祭りに行ったんだっけ。


祭りは意外に楽しかった。屋台を冷やかして回った。いつの間にか迷っていることにも気づいたけど、どうせ屋台の間を通って石の柵を見つければ帰れるんだし。


そう、いつもの“手順”で帰ったんだっけ。


帰ってからこれは何かおかしい、もう二度と行かないと決めたんだったな。それからは故郷に帰ってない。


そんなことを思いながら歩いていたからだろうか。


――ここはどこだ?


屋台と道行く人々の喧騒に巻き込まれていた。腹の底から湧き上がってくる恐怖。同時に歓喜。


――帰ってきた。


どこへ?


いや、家に帰ろう。ここへいてはいけない。探さなければ。

足を速め、屋台の“間”を探す。額の汗が背中を流れる滝のような汗に変わったころ、それは見つかった。


誘うようにぽっかりあいた屋台の隙間。


体の力が抜けるように息をついた後、その隙間に体をねじ込む。


数歩足を進める。

石の柵。


天を仰いで神に感謝する。

――だが、いつも通るはずの右には商売道具がおいてあった。


なら、左?


左へ行けばどこに着くのだろうか。

ふらふらと左に体を傾け、よろめきながらも右手に神社を見ながら進む。

そろそろか、と正面を見ると


小さい神社の入り口。


鳥居があって、その奥に社殿が鎮座している。

いつもは閉まっているだろう扉が開いているが、ご神体が見えない。


ふらつく足元を叱咤しながら進む。


そうか


あそこが家だった


祭りは俺のための祭りだった


――これからは俺が祭りを開かないとな


口元に笑みを浮かべ、後ろ手で扉を閉めた

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