秘密戦隊カクンダーZ~ 闇バイト怪人を家訓で成敗!古き良き正義が現代悪を叩き潰す~

ソコニ

1話完結『強奪!闇バイト怪人と、掟破りの家訓合体』


プロローグ

「マジで? こんなに簡単に稼げるの?」


スマートフォンの画面を見つめる若者の目が、不自然なほど輝いていた。


画面には、匿名のメッセージアプリに表示された指示が並んでいる。


『ターゲット:○○町3-14の一軒家』

『報酬:即日30万円振込』

『所要時間:15分』

『リスク:ほぼゼロ(マニュアル完備)』


「タイパ最高じゃん……」


若者は、自分が犯罪の片棒を担ごうとしていることに、まるで気づいていなかった。いや、気づいていても、その「効率の良さ」の前では、倫理観など塵のように軽かった。


この一週間で、同じようなアプリ経由の強盗事件が、この街だけで十件以上発生していた。


そしてその全ての黒幕は――


「クックック……人間ってのは本当に面白いねぇ。『最短』『効率』『タイパ』って言葉を並べるだけで、いくらでも駒が集まる」


廃ビルの最上階。そこに佇む異形の存在が、嗤っていた。


全身がスマートフォンの画面とATMを組み合わせたような機械的なボディ。顔は常に炎上マークのような形をしており、目の部分には「いいね!」カウンターが点滅している。


強欲怪人ゴウダ・ツクシ――悪の組織「テイカーズ」の幹部である。


「さぁて、次のターゲットは……ああ、ここがいいねぇ」


ゴウダが指差した地図上のポイント。それは、街の外れにある古びた屋敷だった。


「九條家、か。どうせジジババの遺産でも眠ってんだろ? いただいちゃおうかなぁ、ククク……」


第一章:家訓を書く青年

九條家は、この街で三百年以上続く旧家だった。


とはいえ、今では敷地も建物も年月に侵食され、かつての栄華を偲ばせるものは、玄関脇に掲げられた古びた表札くらいしかない。


その屋敷の一室で、一人の青年が正座していた。


九條正義(くじょう・ジャスティス)――二十五歳。


彼の前には、大きな半紙が広げられている。墨をたっぷりと含ませた筆を手に、彼はゆっくりと文字を書き進めていた。


『家訓第一条 運は与える者に集まり、奪う者から逃げてゆく』


「……よし」


最後の一画を書き終え、正義は満足げに頷いた。


「今日も良い字が書けた。ご先祖様も喜んでくださるだろう」


彼の部屋の壁一面には、同じように書かれた家訓の書が、びっしりと貼られている。その数、優に百枚は超えていた。


異常なのか、それとも信念なのか。


正義にとって、この「家訓を書く」という行為は、単なる習慣ではなく、生き方そのものだった。


ちなみに、彼のスマートフォンには未読メッセージが327件溜まっているが、それは「家訓第五十三条『一日一善、一日一筆。これを終えるまで他事に手を出すべからず』」により、まだ開封すらされていない。


「正義くん、またやってるの?」


ふすまを開けて顔を覗かせたのは、近所に住む幼馴染の女性、美咲だった。


「ああ、美咲か。今日も良い一日だったよ」


「……あのねぇ、もうちょっと時代に合わせた生き方しなよ。今どき家訓なんて書いてる若者、あんたくらいだよ?」


「時代に合わせる必要などない。正しいものは、時代が変わっても正しい」


「はいはい、またその調子。それより、昨日送ったLINE見た? バイトの面接の件なんだけど――」


「まだ見ていない」


「……はぁ?」


「家訓第五十三条により、今日の一筆を終えるまでは他事に――」


「いい加減にしなさいよ! もう二日も経ってるのよ!?」


美咲の怒声が響く。しかし正義の表情は揺るがない。


「家訓は家訓だ。守らねば意味がない」


「あんたねぇ……」


美咲は深いため息をついた。彼女は幼い頃からこの頑固者を知っているが、時々、本当に心配になる。


「でもさ、最近この辺も物騒でしょ? 強盗事件とか多発してるし……あんた、一人暮らしなんだから気をつけなよ」


「大丈夫だ。我が家には、三百年の歴史が守ってくれている」


「精神論じゃ泥棒は防げないって……」


その時だった。


ガシャァァァン!


玄関の窓ガラスが盛大に割れる音が響いた。


「な、何!?」


「……」


正義は、筆を静かに置いた。


「美咲、下がっていろ。……しかし困ったな」


「何が困ったのよ、こんな時に!」


「家訓第二十八条『食事中は席を立つべからず』……まだ朝食の片付けが終わっていない」


「そんなこと言ってる場合!?」


美咲が叫んだ瞬間、玄関のドアが蹴破られた。


第二章:強欲怪人、襲来

玄関に駆けつけた正義と美咲の目の前には、信じられない光景が広がっていた。


割れた窓から侵入してきたのは、五人の若者――いや、彼らの目は虚ろで、まるで操り人形のようだった。そして、彼らの背後には――


「よぉ、お邪魔するぜぇ!」


異形の怪人、ゴウダ・ツクシが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。


「な、何アレ……!」


美咲が悲鳴を上げる。


「ククク、驚くのも無理はない。俺様は悪の組織テイカーズの幹部、ゴウダ・ツクシ様だ! この家の家宝、全部いただいていくぜぇ!」


「家宝だと……?」


「おうよ。どうせこんなボロ屋敷、売っても二束三文だろうが、中に眠ってる骨董品は違う。鑑定士の情報じゃ、最低でも三千万はくだらないってよ!」


ゴウダが指差したのは、床の間に飾られた掛け軸と、家訓が刻まれた古い木札の数々だった。


「それは……渡せない」


正義が一歩前に出る。


「あん? 何言ってんだ、お前。タイパ、コスパって言葉知ってる? お前みたいに汗水垂らして働くのは情弱のすることなんだよ。奪うのが一番効率がいい。それが現代の常識ってもんだ!」


「……常識?」


正義の目が、静かに、しかし鋭く光った。


「貴様のような外道の言葉を、常識と呼ぶな」


「はぁ? 何時代の人間だよ、お前。いいか、この令和の時代にな、努力とか根性とか、そんなもん流行らねぇんだよ! 結果が全て! 手段なんてどうでもいい!」


ゴウダが高笑いする。その言葉に、操られた若者たちも無表情に頷いた。


「お前らもそう思うだろ? 楽して稼ぐ。それが最高だって!」


「その通りっス……」

「努力とか、マジ無駄……」

「効率こそ正義……」


若者たちの虚ろな声が重なる。


正義は、その光景を静かに見つめた。そして――


「……美咲、下がっていろ」


「え? 正義くん?」


「貴様らに、教えてやらねばならないことがある」


正義は、ゆっくりと奥の部屋へと歩いた。そして、古びた箪笥から一着の半纏を取り出す。


それは、先祖代々受け継がれてきた、九條家の家宝だった。


背中には、大きく「家訓」の二文字が刺繍されている。


「おいおい、何だよそのダッサい半纏。昭和のヤンキーかよ! ギャハハハ!」


ゴウダが嘲笑する。


しかし、正義の表情は揺るがなかった。


「家訓を忘れた徒党に、明日を語る資格なし――」


正義が半纏を羽織った瞬間。


ゴォォォォォ!


突如、彼の全身から眩い光が放たれた。


「な、何だこりゃ!?」


「これは……家訓エナジー!」


半纏が風もないのに激しくたなびき、正義の姿が光に包まれる。


「変身――カクンダーZ!」


第三章:家訓の戦士、見参

光が収まった時、そこに立っていたのは、もはや普通の青年ではなかった。


赤と金を基調としたスーツに身を包み、胸には大きく「正」の文字が輝いている。顔は和風の意匠を施されたマスクで覆われ、背中の半纏だけが元のまま翻っていた。


「家訓戦士、カクンダーZ――推参!」


「な、何だこいつ……変身しやがった!?」


ゴウダが一瞬怯むが、すぐに不敵な笑みを取り戻す。


「ハッ、どうせコスプレだろ! 行けお前ら、この時代遅れ野郎をボコってこい!」


操られた若者たちが、一斉にカクンダーZに襲いかかる。


だが――


「無駄だ」


カクンダーZが軽く手を払っただけで、若者たちは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「な、何ィ!?」


「貴様らは悪意で操られているだけ。本当の敵は貴様だ、ゴウダ・ツクシ!」


「クソッ、なら俺様が直接……タイパ・バキューム!」


ゴウダの身体から、無数のデジタルコードが放たれる。それは人々の努力や貯蓄をデータ化して吸い取る、ゴウダの必殺技だった。


しかし、カクンダーZは動じない。


「そんなもので、三百年の家訓が揺らぐと思ったか!」


カクンダーZが腰の筆型の武器を抜き放つ。


「家訓筆・天之巻!」


巨大な筆が、空中に文字を描き始める。


『誠』

『義』

『礼』

『智』

『信』


五つの文字が、実体を持った光の塊となって、ゴウダに向かって飛んでいく。


「うおおおおっ!?」


ゴウダの身体に次々と文字が激突し、爆発を起こす。


「バ、バカな……こんな古臭い価値観が……こんな時代遅れな正義が……!」


「時代遅れ? 違うな」


カクンダーZは、最後の一文字を空中に描き始めた。


それは、誰よりも大きく、誰よりも力強い一文字。


『徳』


「正しきことは、時代を超えて正しい。それを、今から証明してやる!」


「家訓最終奥義――徳之一筆!」


巨大な「徳」の文字が、物理的な質量を持ってゴウダに降り注ぐ。


「ぎゃああああああああっ!」


轟音と共に、ゴウダの身体が地面に叩きつけられた。


第四章:贈呈完了

煙が晴れた後、そこには無残に倒れ伏すゴウダの姿があった。


「ぐ……ぐぅ……」


カクンダーZは、倒れたゴウダの前にゆっくりと歩み寄った。


「ゴウダ・ツクシ。貴様に、教えてやる」


「な、何を……」


「奪うことでしか満たせぬ心は、底の抜けた桶と同じ。いくら注いでも、決して満たされることはない」


カクンダーZの声は、静かだが、圧倒的な重みを持っていた。


「刻んでおけ、九條家家訓・第一条――『運は与える者に集まり、奪う者から逃げてゆく』」


その言葉と共に、カクンダーZの筆が最後の一画を宙に描く。


すると、その文字が光となってゴウダの胸に吸い込まれていった。


「ぐあああああっ! 何だこれ、頭の中に……言葉が……!」


「貴様の空っぽな人生に、この言葉を贈呈(インストール)してやる!」


「贈呈完了」


空中に巨大な筆文字が浮かび上がり、そして消えた。


ゴウダの身体から、邪悪なエネルギーが抜けていく。機械的だった身体が人間の姿へと戻り始めた。


そこに現れたのは、二十代半ばの、やつれた男だった。


「あ……あれ……俺、何を……」


男――元ゴウダは、自分の手を見つめて呆然とした。


操られていた若者たちも、次々と正気を取り戻し始めた。


「あれ……俺、何してたんだ……?」

「ここ、どこ……?」


カクンダーZは変身を解き、元の正義の姿に戻った。


「貴様らは、甘い言葉に騙されただけだ。今一度、自分の生き方を見つめ直せ」


若者たちは、恐る恐る頷いた。


正義は、地面に倒れた元ゴウダの男に近づいた。


「……お前は?」


「俺は……確か、津久志豪太(つくし・ごうた)……大学を中退して、フリーターで……」


豪太の目から、涙が零れ落ちた。


「俺……何やってたんだ……親が汗水垂らして貯めた金、俺がパチンコで溶かして……返すために、闇バイトに手を出して……気づいたら、人を操って奪う側になってて……」


「……」


「もう、戻れないよな……俺、人を傷つけて……奪って……」


豪太は両手で顔を覆った。


正義は、静かにその肩に手を置いた。


「戻れないことなど、ない」


「え……?」


「人は、過ちを犯す。だが、それを認め、償う意志があるならば、やり直すことができる。それが人間だ」


正義は、懐から一枚の半紙と筆を取り出した。


「……さて、今の家訓を百回書き取ってもらおうか」


「ひ、百回!?」


「当然だ。身体で覚えるまで、何度でも書いてもらう」


その瞬間、美咲が思わず噴き出した。


「あはは! 何それ、急に先生みたいになってる!」


「笑うな、美咲。教育は大切なことだ」


正義は、豪太の前に半紙を広げた。


「一画一画、丁寧に書け。文字は心を映す。乱れた文字では、心は正せない」


「……はい」


豪太は、震える手で筆を握った。


そして、ゆっくりと、一文字目を書き始めた。


『運』


不器用な、歪んだ文字だった。


でも、その一画一画には、確かに「何か」が宿り始めていた。


十枚目を書き終えた頃、豪太は不思議なことに気づいた。


「……あれ、何か……胸が、温かい……」


「それが、自分の手で何かを作り出すということだ」


正義は静かに言った。


「奪ったものは、一瞬で消える。だが、自分の手で生み出したものは、たとえ小さくとも、確かに心に残る」


豪太の目から、また涙が溢れた。


でも、それは先ほどとは違う、何か清らかなものだった。


「俺……やり直せるかな……」


「やり直せる。何度でも」


正義は、豪太の肩を叩いた。


「ただし、百回書き終えてからだ」


「……はい!」


豪太は、力強く頷いた。


その様子を見ていた美咲が、正義の袖を引いた。


「……ねぇ、正義くん」


「何だ?」


「あんた、やっぱり変わってるけど……悪い奴じゃないわね」


「褒めているのか、それは?」


「褒めてるのよ、一応」


二人は顔を見合わせて、小さく笑った。


エピローグ:新たな予感

その夜。


正義は、いつものように家訓を書いていた。


『家訓第一条 運は与える者に集まり、奪う者から逃げてゆく』


「……ふむ。今日は、少し線が乱れているな」


彼が首を傾げた時、スマートフォンが震えた。


未読327件を無視して新たに届いたメッセージ。それは、見知らぬ番号からだった。


『九條正義様へ。あなたの今日の活躍、拝見させていただきました。もしよろしければ、一度お会いしたいのですが……水無瀬礼より』


「……水無瀬?」


聞き覚えのない名前だった。


しかし、正義の胸に、何か予感めいたものが走った。


遠くない未来、この街で、新たな戦いが始まろうとしていた。


そして、それは正義一人では戦えない、大きな戦いになるかもしれない――。


「まあ、メッセージを返すのは、明日の一筆が終わってからだな」


正義は、何事もなかったようにスマートフォンをテーブルに置いた。


家訓第五十三条は、今日も守られる。


――家訓戦士カクンダーZ、見参!


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