実力行使のお正月

キヨシタカシ

実力行使のお正月

 私にとって、お年玉とは年収である。我が家では、お小遣い制度が採用されていないからだ。


 実力を示せ。


 それが、私が欲しいものを手に入れる手段である。

 ここで言う実力とは、テストの点数であったり、学期末にもらう成績表であったり。

 中学生の私はバイトができない。だから必然的に、私はお金や何か欲しいものを買ってもらうときには親を頼りにするほかなく、その親が提示してきた『実力を示せ』という条件をのむしかないのだ。


 しかし、今回の『実力』は、少し勝手が違った。


「お年玉をこの家のどこかに隠したから、見つけてごらんなさい。制限時間は二時間。見つけた時間に応じて、お年玉の金額をプラスすることを約束するわ」


 自信満々に母親はそう言った。見つけられないという確証があるのだ。

 それでも私は、勝ちを確信した。


「わかった」


 あくまでポーカーフェイス。

 悟られてはいけない。私が宝探しにおいて、絶対に負けないことを。


 なぜなら私は、探している物の声を聞くことができるから。


***


 宝探し開始五分で、私は窮地に立たされていた。

 声が聞こえないから。

 声というのは、まあ、声だ。こっちだよ、とか、そんな感じで聞こえてくる。


 私もよくわかっていないが、物を探すとき、私は声が聞こえる。その声が聞こえたところに行くと、探し物が見つかるのだ。

 今までも、家の中でなくなったテレビのリモコンを見つけたし、学校の大事な書類だって見つけてみせた。

 家の中だから見つけられたわけじゃない。道端でコンタクトを落として困っていた、知らない人のそれだって見つけたことがある。私はそのとき、全てにおいて声が聞こえた。


 だから私は、今回もそれと同じようにできると思っていたのだ。

 なのに、声は一切聞こえない。


 母親が言った金額のプラス。

 それは、マックスが二万円で、三十分ごとに五千円ずつ減っていくというもの。

 つまり、三十分以内に私がお年玉を見つけることができれば、本来渡されるお年玉の金額プラス二万円が手に入るということだ。


 もしも時間切れとなった場合は、母がお年玉を持って私にそのままくれる、ということになっている。

 定額から減りはしない。ただ、多くもらいたければ死ぬ気で探せ。

 それが、今回は母親が提示してきた条件。


 この二万円は大きい。大きすぎる。

 お年玉は年収だ。多ければ多い方がいいに決まっている。大体、中学生がお年玉だけで一年間を過ごせるわけがないだろう。


「どうしたの。探しに行かないの?」

「い、今から行くから」


 開始五分。私は声を聞くべく、いつものように探し物に意識を集中していた。ところが、当たり前のように聞こえていたそれは、今は何も聞こえていなかった。

 どうしてなのか、理由はわからない。今まで声が聞こえてきたのは気のせいで、中学生特有のあの病気だったのだろうか。


 いや、今は考えるのは後だ。


 私は二万円のためにも、なんとしてでも残り二十五分の間にお年玉を見つけるのだ。


 それに大体、家の中と言っても広いわけではない。よくある一軒家だ。最悪しらみ潰しに探せば必ず見つかる。

 なあに簡単だ。ものを見つけるだけなのだから。


***


 残り時間:一時間三十分。

 プラス金額:一万五千円。


「はい、五千円マイナス」

 母から告げられた冷酷なまでの現実。

 いや、まだだ。まだ、たかが五千円下がっただけだ。焦る時間ではない。

 まだ一階を探しているだけではあるが、一階の探索はもう終わりに近い。引き出しという引き出しを開け、扉という扉を開け、箱という箱の中身を見たがなかっただけで、まだ時間はある。


「ヒント」


 二階の探索はどこからしようかと考えているときに、母は口を開いた。


「ヒント?」

「苦戦しているようだから、三十分経過ごとにヒントをあげようと思って」

「教えて! 早く!」


 私の一万五千円プラスがかかっているのだ。


「一階には、ない」

「怒るよ?」

「冗談」


 私は握りかけていた拳を解く。


「お年玉は、ポチ袋に入っていません。現金で剥き出しというわけでもありません」

「……それだけ?」

「また三十分後に、ヒントをあげる」


 頭を抱える。

 てっきりどの辺に隠してあるとか、そういう場所のヒントをくれると思っていたのに、実際に与えられたヒントは、形状のヒントだったからだ。

 これじゃあ何も参考にならない。


 ……いや、参考にならないのか?


 よくよく考えれば、私が探そうとしていたのは、お年玉ではなく、ポチ袋だ。お年玉と書いてあるポチ袋が、この家のどこかにあると勝手に思い込んで探していた。

 さっき母が言った言葉はなんだ。


 ポチ袋に入っていない? 現金で剥き出しというわけでもない?

 私はこの三十分間、何を探していたんだ?


 確実に三十分を無駄にするように設計されている。最初から母は、私に二万円プラスでお年玉をあげるつもりなどなかったということになる。

 これはおそらく、ただの宝探しじゃない。母がいう『お年玉』が一体何を指して、どこにあるのかを、私は知らなくてはいけない。

 最悪、何を指しているのかだけでもいい。それさえわかれば、私の力なら探し当てることができるだろう。


 私は母を見る。

 母は、この宝探しの意図に気付いた私を見て、ふふ、と笑った。


「質問は、していいの?」

「いいわよ。ただし、質問は三十分の間に二回までとするわ。答えられる質問かどうかは、あたしが判断するわね」

「そのうちの一回が、答えられない質問だとしたら、質問権はどうなるの?」

「もちろん消費したことになるわ」


 さあ、何が聞きたい?


 母は、意地悪な表情をして言った。


***


 家の中をしらみ潰しに探せばどうにかなると思っていたのに、実際は私が想像していたものとは違う方向へと転んでいった。


 母からお年玉が一体何を指すのかを聞き出す。


 これが、現状の私がしないといけないこと。

 質問の内容も考えないといけない。母が答えられない質問だったら、私は貴重な質問権を無駄にすることになるのだから。加えて厳しいことは、答えられるか答えられないかの判断基準を私は知らないということ。


 勝手に想像するに、直接場所を聞くようなことはダメなのだろう。どこの近くにあるのか、とか、お年玉は何ですか、というようなものだ。

 せめてはいかいいえで答えられる質問とか、そういう縛りにしてくれればいいのに。


 とはいえそれは、質問の仕方さえしっかりしていれば具体的な内容を知ることができるということだ。

 こうして質問を考えている間にも時間は過ぎていく。


「……当然だけど、ちゃんと私が見つけられる場所にあるんだよね?」


 私から三十分の時間を奪った母だ。もしかしたら、そもそもお年玉のプラスをさせるつもりもないのかもしれないと思ったからこの質問をした。


「もちろん。あたしが今まで約束を破ったことがあったかしら」


 ない。

 全教科のテストの点数合計かける十倍のお小遣いをあげる。それが、私がお年玉以外でお金を手に入れる手段。

 全教科だから、五教科以外の科目、つまり美術や音楽という実技教科も含まれている。期末試験でしかそれらのテストは実施されないが、母はその時、私に約束通りお金をくれた。

 かなり苦い顔をしていたのは、おそらく母は実技教科を忘れていたから。

 母は五教科と指定せず、全教科と指定した。母自身が言った約束を覆さずに、母はちゃんと守ってくれたのだ。

 だから、このお年玉探しは私に不可能なことではない。


「しらみ潰しに探しても、見つかる?」

「断定はできない。だけど、お年玉が何かわからない以上、見つからない可能性の方が高いと思うわよ」


 これで、この時間の質問は終了した。

 わかったことは、不可能ではないことと、力技で見つけることはできないこと。


 やはりお年玉がなんなのかを明確にした上で、私の能力に頼るしかない。

 力技で見つけることができないのなら、私がここでお年玉を探しにいく意味はない。母が見つからない可能性が高いと言ったのならば、きっと見つからない。

 探しに行くくらいなら、質問の内容を考えていた方が有意義だ。


***


 残り時間:一時間。

 プラス金額:一万円。


 開始から一時間が経過した。

 母から次のヒントが告げられる。


 どんなものだろうか。場所のヒントではないだろう。しらみ潰しに探すことができないと言うのならば、そんなものをヒントにすることはないはずだ。

 きっとさっきのように、お年玉が何を指しているのかというものと考えるのが妥当だ。

 そう思っていたのに、母が言ったヒントは、これまた想像していないものだった。


「あたしは、あなたが特別な力を持っていることも知っているし、どんな力なのかというものも、察しがついています」

「……は?」


 は? 私のこの力を知っている?


 もちろんこの力は誰にも言っていない。言ったところで信じられるとは思っていないからだ。それに私自身、この力がなんなのかもよくわかっていない。


 しかし母は、私が誰にも言っていないその秘密を知っていると言ったのだ。

 いつバレた。さすがは母親というべきなのか。

 いや、落ち着け。確かに衝撃の事実だが、これをヒントとして出してきた母の意図を考えろ。


 母は私の、ものを探す力を知っている。


 つまりこの宝探し、力を使わないと攻略ができないということ。だけど、私はさっきから声が聞こえていない。


 能力が必須のこの宝探しで、能力が使えない。


 これでは話にならない。

 見つけられなくてもお年玉はもらえる。多くもらえるのならば多くもらっておいた方がいいに決まっている。というか欲しい。もはやプラスの金額は一万円にまで下がってしまったが、私の一万円と母の一万円では価値が違う。私の一万円は、年収に関わってくる一万円だ。


 私はこの時間最初の質問をする。


「今、私は声が聞こえていない。なんで?」

「その質問には答えられない。自分で考えなさい」


 不発。

 だがこれで、母の意図が少しだけわかった気がする。

 母は、私が誰にも話していないこの力のことを知っていた。いつから知っていたのかはわからないが、母は私よりもこの力について知っている。


 この力があるにも関わらず探し物を見つけられていないということは、私が声を聞くことができていないとわかるはずだ。


 ならば母は、その原因を知っている。


 そう思っての質問だった。結局不発に終わったわけだが、ここから考えられる母の意図がさらに一つ思い浮かぶ。


 母は、この力の使い方を私に教えようとしている。

 だからこんな宝探しをさせようとしているし、私の力を知っていると告白したのだ。


 今まで、別にこの力について知りたいとは深く思わなかった。探そうと思ったら聞こえてきたし、聞こえなかったら困るようなこともなかったからだ。


 けれど母がこのような場面を用意したということは、私はこの力を理解する必要があるということに他ならない。


 実力主義の我が家だ。私が持っているこの能力がどの程度のものか、このゲームを通して知りたいのだろう。

 母は私がこの力を持っているが、どの程度まで使えて、どの程度のことを知っているのかをわからない状況にあるはず。


 そして先ほどの質問。母は私に自分で考えろと言った。きっと、この原因は私が頑張ればわかるからだろう。私の実力があれば察することができると思っているのだ。

 質問は能力かお年玉に関する質問にわけられるが、前者は答えてくれなさそうだし、後者は何を聞けばいいのかわからないのが現状だ。


 今回のヒントでお年玉がなんなのかを知ることができるだろうと思っていた。そこから質問の内容を考えようとしていたために、内心は少し焦っている。


 私の声が聞こえない原因がわかれば、逆算で質問の内容が浮かぶ気がするのだが……。


「…………」


 だめだ、何も浮かばない。

 何を聞くべきなんだ。声が聞こえない原因さえわかれば……。

 リモコンや書類、コンタクトレンズなんかは簡単に聞こえた。


 逆に、正常に聞こえるものとの違いは何だろうか。


 たとえば今リモコンを探そうとしてみると、声は簡単に聞こえ……。


「……?」


 何か、違和感を感じた。こう、聞こえにくい。ノイズがかかっているし、声が小さい。


 声が小さい理由はわかる。目的のものが遠くにあるからだ。その代わり、近くに行くたびに大きく、はっきり聞こえるようになるのだ。


 この声は、二階から聞こえているものだろう。


 問題はこのノイズだ。聞いたことがない。


 もう一つ気になるのは、どうして二階にリモコンがあるのか、だ。我が家は二階にもテレビがあるという家庭ではない。


 これは行ってみる価値がある。


 二階に近づくほどに、聞こえにくかった声は大きくなっていった。

 これはいつものこと。


 ノイズは相変わらず発生している。

 声の主は母の部屋にいた。そしてそれを見たと同時に、ノイズの原因が少しわかった気がする。


 テレビのリモコンは、ガムテープでぐるぐる巻きにされていたのだ。


 一部分にガムテープを貼るなんていう半端なものじゃない。もはや茶色でお手頃サイズの棒だ。


 私が想像していた、慣れ親しんだ我が家のリモコンとは、実物が遠くかけ離れていた。


「そういうこと?」


 私が想像しているものと、実際のものが違っていたら声が聞こえにくいのか。


 ガムテープを剥がして、目の前にあるのに声を聞こうと意識を集中する。

 その声は、ノイズもなくはっきりと、とても鮮明に聞こえた。


 私は仮説を立証するため、次は自分の部屋に行く。


 取り出したものはゲームのコントローラー。

 黒色の、一番オーソドックスなカラーである。私はネットでそれの色違いを検索する。

 私が次に探すものは、黒色のコントローラー。けれど今回頭に思い浮かべるのは、この色違いのコントローラー。色は、黒ではなく白。


 意識を集中する。

 果たして声は聞こえた。リモコンの時と同じようなノイズがかかった声が。

 これではっきりした。


 私がイメージしているものと実際のものが違えば、声は聞こえない。


 言われてみればというか、言葉にすれば確かにその通りだと思った。

 ものを探すときは、何を探すのかを意識している。そこに実物との差があれば見つけにくいのは当然である。

 お年玉を探そうとした時に声が聞こえなかった原因もはっきりした。


 私はお年玉と書かれたポチ袋をイメージした。実際はそんなものではないのに。

 さらにポチ袋にも柄がある。真っ白な封筒かもしれない。

 

 これでは聞こえるはずがない。

 

 そして、質問の内容も自ずと見えてきた。

 私は質問をするべく母の元へ向かう。


「質問」

「どうぞ」

「今年のお年玉、金額はいくら?」


 気づいたか、というような表情をした気がした。


「二万円」


 ゲーム開始から、あと五分で一時間半が経過しようとしている。

 この五分で、決着をつける。


***


 残り時間:三十分。

 プラス金額:五千円。


 三回目。この宝探し最後のヒントが、母から告げられる。


「お年玉は二万円。だけど、形はさまざま」


 私はあの五分で、見つけることができなかった。

 おかしい。どうしてだ。


 声が聞こえない理由は、私のイメージと実際のものが違うからじゃないのか。

 だから私は、お年玉が入っていると思っていた袋ではなく、中身を想像することで見つけようと、お年玉の金額を聞いた。


 それなのに、声が聞こえなかった。


 母が言った今回のヒントは、二万円の定義の仕方だ。

 一万円札が二枚で二万円なのか。それとも五千円札が四枚で二万円なのか。きっとそれらの違いだ。

 その考えには私はさっきの五分で至っていた。だから、色々な組み合わせを試してイメージした。


 それでも、声は聞こえなかった。

 どういうことだ。声が聞こえない理由は間違いなく私が考えていたもので合っているはずだ。


 二万円の組み合わせが違うからなのだろうか。

 違うアプローチもしてみた。


 二万円で思い浮かべるのではなく、お札で思い浮かべたのだ。

 合計二万円の組み合わせは気が遠くなるような数がある。だから私は、一万円札をイメージして声を聞いた。一万円札で声が聞こえなければ、お年玉二万円を形成する中に、一万円札はないということになる。

 それを、新旧合わせて日本の紙幣、硬貨、全て試した。


 それなのに、何も聞こえなかった。聞こえたとしても、私の部屋にあるへそくりと財布の中身からの声だけだ。


 お年玉は、一体どこにある。

 残り二回の質問で、その中身を当てることができるのか? 答えてくれないという可能性もあるのに。

 また振り出しに戻った気分だ。声が聞こえない原因はわかったが、それでも結局聞こえていないのならば意味がない。


 どうする。どうすればいい。もうすでに私が手に入れられるプラスの金額は五千円だ。

 当初よりもだいぶ減ってしまった。母から言わせてみればこれが私の実力なのだろう。悔しくて仕方がない。


 余裕で二万円プラスで貰えると思っていただけに、余計に。


「…………ふう」


 息を吐いて、気持ちを落ち着ける。

 私の実力のなさは、後で反省しよう。

 今考えないといけないことは、質問の内容だ。

 母の言うお年玉と、私の中のお年玉のイメージを一緒にしなければならない。そうじゃないと見つけられない。

 声が聞こえない原因は、私がイメージしているものと、実際のものが違うからだ。

 一万円札と言っても、まさか発行番号まで一致させる必要はない。私の部屋に眠るへそくりたちの声は聞こえるのだから。紙幣の声も、硬貨の声も。


「……?」


 何か、違和感がある。

 私はもう一度、一万円札を思い浮かべた。

 声は、私の部屋から聞こえる。

 私は自室へ向かう。

 考えが正しければ、質問の内容が決まる。


 私は部屋にある財布の中身と、へそくりの金額を数える。

 財布の中身は流石に細く覚えてはいないが、へそくりの金額は覚えている。へそくりに金額の変動はない。


 財布の中身も、おそらくは変動がない。もしも変動があっても二万円だ。そんな高額、見逃すわけがない。


 母が私の財布やへそくりに二万円を加えた。


 その可能性もあった。

 お年玉は現金が生身で剥き出しというわけではないと言っていた。つまり何かしらの袋や入れ物に入っているということ。


 だから、私の財布の中身やへそくりが入っている封筒を調べたのだ。しかし、お年玉はそこになかった。


 大事なのは、ここで思考を終わらせないこと。この事実が示すことが、もう一つある。


「この家の現金が、私の部屋以外なくなってる」


 そうだ。そういうことになる。声が、私の部屋以外から聞こえないのだから。

 それが意味することは。

 私は母へ質問をする。


「お年玉は、電子マネー?」

「はい」

「よしっ!」


 思わずガッツポーズをする。

 思った通りだった。流石に現金が私の部屋にしかないというのは異常だ。

 だったら行き着く答えは、おそらく二つ。


 電子マネーと、ギフトカード。


 これらは確かに、現金で剥き出しというわけでもないし、様々な二万円の形の一つだ。

 お年玉は現金という固定概念に縛り付けられていた。私だってよく利用する、物を買う手段の一つだ。


 その中で私は、電子マネーを聞いた。


 ギフトカードだと、用途がそのギフトカードにちなんだものでしか利用できない。母なら、用途が縛られている物をお年玉とするとは思えなかった。


 母の前だったことをすぐに思い出し、少し恥ずかしくなる。

 そんな私を、母は嬉しそうに見ていた。


 ……違う。


 嬉しそうに見ている。間違いない。けどそれは、気づいてくれて嬉しいという顔じゃなくて、思い通りになってくれて嬉しいという顔な気がした。

 確かに、私はまだお年玉の正体を言い当てただけで、見つけてはいない。


 正体がわかれば、あとは見つけるだけだ。こんなもの、能力を使えば一発で……。


 あれ? 電子マネーって、どういう形をしているんだ?


 落ち着け。ここまできたらあと少しなんだ。

 電子マネーは物体じゃないから、この能力で直接探すことができない。

 電子マネーが入っている物をイメージしろ。


 私だってそれを利用しているはずだ。電子マネーで買い物するときはいつも、スマホで……。


「スマホだ」


 私のスマホはもちろん私が持っている。

 私が探すべきスマホは、母のスマホだ。


 母のスマホから私へ電子マネーを送金する。それが、今年のお年玉。なんとも現代的な話だ。

 母のスマホを思い浮かべ、声をきく。


「……聞こえた」


 私は母の部屋から聞こえてきた声を頼りにその場所へ行き、母へと手渡した。


「これがお年玉でしょ?」

「よくできました」


 お年玉、二万五千円ゲット。


***


 母も、私と同じ能力を持っているということだった。


「こういうのって、遺伝するんだね」


 お雑煮を食べながら言う。


「最初は気のせいだと思ってたんだけどね」


 私があまりにも物を探すのがうますぎるということで、かねてより気になっていたらしい。

 確信に変わったのは、このゲームが始まって最初の五分。私が物を探しに行かず、その場で突っ立っていたのをみたからだという。

 確かに、普通なら探しに行くだろう。それを私は、声を聞くことに集中していた。


「最悪バレてもいい能力であることには違いないわ。だけど、それを知って悪用する人間もいるってことを忘れちゃダメよ」

「悪用って、たとえばどうやって?」


 物を探すだけなのに、悪用も何もないだろう。


「その発想がないならそれでいいのだけど、たとえば、他人の家にある貴重な書類の場所が、あなたには簡単にわかってしまう」


 貴重な資料?


「土地の権利書とか身分証とか。それに、あなたが今回やったように、家のどこにお金があるのか、とかね」

「言われてみれば」


 私は確かに、それらを探すことができる。


「でもそんなことしないよ。空き巣なんて」

「あたしも、実の娘がそんなくだらないことで人生終わらせるとは思っていないわよ。これは警告のつもりで言ったの」

「警告?」

「あたしも、あなたと同じ力を持ってる。あなたがそんな犯罪に手を染めようものなら、あなたがどんなところに隠れていようとも、あたしは見つけることができる」


 そういうことか。

 今回は物しか探さなかったが、イメージできてしまえば、人探しにも使えるのか。


「ま、力の使い方は考えなさい。全面的に押し出すも、これから先も隠し続けるのも、あなたの自由よ」


 ごちそうさま、と母は食器を片付けに台所へ向かった。

 私の中では、この能力はそこまですごい物だとは思っていない。たかが物を探せるだけの力だ。しかも、私のイメージと実物とで差異があれば機能しなくなる。


 生かすも殺すも私次第。


 能力の使い方を中学生という難しい時期に教えてくれたのは、私が変な道へ進まないようにするためだろう。


 私が自分の能力を全く理解していないということもわかった。声が聞こえる条件はわかったが、まだ何かあるのか、それとも努力次第でもっと都合よく使えるのか。調べてみる価値はあるのかもしれない。


「じゃ、おばあちゃんの家行きましょうか」


 お年玉は何も、母からもらえるものが全てではない。おばあちゃんの家には親戚一同が集まる。

 まだ増える余地がある年収に、私は心を踊らせずにはいられない。


「そうそう。親戚の皆様には、お年玉を隠すように言っておいたから」

「え?」

「能力のことは誰も知らないから、怪しまれないようにやりなさい」

「は?」

「さあ、第二ラウンドと行きましょうか」


 ……寝正月させて。

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