もてる錯覚? 主婦44歳 好美の冒険

みさき

都合のよい女だと気づいているが主導権はあくまでも私のつもり



朝の光がリビングの床を照らす。子供たちを送り出した後、家の中は静かになった。好美はコーヒーカップを手に、窓辺に立つ。44歳。中学生の娘と高校生の息子の母親。単身赴任の夫からは昨夜も「お疲れ様」のLINEが届いただけだ。


彼女は鏡の前で少し長く立ち止まった。決して美人とは言えない顔。でも、数年前からインスタグラムにコーディネートを投稿し始めてから、何かが変わった。女性からの「素敵!」も嬉しかったが、男性からの「綺麗ですね」「お若いですね」というコメントやDMが、次第に日常の彩りになった。


最初は戸惑った。下心が見え透いているメッセージも多かった。でも、嫌悪感は湧かなかった。むしろ、44歳の主婦にそんな関心を寄せる男がいること自体が、不思議な喜びだった。承認欲求は麻薬のように繰り返された。


最初の不倫相手は、インスタで絡んできた10歳年下の男性だった。会って、食事して、ホテルに行った。その時、彼女は驚くほど冷静だった。罪悪感の欠片もなかった。


「だって、ママ友だってやってるし」


幼稚園時代からのママ友グループ。今では不倫談議が集まりの中心になることも多かった。誰がどんな相手を作っているか、どうやってバレないようにしているか。好美はそこで「ガチなコイバナ」を楽しんでいた。


彼女の魅力は、顔ではない。振る舞い方。派手になりすぎないけれど、少し遊び心のある服の着こなし。男受けする、とよく言われた。でも好美はわかっていた。寄ってくる男のほとんどは、単純に「隙がある人妻」と思っているだけだ。


飲食店の若い店員。息子の少年野球時代のコーチ。SNSやマッチングアプリで知り合った様々な男。好美は自分からアプローチすることはない。いつも、相手が寄ってくるのを待つ。好みだったら会う。ただそれだけ。


彼女は決して相手に執着しない。むしろ、薄々感じていた。自分が都合のいい相手として使われていることを。でも、そう思うのは嫌だった。あくまで「自分が主導で遊んでいる」という構図を心に描く。


今日の相手は大学生。22歳。マッチングアプリで知り合い、先週初めて会った。優しくて、少し照れ屋なところが気に入った。今日は2度目のデート。彼の部屋で「おうちデート」だ。


好美はクローゼットの前で考えた。若すぎないように、でも頑張りすぎていないように。結局、シンプルなニットとほどよい丈のスカートにロングブーツを選び、化粧はナチュラルメイクに仕上げた。


「行ってきます」


空っぽの家に向かって呟く。誰も聞いていない。


電車に揺られながら、彼女はふと思った。この生活、いつまで続くのだろう。子供が大きくなればバレるリスクは増す。夫が単身赴任から戻れば、自由な時間は激減する。


でも、考えすぎないことにした。成り行き任せでいい。今、楽しいのだから。


大学生の彼の部屋は、想像以上にきれいだった。彼が淹れてくれた紅茶の香りが漂う。会話は弾み、笑い声が絶えなかった。自然に距離は縮まり、やがて彼のベッドへと流れていった。


肉体関係に発展することに、好美は、もはや疑問を抱かなかった。むしろ、これがデートの当然の帰結だと思っていた。彼の若い肌に触れながら、彼女は一瞬、自分が何をしているのか考えた。


でも、すぐにその思考は消えた。


「楽しいから、それでいい」


帰りの電車で、インスタを開く。今日のコーディネート写真を投稿しようか迷ったが、やめた。代わりに、夕焼けの窓から撮った写真をアップした。


すぐに「いいね」がいくつかついた。コメントも来た。


「素敵な夕焼けですね」


送り主は見知らぬ男性のアカウント。好美は軽く微笑み、返信を考え始めた。


家に着くと、娘からLINEが来ていた。


「今日、塾遅くなるからご飯いらない」


好美は「わかった。気をつけてね」と返信し、冷蔵庫を開けた。一人分の夕食を作る気力はなかった。そういえば、夫からも連絡が来ていない。たぶん、また接待だろう。


リビングのソファに座り、今日のデートを振り返った。大学生の彼はまた会いたいと言ってくれた。好美は「また連絡するね」と曖昧に返事をしておいた。


窓に映る自分の顔を見つめる。44歳の主婦。二児の母。夫がいる。


でも、今この瞬間、彼女は「もてている」と錯覚できる場所にいた。それで十分だ。明日も、明後日も、この錯覚が続く限り。


スマホが振動した。新しいマッチングアプリの通知だ。好美は少し考えてから、アプリを開いた。


成り行き任せで、もう少しだけ。

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もてる錯覚? 主婦44歳 好美の冒険 みさき @MisakiNonagase

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