第3話 ズレない彼女

神崎大河が、自分の異変をはっきり自覚したのは――

クラスメイトの西園寺 澪さいおんじ みおに声をかけられた時だった。


「神崎くん、最近ちょっと変じゃない?」


昼休みに突然、正面から言われる。


ショートカットでボーイッシュなので、

男子にはあまり人気が無いが、

ちゃんと向き合うと、その可愛さは圧倒的だった。


「え、俺? どのへんが?」


「うーん……説明しづらいけど」


みおは少し首を傾げて、続けた。


「会話が、三秒くらいズレてる感じ」


大河は、内心で凍りついた。


(……え?まさかバレてる?)


「いやいや、ズレてないって。俺、いつも通りだし」


「そう? でもさ」


みおは、じっと大河の目を見る。


「さっき私が『おはよう』って言った時、神崎くん、一瞬“初対面みたいな顔”したよ」


「……え」


(覚えてない……)


喉が鳴る。



放課後。

偶然を装って、二人で帰ることになった。

装ったのは大河の方だった。


「ねえ神崎くん」


「な、なに?」


「最近、怖い夢とか見てない?」


ドキッとする大河。


「なんで?」


「だって、たまにすごく怯えた顔するから」


みおは笑いながら言うが、その目は真剣だった。


(俺がズレた“直後”の顔を、見てるんだ……)


能力を使った直後、大河はいつも少し空白になる。

感情の理由を失った、不自然な沈黙。


「……気のせいだよ」


「ふーん」


明らかに納得していない声。


その時。


横道よこみちから、ボールが飛んできた。


「危な――」


フラッシュバック。


「――っ!」


大河は、三秒前の位置に戻る。


ボールはすでに通過し、澪の足元で転がっていた。

大河は澪の後ろ。


「あれ?…え?……今の、何?」


みおが、真顔で聞いた。


「神崎くん、瞬間移動した?…よね?」


「してない!」


即答したが、遅かった。


「……したよね?」


沈黙。


『しーたーよーねー?』


(やばい、完全に見られた、しかも目の前に彼女の顔、可愛すぎる)


「説明すると長いんだけど」


「聞く!」


みおは、即答だった。


ベンチに座り、全部話した。

三秒ズレること。

世界は戻らないこと。

代償で、記憶が削れていくこと。


話し終えた後、澪はしばらく黙っていた。


「……それ、結構ヤバくない?」


「信じてくれるの?」


「神崎くんは嘘言って逃げる人じゃない…

     嘘にしてはファンタジー過ぎるし…でも」


彼女は、少し笑った。


「神崎くんらしい」


「どういう意味?」


「自分が削れるのに、人の前に出る能力って」


「出てないよ、戻ってばっかりだよ」


「ううん、神崎くんが3秒戻らなければ大変なことになってるかもしれない、それを自分を削って守ってる気がする、だから人の前に出てるって思う」


大河は言葉に詰まる。


(俺……そんなつもりじゃ)


「ねえ」


みおが、少し距離を詰める。


「もし、私のこと忘れたらさ」


「……え?」


「ちゃんと、もう一回自己紹介するから」


冗談っぽい声。

でも、目は逸らさない。


胸が、きゅっと痛んだ。


「忘れないよ」


思わず言う、嘘をついた気がする。


きっと忘れるくせに。



その帰り道。


みおが突然、腕を組んできた。


「ちょ、なに!?」


「確認」


「何の!?」


「今、このドキドキ覚えてる?」


「覚えてるに決まって――」


言いかけて、止まる。


(もし、ズレたら)


「……覚えてたい」


みおは、少し照れたように笑った。


「じゃあ、ズレないようにしよ」


「……簡単に言わないでよ」


三秒ズレる少年の隣に、ズレない少女が現れた。


それが救いになるのか、

それとも――


「ねえ神崎くん」


「なに?」


「私、ヒロインね」


「う、うん」


ラブコメは、唐突に始まった。

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