第3話 ズレない彼女
神崎大河が、自分の異変をはっきり自覚したのは――
クラスメイトの
「神崎くん、最近ちょっと変じゃない?」
昼休みに突然、正面から言われる。
ショートカットでボーイッシュなので、
男子にはあまり人気が無いが、
ちゃんと向き合うと、その可愛さは圧倒的だった。
「え、俺? どのへんが?」
「うーん……説明しづらいけど」
「会話が、三秒くらいズレてる感じ」
大河は、内心で凍りついた。
(……え?まさかバレてる?)
「いやいや、ズレてないって。俺、いつも通りだし」
「そう? でもさ」
「さっき私が『おはよう』って言った時、神崎くん、一瞬“初対面みたいな顔”したよ」
「……え」
(覚えてない……)
喉が鳴る。
◇
放課後。
偶然を装って、二人で帰ることになった。
装ったのは大河の方だった。
「ねえ神崎くん」
「な、なに?」
「最近、怖い夢とか見てない?」
ドキッとする大河。
「なんで?」
「だって、たまにすごく怯えた顔するから」
(俺がズレた“直後”の顔を、見てるんだ……)
能力を使った直後、大河はいつも少し空白になる。
感情の理由を失った、不自然な沈黙。
「……気のせいだよ」
「ふーん」
明らかに納得していない声。
その時。
「危な――」
フラッシュバック。
「――っ!」
大河は、三秒前の位置に戻る。
ボールはすでに通過し、澪の足元で転がっていた。
大河は澪の後ろ。
「あれ?…え?……今の、何?」
「神崎くん、瞬間移動した?…よね?」
「してない!」
即答したが、遅かった。
「……したよね?」
沈黙。
『しーたーよーねー?』
(やばい、完全に見られた、しかも目の前に彼女の顔、可愛すぎる)
「説明すると長いんだけど」
「聞く!」
ベンチに座り、全部話した。
三秒ズレること。
世界は戻らないこと。
代償で、記憶が削れていくこと。
話し終えた後、澪はしばらく黙っていた。
「……それ、結構ヤバくない?」
「信じてくれるの?」
「神崎くんは嘘言って逃げる人じゃない…
嘘にしてはファンタジー過ぎるし…でも」
彼女は、少し笑った。
「神崎くんらしい」
「どういう意味?」
「自分が削れるのに、人の前に出る能力って」
「出てないよ、戻ってばっかりだよ」
「ううん、神崎くんが3秒戻らなければ大変なことになってるかもしれない、それを自分を削って守ってる気がする、だから人の前に出てるって思う」
大河は言葉に詰まる。
(俺……そんなつもりじゃ)
「ねえ」
「もし、私のこと忘れたらさ」
「……え?」
「ちゃんと、もう一回自己紹介するから」
冗談っぽい声。
でも、目は逸らさない。
胸が、きゅっと痛んだ。
「忘れないよ」
思わず言う、嘘をついた気がする。
きっと忘れるくせに。
◇
その帰り道。
「ちょ、なに!?」
「確認」
「何の!?」
「今、このドキドキ覚えてる?」
「覚えてるに決まって――」
言いかけて、止まる。
(もし、ズレたら)
「……覚えてたい」
「じゃあ、ズレないようにしよ」
「……簡単に言わないでよ」
三秒ズレる少年の隣に、ズレない少女が現れた。
それが救いになるのか、
それとも――
「ねえ神崎くん」
「なに?」
「私、ヒロインね」
「う、うん」
ラブコメは、唐突に始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます