平和の均衡

シバカズ

平和の均衡

平和とは、争いがなく穏やかなこと。均衡きんこうとは、複数の物事で釣り合いが取れていること。

 2つ以上の物事が存在する場合、平和の均衡を維持するのは困難である。

 かつて、何千万人もの命が犠牲となった大規模な戦争があった。

 しかし、人々の間でその出来事は風化していった。

 核兵器という大量破壊兵器の存在は、人々の記憶から忘れ去られようとしていた。

 それまで核兵器の保有国として世界のトップに君臨していたA国は、政権の交代を機に自国の核兵器廃絶を唱えた。

 一年を待たずして軍事力ではA国と差のない B国が兵器の保有数で世界一になるのは、世界の軍事情勢を垣間見るに必然であるといえた。

 核兵器の弾頭保有数ではA国とB国が他国より群を抜いており、ツートップであった。

 よって、A国が核兵器廃絶を宣言しても、B国が見当と検討を重ねた結果、それは表面上であり水面下では研究と実験が続けられていると結論を出した。

 軍事力の衰退は見せかけだと判断するB国は、そんな杞憂きゆうである脅威を恐れて、軍事力の拡大に注力した。

 その一環として、かつてA国とは敵対関係にあり、現在では世界一の技術大国として発展したC国に、真の目的を伏せて技術力の譲渡じょうとを含んだ協定を結ぼうとした。

 しかし、C国はこれを拒否した。

 B国は憶測から、A国とC国は協力関係にあると根拠のない確信を得る。

 翌年にはA国の軍事力衰退とC国との親密度を推し量るため、A国の核兵器根絶は虚言であり、現在もその保有数は変わらないとし、A国がかつて核弾頭の格納庫として使用していた施設を爆撃した。

 やがてその戦火はC国にも飛び火し、世界戦争へと発展していく。

 終結はB国が保有する核兵器をA・C両国に放ったことで幕を閉じた。

 兵器の使用にも関わらず、A国より比較的被害の少なかったC国は、同じ過ちを繰り返さないと固く誓い、再び国家繁栄に尽力した。

 A国は多大なる被害と犠牲の原因は、衰退した軍事力にあると現リーダーを批判し、政界からの追放を求めた。

 その後、A国の新たな指導者には、軍事力推進派の代表が抜擢された。

 A国の新リーダーは密かにC国に興味を持っていた。

 同じ被害国として両国に交流はあったが、あの戦争に深く触れることはしなかった。

 やがてA国はB国を退しりぞけ、世界の軍事力トップに再臨した。

 その間も、A国代表はC国に違和感を持っていた。

 同じ兵器を使用されたにも関わらず、C国の被害状況は数えるほどしか報告例がない。

 A国代表は、この差はC国が持つテクノロジーではなく、軍事兵器にあると考えていた。

 我がA国や、かつてのB国を上回る兵器を所持しているのだとしたら、現状で世界一の軍事国家はC国ということになる。

 A国は、かつてB国が陥った杞憂な脅威に直面していた。

 そのためA国はC国に自国の技術力や発展状況を猛アピールするのだが、C国は自国より劣った技術に興味はなく、それらに無反応であった。

 そこでA国はやはりC国には世界を屈服させる兵器が眠っているのだと脅威を確信する。

 ここでA国が取った以前のB国と違う点は、力に訴えなかったことである。

 A国はありもしないC国の兵器に怯え、頻繁ひんぱんに交流を重ねて親密度を上げるようになった。

 こうして世界一の軍事力を誇るA国に戦争を起こさせないことで、平和という一瞬で崩壊しかねない均衡を今日も世界は保っている。


                    完

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