紡がれたものから
アロモ子
第0話 渡しそびれた「さよなら」
寒かった。アスファルトが綺麗に敷き詰められていた地面は全て抉れ、もはやどこが道なのかすら分からなかった。踏み込んだ足の裏に水を含んだ泥がぐちゃっと音を鳴らす。
家だったであろう木材や畳がそこらに散らばり、辺りから生臭い匂いと洗剤が混ざったような不自然な臭いが立ち込める。まるで生活そのものが崩れ腐ったみたいだった。
避難場所に着れて行かれたとき大人たちから名前を聞かれ答えた。周りにも同じように一人っきりの子供がいたが、みんな名前を言った後に親が迎えに来ていたから、自分の両親も来るものだと思い込んでいた。
名前を言ってしばらくした後に大人たちが苦虫を嚙み潰したような顔をしながら近づいてきた。幼い子供でも大人が隠し事をしていることは伝わってくる。
この大人たちが言う「お母さんたちは遠くの場所にいるから、おばさんたちと一緒に待ってよう」は嘘だったと。
避難場所から逃げるように歩き続けた。子供と女の泣き声がずっと何処からか聞こえてくるし、夜になれば男は女に覆いかぶさっていた。
様々な人が渡してくる温かいご飯も外の土砂の臭いで味がしなかった。
幼かった僕はそんな場所に長く入れなかった。僕がいたのは精々二晩くらいだっただろうか。
茶色の木材の隙間で雨風を凌いで夜を明かした。そこら中に散らばってる、まだ片付けられていない体たちに囲まれながら寒さに耐えていた。朝になれば両親が見つけに来てくれるかもしれないと、叶いもしない夢を見ながら・・・
僕がおじさんに拾われたのは二晩が過ぎたころ、瓦礫の片づけをしていた時、たまたま瓦礫の山に埋まっていた僕を見つけて拾ってくれた。
おじさんは良く喋る人で、黙って俯いていた僕へ絶え間なく話し続けてくれた。「どこから来たんだ」とか「飯は食ったのか」だのとにかく沢山話を聞かれた。心を閉ざしていた僕の心を無理やりこじ開けるように質問を投げかけてきた。
まるで両親みたいに、明るい食卓を囲むみたいに話しかけてくれた。瓦礫を組みなおして壁と天井を作っただけの小屋だったけど、お母さんが作ったおいしいご飯ではなかったけど・・・とても暖かかった。
そんなおじさんでも親の事については聞かなかった。きっと察して気を使ってくれていたんだろう。
それに僕はとても救われた。家族を失って、家をぐちゃぐちゃにされて、何もかも失った僕にまた家族が出来たような気分だった。それがたまらなく嬉しかった。
おじさんのおかげで僕はまた生まれ変われた気がした。おじさんのおかげで僕の世界は変わった。差別的だった両親、世間のイメージから僕を抜け出させてくれた。
僕は心の底から尊敬できるようになった、 世間から忌み嫌われている幽霊であるおじさんを。
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