引鉄
法線かぁ
引鉄
今日もいい天気だ。
見上げて目に入る空の青だけがこの灰色の世界で摩耗した心を癒してくれる。
周囲には断続的に破裂音が響き渡り、硬い雨霰だ。
それにしても、いい天気だ。
そんなことを思いながら地に寝そべり、レンズ越しに陽気に十字の中心にいる少女を見る。
赤いスカーフをつけた。少し日に焼けて活発そうな印象のかわいらしい少女。
…周囲の目には、そう映るんだろう。
道端で負傷して倒れていたから手当てをしてやったら夜中に友人たちを殺害して逃げやがったくそアマ。十年来のバディたちを一晩で無残に爆殺した災厄。
気づけば、私の眼は彼女に吸い寄せられるようにしてそれ以外を認識していなかった。
気づけば、私の頭は彼女のことですべてが埋め尽くされていた。
「フレディとニックの仇っ…」
とうに、覚悟なんて決めていた。
すでに、後戻りする気はみじんもなかった。
私は躊躇なく手の中の軽い引き金を引いた。
瞬間、私のガラス越しの視界の中できれいな一輪の花が咲いた。
赤くほれぼれするほど美しい大輪の彼岸花が。
私の満面は喜色に満ちた。
私はその光景に魅入っていた。
ふと、二人の人影が私の小さな視界に入り込んできたのはすぐ後だった。
二人の男女が悪魔の骸を抱え、こちらを向いて涙を流しながら何かを叫んでいた。
私は少しして不用心に姿をさらけ出している二人に向けて、少し重い引き金を引いた。
破裂音が二回。私の目の前から響き渡った。
その甲高い音は私を酔いから覚ますのには十分だった。
私はすぐにその場を後にするため一人荷物をまとめた。
「二人とも、仇はとったよ。」
なんとなく、頭でそんな言葉を考えた。
なんとなく、その言葉を口に出さなければいけない気がした。
見上げるとさっきと変わらないすがすがしいほどの快晴。
「ああ、本当に何ていい天気なんだ。」
私の手にはこの身にはあまりにも重い引き金だけが握られていた。
引鉄 法線かぁ @kuma0319
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます