第4話:学園の天使は、毒を吐く

 あくる日、いつものことながら氷室処刑人により生徒会室という名の処刑場へ連行された、佐藤悠介死刑囚。例のブツ(卵焼き)を死刑囚が処刑人の口元へ運んだ。二度、三度繰り替えされたところで処刑場の扉がおもむろに開いた。


「……ふーん。これが噂の『陥落弁当』ね」


 生徒会室に、鈴を転がすような、けれど傲慢な響きを含んだ声が響いた。 現れたのは、読者モデルとしても活躍する学園のアイドル・星野みなみ。生徒会長の氷室、風紀委員長の二階堂が、一人の地味な男子の弁当を囲んでいるという異常事態を聞きつけ、わざわざ視察に来たらしい。


「星野さん、これは違うの。私は、その……佐藤くんを更生させるために……っ」 頬を赤らめ、口元に卵焼きの欠片をつけたまま弁明する会長。説得力はゼロだ。


「先輩、無理しなくていいですよ。こんな庶民の茶色い弁当が美味しいなんて、味覚が壊れたんですか?」 星野は鼻で笑うと、俺のタッパーを覗き込み、蔑むような目で俺を見た。

「いい?佐藤くん。私は一流店の味しか認めないの。あなたのそれは、ただの餌――」


 毒を吐きながら、彼女は確認のために、煮物(筑前煮)をひょいと口に含んだ。 その瞬間、星野の表情が凍りつく。


(やばい、不味かったか!?) 俺が身構えた直後、彼女の顔面がカッと沸騰した。


「…………っ、ぎゃん……っ!?」


「「ぎゃん?」」 聞いたことのない変な擬音が漏れた。星野はガタガタと震え、膝をついて俺の制服の裾を掴んだ。


「な、なによこれ、出汁が……っ。根菜に染み込んだ愛情が、私の芸能界で擦り切れた心を直接マッサージしてくる……っ! ……ねえ。明日から、私の楽屋にもこれ持ってきなさい。……断ったら、消すわよ?」


「……きゅん」を超える「ぎゃん」の衝撃。俺の弁当は、ついに芸能界(?)の闇まで照らし始めてしまった。

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