勇者の帰還

エラー・ハンドラー

第1話 幼き王女

「あなたが勇者様?」


まだ幼い王女は、愛らしく、天真爛漫な目でそれとどことなく懐かしさを感じる眼差しで、私の顔を覗き込んできた。

そのとき壮年のがっしりした男性、ああ騎士団長だな。転移してきたばかりで少しふらついている私を支えにきた。

彼の後ろには付き添いの騎士、あっ、いや見習い騎士君!が心配そうに控えていた。

 

「そうです、王女様、もう大丈夫ですよ」

 

騎士団長と隣にいた宰相、騎士見習いがきょとんとした顔をしている。状況がのみこめていないようだ、仕方がない。

 

大丈夫だ、王女様のことはよく知っている、君たちのだれよりもね。

 

召喚の儀が終わり、玉座の間で正式対面だな、なになんの問題ない、かしこまった作法なんかも大丈夫だ、安心してほしいのだがな。なぜ知ってるかって、それはもう異世界召喚には慣れっこだからだよ。ちなみに今、王座に座っている幼い王女様については、亡くなられた女王様からよろしく頼まれている。大丈夫だ、王女様とこの国は絶対守れる。

 

居並ぶ王族、貴族、王国の重鎮を前に正式に挨拶して、この世界で勇者としての歩み出す。

 

さあ、あまり時間はないぞ、いささか体は少し鈍っているな、この1、2ヶ月で勇者らしくしないとな。さて、見習い騎士君、付き合ってもらうぞと騎士団長の横にいるカール君を見た。

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・・」

「カール君、君は持久力がないな。太刀筋は見事なものなのに、もう少し鍛錬が必要なようだ。」

「タケルさん、あなたは本当に何者なのですか・・・・。この前召喚した勇者候補の方は、剣技はおろか、初歩の組み手すら満足にできていなかったのに・・・・。ともかくひとまず休憩させていただきたい。」

「だめだカール君、この私が本調子になっていないし、何よりそのままでは王女様の護衛は務まらない。では参る」

カール君、君は私の技量を全てをものにしてくれないと困るのだよ、時間は限られているのだからね。

 

さらに三度、四度と剣を交える。

 

 

翌日、ベットから起き上がれないカール君を残し、片づけなければいけない大切な用事にとりかかった。もう直ぐだな、王都の南、太古の昔世界樹があったとされるその場所に私は一人で向かった。


これが本当の初対面か、強力な結界に守られたグリフォンが目の前に現れた。

 

私としてはグリフォンに乗るのは問題ないが、グリフォンの方はまだ慣れていないようで危うく振り落とされそうになりながらも、王都に帰ってきた。

 

「グ、グリフォン!」

「なんと、ユグドラシルの守り手様まで従えるとは・・・・」

 


「どうですかな勇者様の仕上がり具合は?」宰相が傍の騎士団長に語りかける。

「まったく、すごいとしか言いようがない。まさしく生まれながらの勇者だ。太刀筋、身のこなし、それと、おっ、今出たあの技、確かシュクチと申されていたスキル。当代はおろか話に伝えられる剣士でも勇者様に太刀打ちできる者はおるまいて。さらにはあのグリフォン、伝説の聖獣様まで従えるとは。」

「マンネルヘイム卿、歴代最強の騎士団長と謳われた其方でも敵わぬのか。それは上々、王女様はさぞお慶びになられるでろう。ただ・・。」

「ただ?」

「グスタフ団長、いまの王の御代で召喚は3人目であるが、なぜかようなお方が現れたのであろうか?しかも召喚に際してのあの泰然自若した態度はもとより、宮廷内での作法さえも・・・・若き騎士たちが見習うほどの立ち振る舞い。神が窮地にある我らに、最高の勇者様を遣わしてくれたと思いたいところだが、正直全て納得はできるわけではない。」

「宰相どの、それは私も全く同じ、ここはタケル殿に直に話してみるしかないかと。」


 

「そろそろ、お見えになる頃だと存じておりした、宰相閣下、騎士団長殿。申し訳ないですが、お人払いを。」といってカール君を見る。

「彼もか?」騎士団長がかれの息子である見習い騎士をみて、退室を促した。

「タケル殿、勝手を申すが、包み隠さずお話いただけないだろうか?」宰相の言葉に、ゆっくり頷くと、私は話し始めた。

 



「では、行ってまいります、王女様。魔王は必ずうち滅ぼされますのでご安心ください。」

「勇者様、絶対ね、絶対、魔王を倒して帰ってきてね、絶対よ。」

「大丈夫です王女様、必ずまたお会いできますから。だから安心していてください。」


まだ傷ひとつない聖剣を手に、手懐けたばかりのグリフォンにまたがると、魔王の軍に向かって飛び立った。本当にかわいいお姫様だ、では一仕事するか。

 

「行ってしまわれたな」宰相が騎士団長に語りかける。

「ああ・・、そうですな、なんと清々しい去り際でしょうか。」

騎士団長の双眸から滂沱の涙を流した。

「父上?」

「カール、勇者様の最後の姿だよく見ておけ。」

「え、父上、何を?まさか勇者様は魔王にかなわないとでも」

「いや、そうではない」

隣から宰相がカールに語りかける。

「カール君、魔王は必ずや討ち果たされる。が、勇者様も帰っては来られない。これは、すでに決まったこと、いや、これから決まることなのだよ、カール君。君は勇者様から学ぶことが多かったと思うが、勇者様のためにも今後一層精進するのだぞ」

宰相の言葉の意味は理解できなかったが、見習い騎士の私は飛び去る勇者様の姿を絶対忘れまいとただ見続けた。

「勇者様のため・・・・」

 

夕刻、赤く染まった空を一頭のグリフォンが王都の空に戻ってきた。全身傷だらけで、片目さえ失ったその聖獣は、王宮の庭に降り立つと、出迎えた王女達の前に咥えていた聖剣を置くと、南の山を目指して静かに飛び去った。

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