サンタクロースのスマホ押収

ちびまるフォイ

奴隷のバトン

「すみません。スマホを拾ったんですけど」


「はい。こちらで預かっておきますよ」


交番に届けられたのは赤緑カバーのスマホ。

遺失物置き場に置きっぱにしていたが、通知により画面が光る。



通知:悪い子データベースが更新されました!



「……悪い子データベース?」


興味半分でスマホを手に取る。

スマホにはロックがかかっていない。


スマホの画面には見慣れないアプリばかりが並んでいた。

その明らかに偏ったアプリ群で持ち主に気づく。


「これ、サンタクロースのスマホじゃないか!?」


サンタ用にカスタマイズされたアプリがなによりの証拠。

すぐに返却しなくちゃと警察官の良心が動く一方、

交番勤務のしがない木っ端警察官の下心も動いた。


「このスマホを使えば、警察官として名を上げられる……」


厳しい訓練、大量の勉強。

あらゆる青春と時間と金を注ぎ込んで勝ち取った警察の座。


いざ警察官になってみれば、凪のようにおだやかな交番勤務。

実績がない人間はずっとこのまま塩漬けだ。


実績さえ作れれば、警察の本部でドラマのような活躍ができる。

それにはサンタのスマホが必要だ。


「別に悪事に使うわけじゃない。

 警察の業務として使うんだ。悪いことじゃないさ……」


そう自分を納得させ、スマホをポケットに入れた。


その日を境に交番勤務の窓際警察官から、

検挙率ナンバーワンの凄腕エリート警察官になった。


「あはは! サンタのスマホって最高だ!!」


悪い子データベースを使えば、犯罪者の特定が可能。

必死こいて証拠を集める必要なんてない。


逃げられても、サンタアプリを使って警察車両を無重力化。

まるで空とぶソリのように空からショートカットして追いつける。

上空に速度制限などない。


大規模犯罪組織のアジトなんかにもサンタアプリは必須。


サンタのスリープアプリで中の人間をすべて眠らせ、

ステルスアプリで壁からアジトへ侵入し一斉検挙。


綿密な突入作戦も、潜入捜査も介さず一網打尽だ。



サンタアプリを使い始めてからすぐに警察本部への呼び出しがかかった。



「いやぁ、君の大活躍には驚いたよ。

 君を田舎の交番勤務にさせるのはもったいない。

 ぜひ警察本部でその手腕を発揮してくれたまえ」


「もちろんです!!」


ついに自分の実績が評価され、スポットライト浴びる場所へと移動。

自分の人生にレッドカーペットでも敷かれたようだ。


毎日ひもじかった毎日から、豪勢な食事。

社会評価が上がったことでモテまくりの日々。

欲しいものはすべて手に入った。


「ああ、ありがとうサンタさん!! スマホを落としてくれて!!」


天を仰いで感謝を伝えた。

その感謝は数日後に訪れる来訪者によって返答される。


休日の朝のこと。

家で完全な爆寝を決めていたときインターホンが鳴る。


「はい、どなたです?」


ドアを開けた瞬間、見覚えのある顔が玄関に立っていた。


「さ、サンタさん!?」


「メリークリスマス」


「もう正月すぎてますけど!?」


「メリークリスマス!!!!」


サンタにはスマホを強奪したことがバレていた。

有無をいわさずスマホを取り上げようとしている。


今このスマホを手放すわけにいかない。

これまで積み重ねてきた実績、人望、給料。なにもかもが失われる。


「くっそ!! 誰が手放すか!!」


警察学校で学んだ柔道が発揮される。

サンタを背負投げし、スマホを死守。


とっさに出した手錠でサンタを拘束した。


「メリークリスマス!」


「はぁ……はぁ……。悪いがこのスマホはもう俺のものだ。

 あんたは……そうだな、家宅不法侵入とかで逮捕だ」


サンタの服を剥ぎ、かっぷくのいい犯罪者にすり替えた。


不法侵入の現行犯ということでしょっぴいたが、

きらびやかな功績をもつ自分を疑う人はだれもいない。


「獄中で反省することだな」


牢屋に入れられたサンタへ捨て台詞を吐いた。

もう少しでスマホを取り上げられるところだった。


「さて、そろそろ仕事に戻るとするか。

 今日もたくさん悪い子を逮捕して……あれ?」


スマホの画面をつける。

なぜか指紋認証が追加されていた。


「ちっ。あのサンタデブのしわざか。

 なにか小細工をやりやがったんだな」


試しに自分の指をスマホにあてがう。

あっさりと指紋認証を突破できてしまった。


「なんだ何もないじゃないか。ビビらせやがって。

 スマホさえ使えりゃこっちのもん……わっ!?」


その指紋認証は、スマホのロック解除ではなかった。


指紋を認証したことで顔が内側からゴキゴキ音がする。

それにヒゲが急に伸びだし、腹が前にせり出してくる。


「うああああ!? なんだ!? どうなってるんだ!?」


鏡の前にたつ。

映っているのは警察エリートの自分じゃなくなっていた。


赤ら顔で世界にプレゼントを配る夢の奴隷。

サンタクロースその人だった。


声を出そうとする。

しかし喉がつまって同じ言葉しかしゃべれなくなった。


「メ……メリークリスマス……」


その日を境に、警察のスーパーエリートは謎の失踪となった。




一方、刑務所に閉じ込められていたサンタにも変化が起きた。


あれだけ大柄だった体はみるみる元に戻る。

その様子を見ていた看守は言葉を失った。


本来の細身の体に戻った元サンタは自分の身体をたしかめる。


「やった……やっと解放された。

 サンタ認証してくれたんだ……!

 もう年末に無給で死ぬほど働かなくて済む……!」


男は涙を流して喜んだ。

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