優しい獅子の殺し方

ともしび洋燈

プロローグ 何者でもない誰かの記憶

まだ寒さが抜けきっていない風が黄色い花びらを巻き上げ、空へと攫っていく。空の濃い青が一人の青年の銀の鎧に反射して、目に刺さった。


雲ひとつない空にまるで一つの雲が浮いているような、そんな小さな違和感。それが銀の鎧を着た青年だった。男が青年に意識を取られていると、その青年と目が合った。


期待と緊張に満ちた瞳に微かに己の姿が映り込む。これほど自身は鮮明な色合いをしていただろうか?


いや、違う。あの青年にとっての世界なのだ。誰かを信じ、その道に正義があると信じる人の眼だ。政治の泥に踏み入ったことなど一度もない、未熟さ故の純粋さ。


青年の視線はすぐに外れ、己の責務に戻っていく。青年の視線は既に己ではなく、他の者に向けられていた。青年がこれから先、その純粋さのもと支える相手に。当たり前だ。青年にとって己は他国から招待された大勢の一人に過ぎず、己にとっても青年はただの騎士の一人に過ぎなかった。


これはただの邂逅にすら値しない。お互いが大成したときに再び出会ったとしても相手は覚えてすらいないだろう。

にも関わらず、このたった一瞬の取るにたらない出来事を男が忘れることは決してない。

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