承認されなかった勇者ですが、却下理由は教えてもらえません

深山 紗夜

00 快適ライフ始めました



ほんの少しの勇気と希望で、まだ見ぬ世界へ。

快適なライフを──。


そんなコピーを、俺はネットカフェの個室でぼんやり眺めていた。


終電を逃したのは、今日が特別忙しかったからじゃない。

最近ずっと、こんな感じだった気がする。


背もたれに体を預けると、安い革の匂いが鼻につく。

床のカーペットは少し湿っていて、隣の個室からキーボードを叩く音が、薄い壁越しに伝わってくる。


上着の内ポケットに、指輪の箱が入っている。

触るたび、角が指に当たる。


明日は、彼女の誕生日だ。


屋形船を予約して、

無理をして指輪を買って、

それでも足りない気がしている。


「せっかくだから、特別なことしたいな」


そう言って笑った彼女の顔が、頭から離れなかった。


あの笑顔を、失敗させたくない。

でも同時に、失敗したらどうなるんだろうという考えも消えなかった。


もし、うまくいかなかったら。

この生活も、この関係も、音を立てて壊れるかもしれない。


だったらいっそ、

全部投げ出して逃げてもいいんじゃないか。


そんな弱い考えが、

画面の中の「まだ見ぬ世界」という言葉と、妙に噛み合った。


俺は、深く考えないまま広告をタップした。


──その瞬間、視界が白く弾けた。




次に目を開けた時、俺は草原に立っていた。


空がやけに広い。

風も強い。

足元の草がざわざわと音を立てて揺れている。


あまりにも「それっぽい」場所だった。


「……たぶん俺、来たな」


返事はない。


代わりに、隣に立っていた男が、なぜか剣を構えて俺を睨みつけた。

頭には、兎の耳。


「お前、外のヤツだな!?」


「え……ここは何の中?」


説明はない。

名乗りもない。

いきなり戦闘態勢。


異世界って、そういうものなのか。



俺も真似して、手を前に伸ばした。

剣が出るのか、魔法が飛ぶのか。


──何も起きない。


代わりに、空中に文字が浮かび上がった。


《武器の使用許可が降りていません》

《申請してください》



…………え?



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承認されなかった勇者ですが、却下理由は教えてもらえません 深山 紗夜 @yorunosumi

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