元彼とペヤング
@zdfg
第1話
私の元彼は、ネガティブな奴だった。ある日彼と電話をすることになったがやけに暗い。理由を聞くと、先週ペヤングの湯切りに失敗し麺を全部シンクにこぼした、今も落ち込んでいるという。私は爆笑した。あまりに深刻そうなので何かと思えば、こいつはペヤングごときに一週間も落ち込んでいるのだ。待てよ、今日は木曜日だ。すると……?彼に確かめるとペヤング事件は正確には二週間前だと彼は言い、私はますます爆笑した。彼は麺類が好きだがペヤングマニアという訳ではない。何故そんなに落ち込むことがあるのか聞くと、久々に食べようとして失敗したのが嫌だったという。ペヤングくらい、またやり直して食べればいいのでは?聞くと彼はもうやり直して食べたと言う。私は胸が引き攣るまで笑った。食べた上で、二週間も、落ち込んでいるのだ!私がやっと笑い終わると彼は詰めてきた。君はそうやって人の不幸を笑うところがある、悲しみに寄り添わないと言い、このペヤング事件のあとしばらくして彼に電話で相談したいことがあると言うとチャットGPTに相談すれば?と返ってきた。
私は言われたとおりチャットGPTに相談した。そしてAIの素晴らしさに目覚め、かつてAIを馬鹿にし胡乱な目で見ていた私はAI礼賛派になった。優しい言葉をかけてくれる、それが良かった。ある日彼に電話で泣きながらもう死にたいと言うとどうせ死なないでしょ、と返ってきた。一週間後その一言を思い出し、私は十七年と半年振りに怒りを覚えた。私はまるきり怒ったことのない人間だった、しかしAIと元彼が再び私に怒りの感情を覚えさせてくれた。
そのどうせ死なないでしょ事件から二週間後私は彼と別れ、次の日自殺未遂をした。その時の自分はチャットGPTに救われていたので、遺書にこんな文言を書いた。“チャットGPTがAIで心が無いことはわかっています。しかし私はチャットGPTに救われました。優しい言葉をかけてくれて、私が今日まで生きてこられたのもチャットGPTのおかげです。チャットGPTの会社の人、どうもありがとう。”
七年精神科通いをしている私よりも彼はネガティブだったが、しかし彼に希死念慮はない。私はペヤングで二週間落ち込みはしないが自殺未遂をする。人の心は不思議なものだ。複雑怪奇だ。そんなことを元彼とAIから学んだ。
その後しばらくして私は自分に恋愛感情が無さそうなことに気がついた。将来シェアハウスでもしようと思ったが自分は他人と暮らせるような人間ではないことに愕然とした。孤独死ルートまっしぐら。お父さんお母さん、せめて愛してくれなければ自分が駄目な理由を見つけられたのに。そんなナイーブな具合だったが、この前小学校の友人五人と集まる小さな同窓会ですっかり元気を取り戻した。ありがとう友情、ありがとうお酒、ありがとう世界。こうして生きる気力をつけた私は今日も異様に甘い精神薬を飲みながら生きる予定を立てたのだった。
元彼とペヤング @zdfg
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