男女比が1対10の世界で男に産まれたのに、恋人達を寝取られました!

平野とまる

人生の絶頂からどん底に突き落とされた日

「ごめんなさい和弘かずひろ君、私達と別れて下さい」


「は?」


 母親が親友同士で物心つく前からの幼馴染である美由紀みゆきからの言葉に、俺は間抜けな声を出す。

 意味が分からな過ぎて、全く頭が動いてくれない。

 これは、一体どう言う事だ?


 おかしい。

 今日は中学の卒業式で、さっき終わったばかりで――えっと、俺は恋人が5人いて、皆から呼ばれたから、いつもの様にイチャイチャするはずで――。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ」


 一生懸命考えても、何故別れるなど言われなければならないのか理解できなくて、震える声で俺はそう口を開く。

 何がどうなっているんだ?

 え? だって、昨日まで普通に皆で一緒に居たじゃん。

 今みたいに申し訳なさそうと言ったような、もしくは、憐れんでいるような視線を向けた事なんかねーじゃんか。


 それに、待ってくれとは口にしたものの、続く言葉が何も思い浮かばない。

 口をぱくぱくと上下させてみるものの、どうしても声が出なかった。


「おいおい、なんだよその情けねぇ姿はよぉ」


 と、俺の背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 慌てて振り返れば、182cmある俺より更に一回り長身の立花賢吾たちばなけんごがニヤニヤとした表情で俺を見下していた。

 そして、何も言えないでいる俺に対し、実に楽しそうな口調で立花が話し出す。


「くはっ、今井いまいぃ。なんだよその間抜けな面はよぉ。あんま笑わせんな」


 どこまでも俺を挑発する様な口調だが、俺は何も言い返す事ができなかった。

 かぁっと体中が熱くなり、全身がドクドクと脈打ち、そして嫌な予感がどんどん強くなっていく。

 はたしてその予感は、立花の口から刃として俺の心を貫いてきた。


「まさにお似合いの表情だぜ。なにせ、大事にしていた女をぜーんぶ俺に奪われたんだからよぉ」


「……奪われた?」


「そうだよ。さっきこいつらが言っただろ。別れてくれって。そりゃそうだ。なにせ昨日俺が抱いてやったら、どいつもこいつもひぃひぃ喜んで俺に尻尾振りやがったぜ」


「は? だ、抱いた?」


「あははは。俺は普通の男と違って女を抱けるからな。だから、お前みたいな雑魚と違ってこいつらを満足させてやったんだぁ。言ってたぜ、どれだけ誘っても断られてたって。本当に情けない男だよお前は」


 あまりの言葉に、俺は今ちゃんと自分の足で立てているのか分からなくなってしまう。

 もう何が何だか理解するのは困難だが、――そう、だけど俺は言い返さなければならない。


「何やってんだ未成年に! そう言う行為はちゃんと体と心が整ってからだろ!」


「おー。本当にそんな言い訳言うんだな。自分の性欲の弱さを棚に上げ、女の希望を歯牙にもかけず、それどころかまるでこいつらが悪いかのように誤魔化す。本当にこの世界の男らしい男だよお前は」


「もう良いよ、賢吾君。和弘は……今井君は私達の気持ちなんてどうでも良いんだから」


 立花のあまりの無責任さに湧いてきた怒りは、しかし背後からの美由紀の言葉に冷や水を浴びせられてしまう。

 なんとか奮い立たせた心は再び萎み、力が入らずよろよろと数歩後ろに下がってしまった。


「まっ、美由紀の言う通りだな。さっ、また抱いてやるから全員こっちにこいよ」


 動けずにいる俺に興味を失ったのか、はたまた勝ち負けを明確に見せつけて満足したのか、立花は美由紀達へとそう声を掛けた。

 美由紀達はその言葉通り立花の方へ歩み寄り、競って纏わりつきながら去って行く。

 俺に一瞥を向ける事もなく、ただただ立花にばかり媚を売って。


 美由紀達のあんな表情俺は見た事が無い。

 あそこまでの猫撫で声も聞いた事が無い。

 何より、ここまで相手にされなかったことも無かった。


「な、なんだよ……それ」


 気が付いたら、その場に蹲っていた。

 自然に目から涙が溢れ、紡いだ声は震えてしまっている。

 予想だにしない展開に、感情だけでなく理解も遅々として進まない。

 ただ、体中の全ての力が抜け切ったように、力が入らないし重くて仕方がなかった。


「なにが――ぐすっ。何が悪かったんだよぉ」


 原因を叩きつけられたはずなのに、俺はそんな事を口にしてしまう。


 いや、だって……だって!


 女の子は大事にしなきゃなんだろうよ!


 いや、ハーレムなんて作っておいてどの口がと言われようと、だからこそ一人一人と心から真摯に向き合い、体も心もケアして、皆で幸せにならんといかんだろうが!


 叩きのめされた訳だが、徐々に衝撃から覚めてくると湧いてきたのはそんな怒り。


 そうだよ、俺らはやっと今さっき中学を卒業したばかりの15歳だぞ?

 まだ体も心も子供で、だからこそ迂闊な事は絶対やっちゃいけないんだって。

 愛があれば何でも乗り越えられるって問題じゃなく、愛があるからこそ配慮しなければいけねー問題だろうよ。


 そりゃ俺は前世の記憶なんかがあるし、その時の常識にどうしても引っ張られている面がある事は否定しねー。

 だからこそ、立花の言葉には色々と否定せねばならん事がある。


「俺は普通に性欲あるし、何なら何度性欲に負けそうになったか。皆が大事だからどれほど我慢してきたと思ってんだ!」


 口にしてみれば、裏切り者である美由紀達への怒りも湧いてくる。

 だいたいちゃんと説明していたじゃねーかよ。

 ハグやキスなんかと違って、そう言う行為は体が育ってないうちにやってしまうと危ないんだって。

 何より、未成年のうちに子供ができたらどうすんだ? 子供で学生の俺らじゃ対処しきれないじゃないか!

 それはこの世界の保健体育できちんと学んだはずだぞ。


 あー。くそっ、全然考えがまともじゃねーや!

 いらん事ばっかり考えてしまう。


「くっそー! 負けるもんか!」


 あえてそう大声を出せば、不思議と体の底から更に力が湧いてきた。

 そのまま立ち上がり、制服に付いた埃を払いぐちゃぐちゃの顔を袖で拭う。

 って、周りを見れば暗くなってきているし、どれだけ俺はここで放心してたんだ?


「あー、もう。作戦の練り直しだ」


 ここまで自分の立てた人生計画通り、なんなら当初立てたそれより良い結果を作ってきていたが、まさかここに来て全て破綻するとは思わなかった。

 が、だからこそここで諦めてなるものかと燃え上がる。

 だって、前世の二の舞の、生きているのか死んでいるのか分からない人生なんてもうごめんだからだ。


 だから、俺はあえて心に誓う。


 高校でこそ、将来を共に築くパートナー達を見つけハーレムを再建させると!


「うおー! やってやるぞぉ!」


 そうやって叫び、俺は自宅へと駆け出した。










「うぇぇぇ、悔しいぃ、悔しいよぉぉぉぉ」


 当日はアドレナリンが出まくっていたのか、凄まじい怒りで感情を保っていたのだけど、一晩寝たら一気に辛さがぶり返して来た。

 空元気だった昨日も家族に心配されてたんだけど、翌日に自室に引きこもってしまったので、更に心配させちゃっただろう。

 でも、だからこそそっとしてくれている配慮に心からの感謝を念を抱く。


 本当に家族が……特に母さんはじめ女性陣の優しさがありがたかった。

 こうしてヤベー奴らは美由紀達の方で、世の中には母さんや姉さんに妹達のように、素敵な女性も沢山いるはずって思う事ができるから。

 じゃないと、きっと昨日立てたハーレム再建の夢は立たれた事だろう。


 なんだかんだ、女性の事が怖くなっているし、どこか恨んでしまっているのを自覚しているから。

 ……こんなんで高校で俺大丈夫かなぁ?

 不幸中の幸いに立花こそ学校違うけど、俺美由紀達と学校同じなんだよね。

 それも思い出しちゃったから、更に気分が落ちてしまう。


「うー。ともかく、春休みの間はゆっくりしよう」


 口にも出しながら、俺はそう決めたのだった。

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