天と平和
祐里
生きる糧
十七年も生きれば、日常の何にでも戦いが発生していることに気付く。高校受験、バスに乗る順番、テストの点数、彼氏の有無、お弁当の豪華さ、髪の綺麗さ。服を買いに行った店で「あー、それもうMサイズは売れちゃったんですよー」。こんなに疲れる世の中じゃ、力を抜いて生きるしかない。
だから私は良いことが起きた分だけ生きることにしている。天気が良かったらとりあえず明日まで。先生に褒められたらもう一日。チョコチップ入りいちごミルクメロンパンを買えたらもう一日。猫に会えたらもう一日。ヒト任せモノ任せで、私の生は繋がれている。
今日は糧がヤバい。昨日食べたもちもち苺クレープ(ふわふわメレンゲ入り)は、香料はきつくなかったけれど、メレンゲのふわふわがいまいちだった。猫にも会えなかった。雨が降りそう。私はきっと今日死ぬべきなんだ。戦いの日々を生きる気力が湧かないのだから仕方ない。
そんな気分の三時間目、背中に竹刀が入っていそうな日本史の先生が言った。
「天気予報は、太平洋戦争の間は知ることができませんでした。気象情報は軍事情報として敵国に知られないよう徹底的に隠されていたからです。天気予報を毎日知ることができるのは平和な証拠です」
平和、ね。と思った。ノートの角を左手の人差し指で触った。窓の曇り空を見上げた。新作スイーツを買うためにコンビニに寄る自分を想像した。窯出しプリン(とろけるあまおうソース付き)を頭に思い描いた。
何をもって生を繋ぐかを真剣に考えないといけない気がしたけれど、無駄なことのような気もした。そうしてプリンと苺ソースのコラボレーションビジョンを描けたところで、私の脳は思考をやめた。
四時間目の校庭で、体育の先生がにわか雨に降られているのが見えた。その姿を「カッコわる。ざまぁだな」と笑う人が何人かいた。あの先生はいつも偉そうにしているから、胸がすっとするのはわかる。でも、自分の生きる気力としてはカウントしたくないと思った。
「あ、そっか」
唐突に気付いた。いくら嫌いな人とはいえ、不幸になっているのを見るのは嫌なんだ。けっこういいやつじゃん、私。
コンビニじゃなくてミスドに寄ろう。雨が降り始めたから
小さな戦いが続く日常でも、天気予報を見ることができる世の中でよかった。
天と平和 祐里 @yukie_miumiu
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