第十七章 教育と継承
量産体制が確立しても、一つの問題が残っていた。
「操縦者が、足りない」
正義は、リリアナに報告した。
「機体があっても、動かす人間がいなければ意味がない」
「王国軍から、志願者を募っていますが……」
リリアナの顔が、曇った。
「適性のある者が、なかなか」
「わかっています。だから——」
正義は、一つの提案をした。
「『操縦訓練学校』を作りましょう」
「学校?」
「ええ。適性のある若者を集めて、体系的に訓練する。座学と実技を組み合わせて、一か月で基本操作を習得できるカリキュラムを——」
「一か月?」
リリアナが、目を丸くした。
「帝国では、魔導兵器の操縦訓練に一年かかると聞いていますが」
「帝国は、複雑な機体を複雑なまま使っている。でも、甲型は——」
正義は、微笑んだ。
「シンプルに作った。だから、習得も早い」
訓練学校の開設準備が始まった。
カリキュラムは、正義が設計した。
【第一週】座学
機体の構造と原理
安全規則
基本操作の理論
【第二週】シミュレーター訓練
基本動作の習得
歩行と走行
停止と方向転換
【第三週】実機訓練(基礎)
実際の機体での操作
指導員同乗での訓練
基本動作の反復
【第四週】実機訓練(応用)
単独での操作
武装の使用
模擬戦闘
「……すごく、体系的ですね」
リーネ——いや、今はエルザの隣で補佐を務めているリリアナが、感心したように言った。
「帝国にも、こんなカリキュラムはないでしょう」
「これが、『教育のシステム化』です」
正義は、説明した。
「個人の才能に頼らず、『仕組み』で人を育てる。そうすれば、大量の操縦者を短期間で養成できる」
訓練学校が開校した。
最初の訓練生は、三十名。王国各地から集められた若者たちだった。
初日の訓練を見学していたガンドルフが、正義に声をかけた。
「お前の教え方は、独特だな」
「そうですか?」
「普通の師匠は、『見て覚えろ』と言う。だがお前は、全てを言葉にする」
「言葉にしなければ、伝わらないことがある」
正義は、訓練生たちを見つめながら言った。
「俺の師匠も、『見て覚えろ』派だった。おかげで、俺は何年もかかって技術を身につけた」
「それは、悪いことか?」
「悪くはない。でも——」
正義は、首を振った。
「時間がかかりすぎる。今、俺たちには時間がない」
ガンドルフは、しばらく黙っていた。
そして——
「わしも、お前のやり方を学びたい」
「ガンドルフ殿が?」
「ああ。三百年間、わしは『職人の勘』を磨いてきた。だが、それを次の世代に伝える方法を、わしは知らなかった」
ガンドルフは、正義を見た。
「お前の『形式知化』という考え方。それを、ドワーフの鍛冶術にも応用したい」
正義は、深く頷いた。
「喜んで、お手伝いします」
一か月後。
最初の訓練生三十名が、卒業を迎えた。
「本日をもって、諸君は『カルダニア王国機動部隊・第一期生』となる!」
正義の声が、訓練場に響いた。
整列した三十名の若者たちの顔には、誇りと緊張が入り混じっていた。
「諸君の任務は、祖国を守ること。だが——」
正義は、一人一人の目を見た。
「それ以上に大切なことがある」
「何でしょうか」
最前列の青年が、問いかけた。
「『生き残ること』だ」
正義は、静かに言った。
「死んでしまえば、何も守れない。だから、生き残れ。そして、次の世代に技術を伝えろ」
青年たちの目に、決意の光が宿った。
「この技術は、俺だけのものじゃない。ガンドルフ殿のものでも、リリアナ王女のものでもない」
正義は、拳を握った。
「カルダニアの、みんなのものだ。だから——」
「伝えていきます!」
三十の声が、一つになって響いた。
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