第十六章 量産への挑戦
ドワーフの里、ハンマーホルドでの日々は、着実に成果を上げていた。
「これが、量産機の試作品だ」
正義は、工房に集まった仲間たちの前で、新しい設計図を広げた。
試作一号機とは、全く異なるコンセプトだった。
「名前は、『カルダニア型汎用作業機・甲型』。略して『甲型』」
「……地味な名前だな」
エルザが、率直な感想を述べた。
「派手な名前は必要ない。大事なのは、『誰でも作れる』『誰でも整備できる』『誰でも操縦できる』こと」
正義は、設計図の特徴を説明し始めた。
「試作一号機は、俺一人しか操縦できなかった。複雑すぎたんだ」
「確かに、あの機体は——」
グレンが頷いた。
「操縦席の計器だけで百以上あった。普通の人間には、とても扱えない」
「だから、甲型は徹底的にシンプルにした。操作系統は十分の一以下。訓練すれば、誰でも一週間で基本操作を習得できる」
リリアナが、設計図を覗き込んだ。
「でも、それでは性能が落ちるのでは……」
「落ちる」
正義は、あっさりと認めた。
「一号機と比べれば、最高速度は七割、出力は六割。一対一で帝国機と戦えば、おそらく負ける」
「では、どうやって——」
「数で勝つ」
正義は、静かに言った。
「一機では勝てなくても、三機、五機、十機で戦えば——勝機はある」
ガンドルフが、髭を撫でながら言った。
「ランチェスターの法則、か」
「ご存じでしたか」
「わしは三百年生きておる。人間の戦の歴史も、多少は知っておる」
ガンドルフは、立ち上がった。
「よかろう。ドワーフの総力を挙げて、その『甲型』とやらを量産してやる」
「ありがとうございます」
正義は、頭を下げた。
量産体制の構築が始まった。
正義は、前世で学んだ「生産管理」の知識を、惜しみなく投入した。
「まず、工程を分解する」
大きな紙に、製造工程を書き出していく。
「鋳造、機械加工、熱処理、組立、検査。この五つの大工程を、さらに細分化する」
「なぜ、そんなことを?」
若いドワーフが、疑問を呈した。
「『分業』のためだ」
正義は、説明した。
「一人の職人が最初から最後まで作るのではなく、工程ごとに担当を分ける。そうすれば——」
「それぞれが、自分の担当工程に習熟できる」
ガンドルフが、補足した。
「結果として、全体の生産性が上がる」
「その通りです。さらに——」
正義は、別の紙を広げた。
「『標準作業手順書』を作成します。誰がやっても、同じ結果が出るように」
「……我々ドワーフは、職人の勘と経験を重んじてきた」
ガンドルフの声に、わずかな抵抗があった。
「それを否定するわけではありません」
正義は、真剣な目で言った。
「ベテランの勘と経験は、貴重な財産です。でも、それを『形式知』に変換すれば——その財産を、次の世代に受け継げる」
「形式知……」
「頭の中にあるものを、文字と図にすること。そうすれば、百年後の職人も、あなたの技を学べる」
ガンドルフは、しばらく黙っていた。
そして——
「……わかった。やってみよう」
生産が軌道に乗るまで、二か月かかった。
最初は問題の連続だった。
「鋳造品に気泡が入る」
「組立時に寸法が合わない」
「検査で不合格が続出する」
だが、正義は一つ一つの問題に対処していった。
「不良が出たら、原因を追究する。『なぜなぜ分析』だ」
「なぜ、気泡が入ったか? 溶解温度が低かったから」
「なぜ、温度が低かったか? 燃料の品質にばらつきがあったから」
「なぜ、ばらつきがあったか? 仕入れ先を統一していなかったから」
「では、仕入れ先を統一しよう」
この繰り返しで、不良率は徐々に下がっていった。
そして——
「十号機、完成!」
エルザの声が、工房に響いた。
二か月で、十機の甲型が完成した。
「すごい……」
リリアナが、整然と並ぶ機体を見上げて呟いた。
「本当に、量産できたんですね」
「まだ始まりに過ぎません」
正義は、静かに言った。
「目標は、百機。そのために——」
仲間たちを見回した。
「次のステップに進みます」
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