【天気】ご近所さん

オカン🐷

第4話 ご近所さん

「あたしなんて腰すべり症で奥の方だから手術が大変だったんだから」


 いきなり参入して来た田所さん。

 峯山さんと二人唖然としてしまった。

 はあ、そですかと思いながら、

「大変でしたね」

 と返した。

 峯山さんとは同じ3階で娘同士が同級生。

 飲みの女子会などもよくする。

 マンションエントランス横で久々に会い、

「最近どうしてた?」

 から、医大で手術、入院をした話に及んだ。 

 決して病気自慢をしてたわけやなく近況報告をしていただけ。

「暑い所で話も尽きないから上にあがろうか」

 を合図に階上の田所さんに別れを告げた。

 いくらお天気がいいって言ったかて、カンカン照りのお日様の下で立ち話もない。


 田所さんとはこのマンションに引っ越して来る前からのお付き合いで、社宅で一緒だったこともある。母に近い年齢。

 ご主人が転職したので社宅を出て、先にこのマンションに入居されていた。

スイミングで一緒になったこともある。

「あいつタトゥーを入れてたんやで、胸に傷痕がある」

 エアロビクスの男性コーチのことを言っている。

 ええやない、一生延命教えてくれてるんやから過去はどうでも。

 田所さんは見た目は上品そうなのに口が悪い。



 それから再開したとき話の腰を折ったことを悪いと思ったのか、

「何の手術をしたの?」

 と訊かれたが、

「「いいえ、たいしたことではないです」

 と言葉を濁した。



 ある晩のこと田所さんが訪ねて来て、応対に出た主人が出て行った。

 しばらくして帰って来た主人が話すには、田所さんのご主人がお風呂の浴槽から出られなくなったと言う。それで助けを求めて来たのだと。

 へっ、車で2、30分の所に息子さんがいるのに。

 主人もよう断らんかったもんや。

 岸和田の駅前で私が倒れた時は、「無理、無理」って言って手を差し伸べてもくれなかった。せめてポーズだけでも起こそうとしてほしかった。倒れたら自力では起き上がれない。

 通りかかった女性がお越してくれようと自分の荷物を地面に投げ出した。

 結局、起き上がることは出来なくてもありがたさが身に染みた、と同時に孤独感に苛まれたのも事実だった。

 結局、駅員さんに助けられ難なく起き上がることが出来た。

 主人は行動するとき、まず頭で考える冷静さがあるのだろう。

 でも、田所さんのご主人は私より二回りも体の大きい人だった。



 田所さんの奥さんはよく通る大きな声で話すものだから、だいぶ離れた所にいても華やいだ声があちらこちらから聞こえてきていた。

 随分とお知り合いがいるんやと思い込んでいたけどそうではなく、ちょっとした隙間を見つけてはお日様の光の様に割り込んでいって、話し相手を見付けていたのかもしれない。

 泉下の人となってしまった奥さん、案外寂しかったのかもと思うと切なくなる。




                【了】

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