第4話 K家 S子
夫が起きていることは知っていた。朝6時、彼にしては珍しい早起き、朝6時。
私は布団を頭までかぶって、猫のミケを抱きしめている。寝室はぴったりとふすまが閉じられている。カーテンも同じ。朝の光は私のもとには届かない。
ミケは私の腕の中で丸くなって、穏やかに呼吸を繰り返していた。
夫の足音は忙しない。家中のゴミを集めて回っている。2階の客間、リビング、キッチン。何往復もしている。ゴミ袋のカサカサという音が私の耳を撫でている。
玄関が開き、お義父さんが夫の名前を呼んだ。2人の低い声、潜められた声は私には聞こえない。何度かやりとりしている。
「あれの用意はまだなんか?」
聞き取れてしまう言葉に、私は耳をふさぎたくなった。やめて、私が聞いてしまう声で話さないで。
玄関を閉め、2人は外に出た。
2人は寝室に面した庭に向かっていった。
4年前に建てた新築のうちには蔵がない。ただ、穴がある。コンクリートで固め、鉄の扉で閉じられた、穴が。
重く錆びついた扉を開く音が分厚い掛け布団の隙間から入り込んだ。
2人は言葉少なに話を続ける。
ゴミ袋の音がする。
ミケの呼吸の音をもっと聞きたくて、私は胎児のように丸くなった。ゆるやかに目覚めたミケはゴロゴロと喉を鳴らして、私の形に合わせて丸くなる。
夫は魅力的な人だった。結婚していないのが不思議なくらい優しく、誠実で、穏やかで、ハンサムで、背が高くて。
結婚する前に実家のことを話してくれた。村の名前なんて地図でしか知らない都市部で育った私は、そんなことは関係ないと夫の忠告を軽く笑って、結婚を躊躇する彼に応じなかった。
気づけば庭からは2人の気配が消えていた。
夫はまた、家の中に入る。
キッチンに入り、まな板を出す。ネギを切る小気味良い音は早鐘を打つ私の心臓に寄り添っている。レンジで昨日の残りの肉じゃがを温める。茶碗と皿を出す。
ずっと私は自分で作り出した闇を凝視していた。
この村に関係ない私は、起きなくてもよいと言われていた。でも、あたたかい朝食は2人分。
ケトルから水蒸気が噴き出す、笛の音が聞こえた。
私はミケを撫でてそっと掛け布団をめくった。鴨居にかけられたカーディガンにカーテンの隙間から差した朝日がひと筋、かかっている。
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