第2話 天夜さま

「……おはようございます、雪近ゆきちかさん。ご機嫌のほどはいかがでしょう?」

「はい、天夜あまよさま。私は頗る壮健でございます。天夜さまはいかがでしょう?」

「そうですか、それは良かったです。はい、私も壮健ですよ」



 ある日の小昼の頃。

 そう、柔和な笑顔でお尋ねになる10代後半の可憐な少女。彼女は天夜さま――帝さまの数多いるお后さまの一人で、その中でもひときわ彼の寵愛を受け……いや、正確には真に愛しているのは彼女一人と言って過言でないくらいに帝さまにとって特別な御方で。そして、昨夜も帝さまは天夜さまと――



「……あの、どうかなさいましたか雪近さん」

「……へっ?」

「……いえ、どうにもご表情が優れないようですので」

「……いえ、ご心配には及びません。お気遣いありがとうございます、天夜さま」


 すると、心配そうにお尋ねになる天夜さま。そんな彼女に、努めて笑顔で答える僕。……しまった、顔に出ていたのかな……うん、ほんとに気をつけないと。



 

「……ところで、雪近さん。改めてですが、本当にありがとうございます」

「……へっ?」

「ほら、先日のことです。他のお后の方々から嫌がらせを受けていたところを、雪近さんが助けてくださったではありませんか。……尤も、助けてくださっているのは先日のみならず屡々のことですが。なので、いつもありがとうございます、雪近さん」

「……ああ。いえ、感謝など畏れ多いことです。私が勝手にそうしているに過ぎないので」



 すると、ふと感謝を口になさる天夜さま。一瞬、何のことかと思ったけど……ああ、そのことね。


 と言うのも……帝さまのご寵愛を一心に受けている天夜さまは、他のお后さま方々の妬み嫉みの対象として嫌がらせを受けていて。そして、自分で言うのもどうかとは思うけれど、そんな状況の彼女を僕が何度かお助けしているわけで。


 だけど、感謝には及ばない。そもそも、僕の方も天夜さまには深く恩を感じていて。と言うのも――僕が男性だと判明するような危機に陥った際、天夜さまが救ってくださったことが何度もあって。尤も、天夜さまは僕が男性だということをご存知ないので、救ってくださったというのはその時々の彼女の行動が結果的に、ということであり、当然のこと彼女自身のご意思ではないのだけど……それでも、僕からすれば救ってくださったことに変わりなくて。それこそ、今まで隠し通せたのは天夜さまのお陰と言っても全く過言ではないわけで。


 だけど、申し訳なくも感謝の念を言葉としてお伝えするわけにはいかないので、僕も彼女をお助けするという行動で示すことにしたわけで。



 ところで、まさしくこういった――妬み嫉みによる嫌がらせが続いたため、いつからか天夜さまは体調不良などを理由に帝さまとの共寝をお断りするようになったとのこと。


 だけど、ある頃から再び帝さまの共寝に応じるようになったそうで。突然どうしたのかと宮中にて囁かれていたけど……それは、恐らく僕にあるんじゃないかと。僕が天夜さまをお助けするようになったことで、嫌がらせに対する恐怖が多少なりとも薄れたのではないかと。


 尤も、僕の思い上がりである可能性は全く以て否めないけれど……でも、そう考える方が時期的にもしっくりきて。実際、天夜さまが再び帝さまとの共寝に応じるようになったのは、僕が彼女をお助けするようになってからなわけで。



 

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