『このお方、なんか面白そうだわ』と感じたら勇気を振り絞って「アピール!」しなさい! 〜高飛車な天才魔導師は、なぜか誰からもアピールされない〜
エートス記録官
第0話 お任せなさい、孤高とはわたくしのことですわ
お任せなさい、これこそが、あなたの人生を華麗に彩る、わたくしという存在ですわ!
休日は次元の狭間で悪魔や幻獣と戯れるのが常。
街に赴けば、見知らぬ老婆がわたくしに引き寄せられ、
「あら、あなた、いつもニコニコしていて可愛らしいわねぇ」と、褒めるのですわ。
我ながら、なぜそう言われるのかは謎ですが、時空を操る魔導師にして、孤高のソロプレイヤーたるわたくしが、老若男女問わず人を惹きつける、底知れぬ魅力に溢れていることだけは確かですわ!
しかし……孤高ゆえに、一人飯という地獄の試練に飽きてしまいましたの。
スイーツに一喜一憂したり、くだらないことで腹筋がちぎれるほど笑い合ったりできる、前衛を募集していますわ。
わたくしが詠唱を始めたら、あなたはただわたくしを守ることに集中すればいいわ。
その報酬として、想像を絶するパワーで、敵を木っ端微塵にしてあげますわ!
この超絶ハイスペックで超絶頭のいいわたくしを味方につければ、あなたの人生はイージーモード突入確定ですわ!
「このお方、なんか面白そうだわ」と感じたら、勇気を振り絞って「アピール」しなさい!
後悔するか、しないかは、あなた次第ですわ!
……と、ここまで言っても。
酒場の空気は、微動だにしなかった。
木の床を叩くジョッキの音。
隅のテーブルで鳴るサイコロ。
カウンターの奥から漂う、焦げた肉と香草の匂い。
わたくし――ソフィ・ブライトンは、堂々たる演壇……ではなく、酒場の入り口横に置かれた即席の樽の上に立っていた。
なお、ここで補足しておくと。
わたくしはエルフである。
血統も由緒も、誰がどう見ても正統派。
耳だってちゃんと尖っている。
目だって澄んだ青だ。
魔力の輝きだって、隠す気がなければ暗闇で読書できる程度にはある。
ただし。
世の中の人々が勝手に想像する「すらりとした長身のエルフ」とは、いささか違う。
……違うのだ。
わたくしは、どちらかといえば――どっしりしている。
身長は低め。
重心は下。
歩けば床が安心する。
鍛えたわけではないが、なぜか体幹が強い。
「ドワーフっぽいね」と言ったやつは、全員一回は雷に打たれた。
しかし、天才とは往々にして規格外である。
体型など、些細な誤差。
重要なのは中身。
魔導の器。
そこに尽きる。
それなのに。
――誰も、アピールしてこない。
「…………」
樽の上で、わたくしは微笑んだ。
そう、微笑みは大切だ。
老婆が褒めるのだから間違いない。
「遠慮は要りませんわよ。わたくしは寛大ですもの。いま手を挙げれば、人生が救われますわ」
沈黙。
客たちの視線が、わたくしの頭頂部より少し上を漂い、壁の装飾やらメニュー札やらに逃げていく。
その逃げ方が、妙に揃っているのが腹立たしい。
集団としての統率が取れている。
素晴らしい。
だが違う。
「……なるほど」
わたくしは理解した。
この場の者たちは、わたくしの“圧倒的スペック”に臆しているのだ。
そのため、声が出ない。
わかる。
わかるわ。
そういうこと、あるものね。
「では、仕方ありませんわね」
わたくしは優雅に樽から降りた。
降りるだけで、床が少し安心した気がするのは気のせいだ。
カウンターへ向かい、椅子に腰掛ける。
椅子がきしんだ。
店主が、わずかに目をそらした。
客が、さらに目をそらした。
「……店主。甘いものはありますの?」
「え、えぇ。りんごのタルトなら……」
「それを。紅茶も。砂糖は二つ」
「……承りました」
店主の声が、どこか“救われた”ように聞こえたのは気のせいではないと思う。
わたくしがスイーツを頼むと、人は安心するのだ。
「強者にも日常がある」と思えるのだろう。
健全な心理である。
タルトが運ばれてくるまで、少し時間がある。
その間、わたくしは――ふと、昨日のことを思い出していた。
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