第2話 「ゲーム開始」

 意識が浮上したとき、最初に感じたのは足元の硬さだった。

 冷たい石の感触。安宿の薄い寝台とは、まるで違う。


 ソーマはゆっくりと目を開ける。


 そこは、巨大な円形の広間だった。

 天井は見えないほど高く、壁一面には魔法陣が刻まれている。淡い光が脈打つように明滅し、まるで生き物の内側にいるような錯覚を覚えた。


 周囲には、同じように戸惑った表情の人間たちがいた。

 年齢も性別も、服装もバラバラだ。

 共通しているのは――どこか余裕がないこと。


「……ここ、どこだ?」


 誰かが呟いた。

 それに答える者はいない。


 やがて、空間全体が低く震えた。

 天井付近に、巨大な魔法映像が展開される。


『ようこそ、参加者の皆様』


 聞き覚えのある、あの明るすぎる声。

 ブラックギルドだ。


『ここは激戦区〈ゲキセンク〉第一収容エリア。

 あなた方は、厳正な選考の末、ゲーム参加者として選ばれました』


 ざわめきが広がる。

 “選ばれた”という言葉に、皮肉を感じたのはソーマだけじゃないだろう。


『ご安心ください。

 本ゲームは、公平かつ公正に設計されています』


 その言葉と同時に、各参加者の前に小さな光の板が浮かび上がった。

 ステータス表示だ。


 名前、年齢、簡易的な能力値。

 そして――所持装備。


 ソーマは、自分の表示を見て、息を呑んだ。


【装備:欠けた短剣】


 それだけだった。


 周囲を見渡すと、剣や斧、魔法媒体を持つ者もいる。

 明らかに質の違う装備を与えられている参加者もいた。


『装備は、あなた方のこれまでの“生き方”を反映しています』


 淡々とした声が続く。


『努力、実績、信用。

 それらは、すべて数値化されました』


 つまり――

 今まで奪われ続けてきた人間は、ここでも同じ扱いを受ける。


 誰かが怒鳴った。

「ふざけるな! こんなの最初から不公平じゃないか!」


 だが、ブラックギルドは笑うような声で答える。


『不公平?

 いいえ。世界は常に、こうでしたよ』


 広間の床が、ゆっくりと割れ始めた。

 円形に区切られた通路が、いくつも姿を現す。


『第一ゲームのルールは単純です』


 映像が切り替わり、迷路のような構造が映し出される。


『制限時間内に、生存区域へ到達してください。

 脱落条件は――死亡、または行動不能』


 一瞬、静寂が訪れた。


 誰かが、乾いた声で笑った。

「……要するに、生き残れってことか」


『なお』


 ブラックギルドの声が、わずかに低くなる。


『参加者同士の干渉は、禁止しておりません』


 その言葉の意味を、全員が理解するまでに、時間はかからなかった。


 合図もなく、通路の一部が解放される。

 人々が一斉に動き出した。


 押し合い、怒鳴り合い、我先にと駆け出す。

 誰かが転び、踏まれる。


 ソーマは、動かなかった。


「……焦ったら、死ぬ」


 自分に言い聞かせるように、そう呟く。

 欠けた短剣を握る手が、震えていた。


 力はない。

 装備も貧弱だ。


 だからこそ、考えなければならない。


 このゲームは、強い者が勝つようには作られていない。

 ――弱い者が、どうやって切り捨てられるかを見せるためのものだ。

なら。


「……俺は、その外に行く」


 ソーマは、人の流れとは逆の、静かな通路へと足を踏み出した。


 背後で、誰かの悲鳴が上がる。


 それを振り返ることはしなかった。


 生き残ると決めた瞬間から、

 この場所では――選ばないこと自体が罪になるのだから。

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ゲキセンク @kurenan

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