第7話 アリスのゆかいな親友たち
アリスは、道行く人々にあいさつしたり、返事をしたりしながら、いつもどおりに通学路を歩いていた。
いや、ブルーが新しくパートナーになったよろこびで、いつもよりテンションは高かったけれど。
通りがかりの人たちからも、きょうはごきげんだねえとつっこまれるくらいには。
当のブルーは、ウォッチの中から見える外のようすに、目をキラめかせていた。
特殊な場所からの視点というものめずらしさもあるけれど、子どもから老人にいたるまでの人間、地上を歩き空を飛ぶワンダーの姿など、実に多種多様な生きものの姿は、見ていてまったく飽きないのだ。
なにしろブルーの故郷ドラゴピアには、ドラゴンばかりだったものだから。
ほかの生きものもいないことはなかったけれど、ここまで雑多なわけじゃなかった。
『ワンワン!』
それに、そばにはミルフィーヌというにぎやかな同居人もいる。
あとでアリスに、ウォッチの中は快適だったよって伝えよう。と、ブルーは思った。
☆ ☆ ☆
家から歩いて10分ほど。アリスは学校の校門へとたどりついた。
公立ふしぎ小学校。児童数600人以上をほこる大きな学校だ。
校庭もとにかく広くて、門から校舎までの距離が長く、ちょっとたいへん。
そこで遊んでいるたくさんの児童たちをよけて歩くのも、さらにたいへん。
けれどアリスは、そんなにぎやかさが好きだった。
まわりが楽しそうなほど、自分も楽しい気分になってくるものだ。
飛んできたサッカーボールを華麗にトラップして、蹴り返してやったりしながら、アリスは校舎の中へと入っていった。
アリスは今日から上級生の5年生。教室は校舎の最上層の3階に位置する。高い階にのぼるというのは、わくわくするもの。アリスも、下級生だったころからひそかにあこがれていた。
"5-2"と書かれた表札の出ている教室のドアをガラリと開ける。
「おはよう!」
アリスは入るなり、元気よくあいさつする。
いくつかのグループに分かれておしゃべりしていたり、ひとりで机の上で本や教科書を読んでいたりと、思い思いにすごしていた教室内の児童たちが、いっせいにアリスに視線を集めた。
ウォッチの中のブルーも、思わずびくっとした。
自分が見られているわけじゃないとはいえ、注目をあびるのはキモが冷える思いだ。ドラゴピアでいじめられっ子だった経験のせいだろう。
児童たちはアリスにあいさつを返したり返さなかったりと反応はまちまちで、すぐにおのおのの活動を再開した。
その中に、アリスに視線を送り続けている児童たちがいる。
ひとつの机を囲んで集まっている、三人の女子だ。
「おはよう! アリス!」
はきはきとした元気で大きな声を出すのは、きのうアリスの初バトルの相手をつとめた、緋色のポニーテールの幼なじみ、
やたら背が高いために、三人の中ではひときわ目立っている。
「うん、おはよう、みんな」
アリスも安心したような笑顔であいさつを返す。
「メッセージ見たけど、ドラゴンをパートナーにしたんだって? バトル解禁令が出て早々、ずいぶんラッキーだね」
半目でニヤリと笑っているのは、明るいブラウンの長髪でハーフリムのメガネをかけた、インテリジェンサーな外見の女の子、
科学者のような丈の長い白衣なんて着ているためか、三人の中ではまあまあ目立っている。
「なんというか、さすがアリスちゃんって感じだね。わたしもドラゴン、見てみたいな」
ひとり自分の席に座ってはにかんでいるのは、りんごみたいな髪型とまっかな髪色で、緑の服の上にピンクのカーディガンを羽織った女の子、
ひかえめでおとなしい雰囲気のためか、ほかのふたりの印象が強すぎるのか、三人の中ではいちばん目立たない。
けれどそんな三人とも、アリスの大親友だ。
「もちろん、見せてあげる!」
アリスはうれしそうに言うと、右手のスマートウォッチの画面を三人に見せてあげた。
画面の中には、目を丸くぱちくりしているブルーの姿。突然三人の初対面の人間に見つめられて、びっくりしてるらしい。
「紹介するね! この子はブルー! よろしくしてあげて!」
「はじめましてブルー! わたしは緋羽莉だよ! よろしくね!」
「私は閃芽だよ」
「わたしの名前はりんご。よろしくね、ブルー」
親友三人娘はかわりばんこでウォッチに顔を近づけ、あいさつした。
最初はおっかなびっくりだったブルーも、しだいに落ちつきをとりもどした。
雰囲気は三者三様だが、画面ごしからでも悪意がまったく感じられないのがわかる。
この人たちも、信頼できる人だ。そうだよ、だって、あのアリスの友だちなんだから。
『は、はじめまして、みんな。ぼくの名前はブルーです。よろしくおねがいします』
そう思って、ぎこちないながらもあいさつを返した。
こうして、ブルーにまた、新しい友だちが三人できた。
☆ ☆ ☆
アリスは、親友たちにもブルーの事情を話した。
「天空の楽園、ドラゴピア……聞いたことないね」
仲間内でいちばんの博識の閃芽ですら、知らないようだ。
けれど、前人未到の未知の場所ということで、興味しんしんにメガネを光らせている。
「でも、ブルーはお母さんのところに帰りたいんだよね? わたしも協力するよ!」
仲間内でいちばんの人情家の緋羽莉は、涙ぐみながら宣言した。
「けど、空の世界なんて、探すのも行くのもすごくたいへんそうだよ?」
仲間内でいちばんひかえめな性格のりんごは、ちょっぴりうしろ向きだ。
「だからこそ、やりがいがあるんじゃない! みんなでめざそう、ドラゴピア!」
仲間内でいちばんリーダーシップのあるアリスは親友みんなを巻きこんで、音頭を取った。
いちばん付き合いの長い緋羽莉はもちろんのこと、りんごと閃芽も乗り気じゃなさそうに見えるけど賛成はしている。
みんななんだかんだで、だれかのために一生懸命なアリスのことが好きだから、親友をやっているんだから。
ブルーにも、それが少しわかったような気がした。
「めざすのはいいとして、それにいたるまでのロードマップは考えてあるのかな?」
閃芽はメガネをくいと動かしてたずねた。
「もちろん、考えてあるよ。前人未到の場所をさがそうっていうんだから、まずわたしがすごいウィザードになる!」
アリスはびしっと指をつきつけた。
「すごいウィザードって、なんだかざっくりしてるね……」
りんごは力なく苦笑いを浮かべた。
閃芽もやれやれといった表情だ。
アリスは気にせず、説明を続けた。
「そのために、いっぱいバトルの経験を積んで、強くなって、ウィザードのランクを上げていくの」
『ウィザードのランクって?』
ウォッチの中のブルーが首をかしげた。
閃芽はまたメガネをくいと動かして、解説をはさんだ。
「
『ふむふむ。それで、アリスはいまなにランクなの?』
「え? きのうバトルはじめたばっかりだから、ノーランクだけど」
ブルーは、ガーンとショックを受けた。
最低のGランクですらないなんて、一気に道が遠ざかった気がしたのだ。
「だいじょうぶだよブルー! アリスはバトルの経験自体はないけど、ウィザードとしての訓練や勉強ならたくさんやってきたからね! 実力は、わたしが保証するよ! ランクだって、きっとすぐにぐんぐん上がっちゃうから!」
緋羽莉はやたらアリスを持ち上げるようなフォローを入れた。
実際アリスはきのう、あの強そうだった犬童一味を終始圧倒していた。
それがバトル禁止中にもおこなっていた訓練や勉強のたまものだったというなら、ブルーは納得できた。
緋羽莉の物言いはオーバーに聞こえるけど、まちがってはいないんだろう。
なにより、彼女の言葉は熱くてまっすぐなぶん、スッと胸に入ってくるとブルーは感じた。
つづけて、閃芽が言った。
「それで、ワンダーの生息域は世界中にあるけれど、そこにウィザードが立ち入るには相応のランクが必要になるんだよ」
『どうして?』
「あぶないからだよ」
『なるほど』
そりゃそうか、とブルーは息をついた。強くなければ生き残れないというのは、身に染みてよくわかっているつもりだ。
「キミの故郷みたいな、はるか空高くにある場所なら、まちがいなく最上級のAランクじゃなきゃ、ムリだろうね」
『つまり、まずはAランクをめざせばいいってこと?』
「そういうことだよ。つらくけわしい道のりになるだろうけどね」
閃芽の解説を聞いて、ブルーはしりごみしそうになった。
けれど、踏みとどまった。
だって、ぼくのためにアリスたちががんばろうとしてくれているのに、ぼく自身が弱気になってあきらめてちゃいけない、と思ったからだ。
「でも、もしアリスちゃんがAランクになれたとしても、だれも行ったことのないドラゴピアをどうやってさがすの?」
りんごが当然の疑問を口にした。
アリスは自信まんまんに答えた。
「がんばってさがす!」
緋羽莉以外の全員が、ずっこけた。
「なにが考えてあるだよ、結局ノープランなんじゃん」
閃芽が苦言をていすると、アリスは真剣に言った。
「ううん。ただ、いまはまだそこまで考える段階じゃないってだけ。実際わたしはノーランクで、ドラゴピアに行くとしても、情報をさがすとしても、そのための力がぜんぜん足りない。まずはウィザードとして、強くなることが最優先だよ」
「そうだね! 元気があれば、なんだってできるもんね!」
緋羽莉は両手ににぎりこぶしを作って、笑顔で言い切った。
そんなふたりを見て、閃芽ははあ、とためいきをついて、あきれたように笑った。
「まったく、キミたちときたら。たしかにいきなりドラゴンを拾って、1から10までぜんぶ予定立てろっていっても、むずかしいだろうからね。でも、真剣さは伝わったよ」
「そうだね。わたしも、いまは少しずつ目の前の課題に取り組んでいくほうがいいと思う」
りんごもほほえんで言った。
「そういうわけだから、ブルーもがんばってね」
『え?』
ブルーはきょとんとした。
自分には関係のない話だと思っていたわけじゃない。あまり話し慣れていないので、きゅうに振られたから、びっくりしただけだ。
「だってブルー、強くなりたいって言ったでしょ? うんと強くなってドラゴピアに帰って、ほかのドラゴンたちを見返してやろう! ママだってきっと、いーっぱいほめてくれるよ!」
ブルーはハッとした。
そうだ、もしぼくが強くなって帰ってきたら、おかあさんはきっとよろこんでくれる。
いままで迷惑をかけちゃったぶん、いっぱい恩返しもできるはず。
そう思うと、ブルーががぜんやる気がわいてきた。
「……うん! ぼく、強くなるよ! うんと強くなって、おかあさんのところに帰るんだ!」
アリスとなら、きっとそれができると、きのう確信したから。
「そういうことなら、わたしもがんばっちゃうよ! わたし、修行大好きだから!」
緋羽莉ははりきって力こぶのポーズを取った。体が人一倍大きいぶん、迫力がある。
アリスはスマートフォンの画面に向かって、あらためて宣言した。
「よーし、その意気だよ! きょうからがんばろうね、ブルー!」
『うん、ぼく、がんばるよ、アリス! みんな!』
ブルーも力強くうなずいた。
この先どんな困難が待ち受けていても、アリスと、みんなといっしょなら立ち向かっていける。そう思った。
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