大晦日の衝撃 恋人が兄妹

みさき

衝撃の事実

東京の小さなマンションで暮らすハルキとエミリは、出会ってから半年。ハルキは北海道、エミリは大阪の出身で、ふたりとも上京してきたばかりだった。交際は順調で、初めての年末をどう過ごすか話し合っていた。


「大阪に帰るから、年越しは実家で過ごすね」とエミリが言った。

「じゃあ、僕も大阪に行くよ。大晦日、一緒に過ごそう」とハルキは即答した。


ハルキは飛行機で大阪へ向かった。大晦日の夜、ふたりは心斎橋の雑踏の中、カウントダウンを迎えた。「5、4、3、2、1…明けましておめでとう!」人混みの中で抱き合うふたり。初めて迎える新年が、幸せな始まりのように思えた。


年が明け、帰京する前日、エミリが言った。

「せっかくだから、実家に寄って両親に挨拶していかない?お父さんとお母さん、会いたがってるよ」


ハルキは少し緊張したが、うなずいた。エミリの実家は大阪郊外の閑静な住宅街にあった。玄関を開けると、エミリの母が温かく迎えてくれた。


「お母さん、この方がハルキくん」

「いらっしゃい、よく来てくれました。さあ、上がって。お父さんもすぐ来ますから」


リビングでお茶をすすっていると、階段を下りる足音が聞こえた。エミリの父が現れた瞬間、ハルキの手に持った湯呑みが、かすかに揺れた。


その顔は、忘れようとしても忘れられない顔だった。


「ハルキくん、私のお父さん。お父さん、彼がハルキくん」


ハルキは立ち上がり、ぎこちなく頭を下げた。「はじめまして、ハルキと申します。エミリさんには大変お世話になっております」


父は一瞬、目を見開いた。微かに息をのむ音がした。しかしすぐに平静な表情を取り戻し、うなずいた。


「…はじめまして。エミリがお世話になっているようで」


その声も、間違いなかった。幼い頃、たまに会うたびに聞いた低い声。ハルキの実の父親だった。


ハルキの両親は彼が小学校に上がる前に離婚した。父は東京で新しい家庭を作り、ハルキは母に引き取られて北海道で育った。父とは年に一度、誕生日に会う程度だった。父には新しい家族がいることは知っていたが、まさかエミリがその娘だとは。


「お父さん、どうしたの?変な顔して」エミリが首をかしげた。


「いや、なんでもない。ハルキくん、席に着いてくれ。お茶をもう一杯どうだい?」


父は平静を装い、ハルキの隣に座った。ハルキも必死で表情を整える。エミリは何も気づかず、にこにこと紅茶を淹れていた。


「ハルキくんのご実家は北海道だって聞いてますよ。寒いところで大変でしたね」母が話しかけてきた。


「はい…でも、自然が多くて良いところです」


「お父さんも若い頃、北海道に住んでたことあるんだよ」エミリが突然言った。


ハルキの背筋が凍った。父は咳払いを一つした。


「ああ、短期間だけな。もうずいぶん前の話だ」


「そうなんだ。ハルキくんとお父さん、何か似てる気がするって前から思ってたんだけど」エミリは無邪気に笑った。


ハルキと父は一瞬、目を合わせた。互いの瞳に映るのは、同じ恐怖と混乱だった。


「そんなことないだろう」父がさっと話題を変えた。「ハルキくん、仕事は何をしているんだい?」


表面的な会話が続いた。家族の話、趣味の話、将来の話。しかしそのすべてが、今や重苦しい嘘の網のようだった。ハルキは父が時折、無意識に左眉を上げる癖があることを思い出した。離婚する前、母がその癖をからかっていたのを、ぼんやりと思い出した。


一時間後、ハルキはそろそろ失礼すると言った。エミリが駅まで送ると言うので、ふたりで家を出た。


玄関を閉める直前、ハルキは振り返った。父が廊下に立ってこちらを見ていた。口元は笑っているが、目は悲しみで曇っていた。微かに、かすかに、父がうなずいた。ハルキも同じように応えた。


駅までの道で、エミリはハルキの手を握った。

「よかった。お父さんもお母さんも気に入ってくれたみたい。お父さん、普段はもっと無口なのに、今日はたくさん話してたよ」


ハルキは笑おうとしたが、頬がこわばった。

「そうだね…よかった」


「次はハルキくんのご両親にも会いたいな。お母さんに会うの、楽しみ」


ハルキの胸が締め付けられた。母は父のことを恨んでいるようなことはないが、エミリが父の娘だと知ったら、どんな反応をするだろう。


新幹線に乗り、東京へ向かう窓辺で、ハルキは携帯を見つめた。父からのメールが来ていた。


「今夜、話そう。エミリには内緒で」


ハルキは窓に映る自分の顔を見た。エミリの笑顔を思い浮かべた。彼女の優しさ、彼女の笑い声、彼女の温もり。すべてが突然、禁断のものに変わってしまった。


東京のアパートに戻り、夜になるのを待った。午後10時、携帯が震えた。知らない番号からだったが、ハルキには誰だかわかった。


「もしもし」


「…ハルキか。今日は驚かせてしまって、すまない」父の声には、疲れと年齢がにじんでいた。


「どうして教えてくれなかったんですか?エミリが妹だって」


電話の向こうで、深いため息が聞こえた。

「お前の母親と別れた後、大阪で新しい家庭を作った。エミリが生まれたのは、お前が5歳のときだ。お前とは年に一度しか会わなかったから…話す機会がなかった。それに、どう話せばいいのかわからなかった」


「今、どうすればいいと思いますか」ハルキの声は震えていた。


長い沈黙が続いた。

「…わからない。ただ、エミリを傷つけたくない。お前もそうだろう?」


「もちろんです。でも、このまま嘘をつき続けるわけには…」


「すぐに真実を話せば、彼女は壊れてしまう。時間をかけて、少しずつ…」


「『少しずつ』ってどういうことですか?『実は僕たち兄妹です』って言うことに、段階なんてないでしょう!」


ハルキの声が思わず大きくなった。自分でも驚くほど、怒りがこみ上げてきた。これまでの人生で、父にこんな風に感情をぶつけたことはなかった。


「わかっている。わかっているよ、ハルキ」父の声も苦しそうだった。「だが、考えてくれ。エミリはお前を心から愛している。お前も彼女を愛している。それをいきなり奪う権利が、私たちにあると思うか?」


ハルキは何も言えなかった。窓の外、東京の夜景がきらめいていた。この街で出会い、恋に落ちたエミリ。彼女のすべてが、今は苦しみの種に変わってしまった。


「少し時間をくれ。私も考えなければならない」父が言った。「それまで、今まで通りにしていてくれ。エミリに悟られないように」


電話が切れた。ハルキはベッドに倒れ込み、天井を見つめた。目の前にエミリの笑顔が浮かんだ。彼女がコーヒーをいれる時の仕草。映画を見て泣く時の顔。朝、眠そうに目をこする姿。


すべてが愛おしく、すべてが痛んだ。


翌日、エミリが東京に戻ってきた。空港に迎えに行くと、彼女は走り寄ってハルキに抱きついた。


「会いたかった!お父さんもお母さんも、ハルキくんのことを気に入ってたみたい。また会いに来てって」


ハルキはぎこちなく笑い、彼女を抱きしめた。その髪の香りは、今までと同じなのに、すべてが違って感じられた。


「あのさ、ハルキくん」エミリが突然、真剣な顔で言った。「私たち、この先もずっと一緒にいられるよね?」


ハルキの心臓が強く打った。彼女の澄んだ瞳を見つめながら、嘘をついた。

「…もちろん。ずっと一緒だよ」


その夜、ハルキは眠れなかった。隣で眠るエミリの寝息を聞きながら、彼は考え続けた。


真実を話せば、エミリは傷つく。嘘をつき続ければ、傷はさらに深くなる。逃げ出すこともできた。でも、エミリを置いて去ることなどできなかった。


窓の外が白み始めた頃、ハルキはある決意をした。父とともに、エミリに真実を話す。しかしその前に、彼女の心の準備ができるように、時間をかける。専門家のカウンセラーにも相談する。そして何よりも、エミリがこの真実を受け止められるだけの強さを持っていると信じる。


数日後、ハルキは再び父に電話した。

「エミリに話すことを決めました。でも、すぐには無理です。彼女を守りながら、真実に向き合う方法を探しましょう」


電話の向こうで、父が息をのんだ。

「…わかった。私も覚悟を決めた。母親にも話す。エミリのためなら、どんな過去とも向き合う」


その週末、ハルキとエミリはいつものようにデートした。映画を見て、食事をして、公園を散歩した。すべてが普通で、すべてが特別だった。


散歩中、エミリが突然、ハルキの手を強く握った。

「何かあったら、いつでも話してね。どんなことでも、ふたりで乗り越えよう」


ハルキは目を閉じた。風が頬を撫でていく。

「うん。約束する」


真実への道は長く、痛みを伴うものだった。しかしハルキは知っていた。愛とは、時に残酷な真実さえも抱きしめる勇気のことだと。そして彼は、エミリとともに、その道を歩み始めたのだった。


彼らの前には困難な日々が待ち受けていた。しかしどんなに複雑な糸でも、一本一本ほどいていけば、いつかほぐれるときが来る。血の繋がりが運命を決めるのではなく、選び合う心が家族を作るのだと、彼らはこれから学んでいくことになる。


夜の帳が下り、街灯がともる頃、ハルキはエミリの手を握りしめた。この温もりが、たとえどんな形に変わろうとも、彼の大切な真実であることに変わりはなかった。

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大晦日の衝撃 恋人が兄妹 みさき @MisakiNonagase

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