第2話

私も住んでいた村を離れ、叔母様たちが住む町に移り住むことになった。

大きな屋敷に住む叔母家族との生活は地獄そのもの。

叔母様と旦那様は養子となった私を家族として認めず、使用人として、否、それ以下の奴隷として扱った。

生まれ育った村での暴言をここでも聞くことなったがもっと酷いものへと変わった。

少しでも失態を見せればすぐに殴るし、お茶の味や熱さが気に入らなかったら中身を浴びせてきたり湯呑みを投げつけられた。

特に叔母様の娘で義理の妹となった瑠璃奈は陰湿に私を追い詰めた。

瑠璃奈はとても美しく優しく誰とも接しているように見えるが、実際は自分が一番で自分が欲しいものならどんな手でも使うような子。

影で悪口を言い、自分より可愛い子や気に入らない人がいたら執拗に追い詰めて虐めぬく。

彼女の嘘泣きと優しさの演技で私を何度も陥れた。


「お義姉様ねえさま私の大切な着物を盗んだの…!!お母様から貰った大事な着物なのに…!!」


私を呼びつけてお義姉様に似合うから着てみてと言われたのが発端だった。

こんなに高価な着物なんて着たくなかった。彼女の目論んでいることが目に見えているから。

断ろうとすればすぐに殴ってくる。髪だって平気で引っ張ってくる。



「ちゃんと私の言うこと聞きなさいよ。化け物。せっかく助けてやったのにその態度は何?アンタに断る権利なんてないのよ」


引き取られた身としてこれ以上反論できない。

瑠璃奈の言う通りに着物を着れば突然叫ばれ、盗んだと濡れ衣を着せられる。自分で自分の頰を叩き、いかにも私が殴った様な状況を作って。

瑠璃奈の悲鳴に気付いた叔母様達は私の言い訳なんて聞くことなく私を罵り殴り飛ばす。

私は泣きながら謝ることしかできなかった。

瑠璃奈はそんな私の姿を叔母様に縋りながらほくそ笑みながら眺めていた。

何度も逃げようと考えたがそれを見透かしていた叔母様によって釘を刺された。

もし、この家から逃げたりしたら絵梨を引き取った叔父様に言いつけて妹を娼家に売り飛ばしてもらう。あの子はまだ幼いし顔も整っているからすぐに売れるだろうねと。


「あんたも姉様に似て可愛い顔してんのに髪と目で損してるね。普通の見た目だったら遊女として生きていけたのにねぇ?」


もう目の前が真っ黒になった。もう私の居場所はどこにもない。

助けてくれる同僚なんて当然いるわけないし、上の人だって叔母様の息がかかった人達ばかりだ。

私が逃げない限り絵梨は無事なのだ。あの子だけは、大好きな妹だけは幸せに暮らしていて欲しい。

私は自由を諦めるという選択肢がなかった。

私が持つ異能が更に事態が悪化させた。

この町は四季神しきしじん様から加護を授けられた土地らしく、町に張られた結界が悪しき者達からの脅威を防いでいて尚且つ農作物等も常に豊作で不作になることは稀だという。

それぞれの四季には4人の神がいて、人々は彼等を四季神しきじんと呼ぶ。所謂四季の神様のことだ。

春神はるがみは桜と共に新たな風を、夏神なつがみは暑さと共に生きる活力を与え、秋神あきがみは実りの喜びを運んでくる。

そして、冬神ふゆがみは凍てつく氷と雪で人々に試練を与え四季の均衡を守っている。

特にこの町は冬神様を崇めていて、その巫女は私と同じ治癒の異能を持ち、傷付いたり病に伏せた人達を助ける存在で町にいる16の年を迎えた娘の中から冬の巫女が選ばれるそうだった。

私が引き取られた頃にはもう既に決まっていた。選ばれたのはあの瑠璃奈だった。持ち前の美貌と仮初の優しさで選ばれたのは言うまでもなかった。

あの大きな屋敷に住めていて大金持ちの様な生活ができているのも娘が冬の巫女に選ばれたことと、町の人たちや町の外の人間から四季神の一人に支え人々を助ける愛されし巫女だからと崇拝され莫大なお布施をもらってているからだそうだ。

だが、一つだけ条件に合っていなかった。それは冬の巫女が必ず持っている筈の癒しの異能を持って生まれてこなかったことだった。

巫女に選ばれたは良いものの、肝心の異能を持っておらず異能を求める人達にはお気持ちと異能を施す真似をするしか手立てがなかった。

しかも、瑠璃奈は異能を開花させようと巫女の修行をする様な人ではない。面倒くさいことは嫌。奪えばなんとかなると思い込んでいるから。

瑠璃奈が異能を持っていないのは町の人達には伏せられている。知られてしまったら叔母様達の思い通りだった暮らしができなくなるからだ。


(私がこの異能を持っていることは隠しておいた方がいいかもね)


瑠璃奈達に私の異能のことがバレてしまったら面倒な事になるのは目に見えていた。あの親子なら自分達の欲のためならなんだってやる。奪うことなんて容易いこと。

嘘も演技も上手いからすぐに周りを味方に付ける。

けれど、その嘘も演技も通じないのは妖と動物達だけだ。

傷付いた動物や妖の子供が町にやってきて助けて欲しいと冬の巫女である瑠璃奈に志願しても彼女は相手にせず追い払う。寧ろ町に災いが起こると騒ぎ立てて大事にするだけだ。

そうゆう時はいつも瑠璃奈達の目の届かない場所で異能を施していてあげた。

けれど、村にいた頃よりはだいぶやりづらくなった。前みたいに森に気軽に行けなくなったからだ。

行こうとすれば逃げたとみなされ、絵梨を危険に晒してしまうからだ。

父さん達が生きていた頃が恋しい。家族以外の人には理解されない見た目のせいで苦しかったが、それでも今の生活に比べれば何倍も幸せだった。

そんな生活が続いていたある日の雨の晩に、屋敷の庭に子犬が迷い込んできたのだ。

ふわふわでころころとした小麦色の子犬の可愛さに私は仕事をする手が止まってしまった。


(すごく可愛いけどどうやって入ってきたのかしら?)


塀などに子犬が倒れるほどの穴なんて当然ない。

見た目からして猫の様に軽々と壁を這い上がれる様な気もしない。

瑠璃奈達に会いにきた来客と一緒にどさくさに紛れてここに来てしまったのだろうか。

そう考えていると子犬は私に気付きよたよたと近付いてきた。

子犬は弱々しく「きゅー」と鳴いていた。

よく見ると、子犬の足から血が流れている。どうやら何処かで怪我を負ってしまった様だ。

私は慌てて子犬を抱き上げ、必死に子犬を隠しながら誰もいない蔵の中に身を潜めた。

ここなら誰にも見つからない。外だと人目の付かない場所を急いで探さなきゃだけど、屋敷の中なら此処が一番安全だ。

痛がる子犬を膝の上に乗せ大丈夫だからねと呟く。

私は一息入れて目を閉じ、足の傷に手を翳した。優しい白い光が傷を覆いゆっくりと癒していった

そっと目を開けて子犬の様子を見ると、弱って苦しんでいた子犬の表情が徐々に穏やかになってゆくのがわかって安心した。

傷口が塞がったのを見て異能の施しをそっと止めた。

子犬はすくっと立ち上がり、膝の上からぴょんと飛び降り元気に走り回った。


「よかったわね。もう無茶しちゃダメよ。後は私が誰にも見つからない様にここから逃がしてあげるからね…ってあれ?」


私は子犬を外に出そうとしゃがみ込みもう一度抱き上げようとしたら子犬は何処にもいなかった。ほんの少しだけ目を離しただけなのに。

私は驚いて蔵の中の何処を探しだけれど見つからなかった。

その後、急いで仕事に戻るも子犬のことが気がかりだった。何処に行ってしまったのだろうか。まるで煙の様に消えてしまった子犬。



けれど、その日の夜。私はとても不思議な夢を見た。

その夢にはあの子犬が再び私の目の前に現れたのだ。

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冬神の最愛なる花嫁《R-18ver》 テトラ @onkenno

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