俺の網膜に住んでいればいい
山吹
砂漠編
シャツの裏が汗でべたつく。
砂漠の岩場に腰を下ろし、レンズの砂をブロアーで飛ばす。
肌を焼く日差しの熱が脳まで届きそうだ。
目の前にあるのは地平線まで続く砂山の連続。
カメラを構えても指先が妙に落ち着かず、
視界が揺らぐ――
……あー、ダメだ。
あいつの残像が脳裏をよぎり、指をシャッターから離す。
頭からタオルを被り項垂れると、思い出したくもねぇ記憶が蘇る。
数年前のあの日
大学の食堂で、いつもの世間話。
その中のたった一言――
『あの子、最近彼氏ができたんだって』
引きつる頬を、
なんとか取り繕ったが……
くだらねぇプライドが邪魔したのか
いい先輩振りたかったのか
年上の余裕でも見せたかったのか…
俺はあいつに、それを問い質すことも、
その場でダチに聞き返すことも出来なかった。
もしあの時、
いや…もっと早くあいつに踏み込めていれば、
あの白い喉元に牙を立てて、印を刻めたのは俺だったのか?
「……ちっ」
考えても仕方ねぇ
全部今更だ。
頭を左右に振って顔を上げると、どこまでも続く砂山。
俺以外の男と笑うあいつを見たくねぇ
忘れるためにカメラだけ抱えて、ここまで来たってのに…
頭ん中からあいつが消えねぇ。
灼熱の流砂
熱帯の密林
冷たい石畳の建造物
世界中を放浪して最高の一枚を撮れば、
あいつの残像なんて簡単に上書きできるはずだった。
でも、現実は撮るものすべてにあいつの面影が混ざり込む。
遠くへ行けば行くほど、その面影が濃くなる…
「……何やってんだ、俺は」
この景色でもダメなのかよ。
次は…北欧の極夜にでも行ってみるか。
光が届かない凍てつく夜の静寂。
砂漠とは逆の、脳まで凍りそうな寒さの中でなら…
あいつを追い出せるかも知れねぇ
「まだ日本には帰れそうにねぇな」
自嘲気味に呟き立ち上がる。
バッグを乱暴に担ぐと、一度も後ろを振り返らず歩き出す。
「頼むから…早く俺の頭ん中から出ていってくれよ」
絞り出すような声が、砂漠の熱に溶けていった。
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