魔神は関西人なのか?
@ZZtoshi
第1話
ー ジェームス ー
銃声の炸裂音が響き渡る林の中を、二人の男が走る。銃弾が横を通り過ぎていく。
俺の名はジェームス。中指に魔神の指輪をはめている。短く整えられた髪型に鋭い目つき、外見は、俳優の吐夢巡航(トムジュンコウ)に似ているとよく言われる。
もう一人は、俺の相棒B(ボブ)。彼にとって、どのようなセキュリティシステムも、あってないようなもの。
俺たちは、業界で有名な凄腕スパイのJBコンビだ。
五人の男たちが、二人を追いながら拳銃を発砲している。
俺は走りながら、腕時計の横にあるボタンを押した。
草や枝で隠しておいた車、GTRのドアと屋根が開き、エンジンが掛かった。
ボブは運転席に乗り込み、車をホイールスピンさせながら発車させた。俺は助手席の上で立ち上がり、開いた屋根から、手榴弾を追手に投げた。
爆発音のあと、追っては来なかった。
追手の五人は、途中で追うのを止め、拳銃だけを撃っていた。
林の中から一人の男が現れ、五人と合流した。
「手筈通りです」
そう言うと、男は手のひらに持っている黒い箱のスイッチを入れた。
GTRは山道を駆け下りている。俺の腕時計が鳴った。部長からだった。
「J、Bその車から電波が感知された。電波式時限爆弾が仕掛けられているかもしれん。急いで降りるんだ」
「聞いたとおりだボブ。車を止めるんだ」
「ブレーキにも細工されたようだ。止まらない!ガードレールにぶつかるぞ!」
俺とボブは視線が合うと、揃ってニヤリと笑った。
「毎度お馴染みってか。いくぞ!1、2、3!」
二人はドアを開けて、崖に向かって飛んだ。
車はガードレールにぶつかり、大爆発を起こした。
二人は落ちながら、掴まれそうな場所を探した。
ボブは崖に生えた小さな木に捕まった。俺は二十センチほどの崖の出っ張りに指をかけた。
俺もボブも絶体絶命だ。
「ボブ、決して諦めるな!」
だがボブは、俺の言葉を無視するように、
「そんなこと言う前に、指輪の魔神を早く出せ!」
俺は冷静に拒否した。
「おまえの前では嫌だ!」
ボブは必死に訴えかけた。
「こんなときのための魔神だろ!二人とも死ぬぞ!早くだせ!」
「絶対に嫌だ!」
「こうしよう、俺は絶対に聞かない。いや、聞いても誰にも言わないし、二度と口にしない」
「絶対だな」
「絶対だ。約束する」
渋々、俺は了承した。
「クソ!最悪の日だぜ」
ボブの掴まっている小さな木が、パキっと音をたてた。
「早くしろよ。もう何分も持たない」
俺は念じた。
「いでよ!指輪の魔神!」
寝転がった姿勢のまま空中に出てきた指輪の魔神は、ニヤニヤしながら、俺たちにこう言った。
「落ちそうやな。助けてほしんやろ?ええ感じのギリギリ感や。ほんならいこか。供物を捧げるんや。ワシへの供物は恥ずかしくておもろい話や。知ってるやろ」
魔神は立ち上がり、両手を広げ、大げさな仕草で、
「どんなクールなやつでも、どんなに金持ちなやつでも、恥ずかしいおもろい話を持ってるのは、みんな平等や。さあ、恥ずかしくて、おもろい話を捧げんかい」
急に魔神の声が低くなり、目を細めて殺気を放った。
「だが、話を作った場合は、容赦なく殺す」
俺は世界平和のためにスパイになった。これは争いのない世界のためなんだ!俺は意を決した。
「ク...クソ、誰にも言うな魔神よ!俺は中学生のころ、洋式トイレの便座が上がってることに気づかず座り、便器にはまって出れなくなったことがある!」
ボブは、クールな俺が便器にはまって出れないところを想像したようだ。
「クックックッ」
笑いを堪えられず、指の力が抜け滑らせてしまった。
「あっ!」
ボブは落ちながら叫んだ。
「バカヤロー!」
俺は落ちていくボブに、涙ながらに謝った。
「ボーブ!すまなぁーい!」
魔神は感情を表さず、空中で胡座をかき、右手で札を上げた。
「判定!ちょっとだけ笑ろた。まあ、レベル1やな」
何かをノートへ書き込み、煙のようになると、指輪へと戻って行った。
魔神は崖の出っ張りに立たせただけで、俺を上の道路までは連れて行ってくれなかった。靴のさきがはみ出ている。
「魔神め、笑いに厳しすぎる!大体、関西弁の魔神なんているのか!エセ関西人だろ!」
怒りを抑えきれずに、独り言が出てしまった。
「何の話を供物にすればいいんだよ!基準もなく、魔神が自分勝手に、レベルを1~5で判定しているだけだろ!」
下を覗くと、ヘリコプターに飛び移ったことのある俺でも、オーマイゴッドと叫んでしまいたい高さだ。
「俺はどんな状況でも、諦めないし生き残る。完璧にこなしてみせるのが俺の信条だ!」
もう一度、叫ぶように魔神を呼び出した。
「いでよ!、魔神よ!」
再び現れた魔神は、説教するように話し出した。
「生き延びたいんやったら、もっと恥ずかしくて、おもろい話せな助からんで。ええか、お前のためにゆうとんねん!」
なぜ俺は魔神に説教されてる...。これも関西人特有なのか?
完璧主義の俺は、魔神が欲しがる恥ずかしい話をいくつか持っている。だが、これらを誰かに知られたら、この業界では生きていけない。
「クソ!誰にも言ったことがない秘密の話だ。魔神よ、誰にも言うんじゃないぞ!いいな!」
魔神は険しい表情を変えず、なにも言わなかった。
「中学の時の話だぞ。朝、学校に遅刻しそうで慌てて風呂を出た。洗面所に置いてあった下着を母親が用意してくれたパンツだと思い込んで履いた。妙にアソコが締め付けられる感覚があったが、急いでいたので気にせずズボンを履いて家を飛び出した。だがそれは、姉が自分用に置いていたパンティだった。体育の着替えの時、クラス全員にバレて、それ以来、俺のあだ名は『パンティ』になった」
俺は下を向いて呟い
た。
「屈辱だ。裏の世界じゃ凄腕で名前が通ってるのに...こんな話が業界に流れたら、確実になめられる。あだ名もつけられそうだ」
気がつくと、元の道路に戻っていた。
頬に何かがつたった。俺は知らずしらずのうちに、悔し涙をながしていたのだ。
「レ、レベル5だったのか...」
どこからともなく、大きな声が聞こえてきた。
「めっちゃおもろいやん!みんなにいいてぇー、いってもいい?なあ、ええやろ?みんなにゆうで。パンティ、パンティ、パンティ!!ワハハハ」
声が離れていくが、まだ風にのって聞こえてくる。
「パンティーエージェント!」
「魔神殺す!」
本部へ戻った俺は、エレベーターに乗り込み、三十階のボタンを押した。エレベーターが開き、怒りに任せて部屋のドアを開けた。
デスクはいくつも並んでいるが、いるのは本部長と秘書だけだ。
部長のデスクに早足で向かい、魔神の指輪を机に叩きつけた。
「部長!こんな恥ずかしいのは、もうゴメンです!指輪は返します」
部長はメガネを通した上目遣いで睨んだ。
「だが、魔神は何度か助けてくれただろう。何が不服なんだ?」
「部長!ボブは俺の恥ずかし話に笑ってしまい、指を滑らせて、谷底に落ちていったんですよ」
部長の目がキラリ光った。
「ボブには悪いことをした。だが君なら、たくさんの話を持っていそうだが。鋼鉄のように強い精神力の君なら、魔神や相棒にどんなに恥ずかしい話を聞かれても、クールなままだと思っていたんだがなぁ」
俺はデスクを叩き、
「そんなわけないでしょう!屈辱です!」
部長は冷静に、
「私はね、人を見抜くのが得意なんだよ。君の教官から新人時代のレポートを読んでね、君が適任だと前から思っていたんだ。なぜだかわかるかい?それはね、君がクールに決めているからだよ。クールな奴ほどナルシストが多く、ナルシストほど、自分をかっこよく見せようと、人には言えない失敗をしているものさ」
「部長!偏見です!俺はクールでワイルドだが、ナルシストではない!仮にナルシストだとしても、恥ずかしい話など、これ以上は持っていない!」
部長はゆっくりと立ち上がり、
部屋の隅で事務作業をしていた女性に、
「瀬戸さん、こっちに来てくれるかな」
瀬戸と呼ばれた女性は立ち上がり、
「はい、部長」
部長は、俺の隣に立った瀬戸に こんなことを言った。
「瀬戸くん、メガネを外して、髪を解いてくれんか」
メガネと髪留めをはずして、頭を振って髪をおろした。
俺は不覚にも、瀬戸がキラキラと輝いて見え、少しの間、見とれてしまった。
か、可愛すぎる!
デレッとしたことに気づき、自分を叱咤する。
おいジェームス!一流のスパイだろ、しっかりしろ!クールを装うんだ。
部長が瀬戸に、
「瀬戸くん、現場で仕事がしたいと言っていたね」
部長は魔神の指輪を掴んで、瀬戸の前に出した。
「この魔神の指輪を使ってみるかね?ただし、これを手にするということは、ナンバー1エージェントになるということだ。危険な任務ばかりになるぞ」
瀬戸は恥ずかしそうに、
「危険な任務はかまいませんが、魔神は恥ずかしい話を要求してくるのですよね」
「そうだが、指輪は保険のようなもので、使わなくてもかまわん。ピンチを切り抜けられないときだけ使えばいい」
「わかりました。現場に出させてください」
部長は、ニコリと笑ったが、目は笑っていなかった。部長はジェームスの方を向いて、
「瀬戸くんは訓練生時代、観察力、思考力、対応力、記憶力、分析力、格闘術は満点だった。精神的・肉体的苦痛ギリギリの拷問耐久訓練は満点以上で合格している才女だ。ただ、実戦経験は一度もないので、サポートをしてやってくれないか」
俺はにこやかに、
「わかりました!」
部長は、瀬戸に向って、
「瀬戸くんは、今日から君はSだ。SJコンビとなる」
Sがナンバー1エージェントになったが、こう思うと、俺はニヤニヤしてしまう。
こんな可愛い子の、どんな恥ずかしい話が聞けるんだろう。
いかん、顔が緩んだ!キリッとさせろ。
待てよ、指輪の魔神をだすということは、絶体絶命ということだ。喜んでいられない。
部長は二人に、
「SとJ。極秘任務だ。吉田博士の開発した細菌を、敵国に売られてしまう前に取り返すんだ」
「またやつらですか?」
「違う組織だが、兵器売買をする連中はどこの国にもいるものだ。そのために我々がいる」
「作戦は?」
「今から説明する」
部長は二人が出ていったドアを見つめながら、
「拷問耐久訓練中に、快感を覚えてしまった彼女にとって、魔神の指輪の所持は、まさに天職であろう。だが、一抹の不安はある。我が娘ながら、すぐに勘違いしてしまうからなぁ」
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