空白の夏

やゆよ

空白の夏

俺はその日、花火というものを初めて知った。「えー休み中はしっかり勉強もすること」

パソコンにはどうでもいいことを延々と喋り続ける校長先生が映っている。

リモート行われている高校の終業式に参加しながら、俺はスマホで友人とメッセージを送り合う。

『うっそ。奏多も知らないのかよ』

友人、佐藤亜希からそんなメッセージと共に俺を嘲笑うようなスタンプも送られてきて、少々腹が立つ。

『お前と違って俺は無駄な知識は頭に入れない主義だから』

そう送ると、亜希からは、

『いや、無駄な雑学ばっか披露してくるお前が何言ってんねん』

と返って来て、益々腹が立ちそうになったので、俺は話題の方向を変える。

『で、何だよ花火って』

そう送ると、少々時間が経った後に亜希から長文のメッセージが返ってくる。

『火薬に発色剤を混ぜ、筒などに入れた物。火をつけ、破裂・燃焼させて、光・音・色などを楽しむものらしい』

絶対ネットからのコピペじゃん。俺はため息をつく。

こいつ、終業式がつまんないからって、嘘か本当かわかんないこと調べやがって。

『すごいでちゅねー、花火』

俺はバカにした意味も込めてそう返信する。

『いや、本当だって!動画も残ってるし』

亜希から動画のURLが送られてきた時、校長先生が一際大きな声をあげる。

「これで、令和32年度、終業式を終わります」

終業式が終了するや否や、続々と他の生徒達がスペースから退出していく。俺も退出し、パソコンの電源を切ってテレビをつけた。

お天気お姉さんが気象情報をやっている場面が映る。

『今日の気温は47度。外出禁止令が10年前から引き続き出ているので、夏は外に出ないようにしましょう』

「外出禁止令ねえー……」

2030年に公布された、外出禁止令というのは、文字通り家から外に出てはいけないという政府からの命令だ。

地球温暖化が進み、日本の夏は40度をとうに超え、今や50度まで上昇していく勢いだ。

外に出たら100%熱中症になって死ぬので、外に出るなという事だろう。

だから、俺ら高校生世代は夏は外に出たことがない。昔は「長袖」とか「ホッカイロ」とかがあったみたいだけど、今はもうそんなもの存在していない。

冬でさえ、20度を超える世界だ。

昔は10度とか、その辺だったみたいだけど。

「はああ〜……。家にいてもすることねえな〜……」

俺はつけたテレビを消してベッドに寝っ転がる。

夏は嫌いだ。理由は、暇だから。

「外……出たいな」

アウトドア派な俺には、夏休みというものは昔から拷問と言っても過言ではない程苦痛だった。

……出てみるか。

ふと、そんな突拍子もない考えが頭をよぎった。

そうだ。出てしまえばいい。

今まで何故そう思わなかったか不思議なくらい、俺のその願望はガッチガチの決意へと変わった。夏は皆家にいて外に出ないなんて、冷静に考えれば狂ってる。

テレビ関係の仕事に就いてる人は、家で撮影して、その動画を編集する人が合成してスタジオっぽく加工してるらしい。

律儀に政府の言いつけを守っているところが日本人らしいし不気味でもある。

工事も夏は休み。飲食店も、映画館も休み。

外に出たら、きっと寂しい世界が広がっているはずだ。

俺は未知の世界の妄想にウキウキしながら、亜希にこうメッセージを送った。

『俺、外、出てくる』

すると、秒で返信が返ってくる。

『は?頭おかしくなった?』

そう思うのも無理はない。普通は外になんか出ないのだから。

しかし俺はその反応を無視し、スマホに入っている動画配信アプリを開く。

俺は実はゲーム配信なんかをしてる、今は無名の配信者だ。

実は配信のネタが尽きていたので外に出てバズってみたい……というのが本音。

早速『外 出てみた』というタイトルで配信をスタートさせる

『奏多チャンネル、家の中で夏バテか』

『やっほー。どしたん?』

『丁度暇してた。ありがてえ。』

するとすぐにコメントが3件、視聴数が15人となった。

「タイトルでもわかる通り、暇なので外出てみたいと思いまーす。まずは日焼け止めを塗っていきまーす」

勿論危険なことはわかっているので、暑さ対策を調べながら、視聴者と話しながら準備をしていく。

視聴数が人生で初めての1000を超えた時、こんなコメントが現れた。

『絶対にやめてください、危険です』

コメント主の名前を見ると、環境庁と書いてあった。

「やべえ!政府から怒られてる!」

俺がまさかの出来事に興奮すると、コメント欄も盛り上がっていく。

『やべぇぇぇぇ』

『え?これガチ?』

『クニカラケサレルー』

「ごめんなさーい、ちょっとだけなんでー」

俺がそう言うと、またもや環境庁からコメントが入る。

『場合によっては、処罰する可能性があります』

「げっ。怖〜」

俺の決意は処罰なんかじゃ折れない。

俺は環境庁をブロックする。

『ヤバッ、ブロックしたぞこいつ』

『奏多チャンネル、死確定演出』

『最近の高校生、怖っ』

気づけば視聴数は1万を超えていて、スパチャなんかも投げられていた。

きっと、皆外が見たいんだ。

「じゃ、準備も終わったんで、外出まーす。」

俺はこっそりと自分の部屋から出て、階段を降りていく。

勿論、スマホを持って。

気温47度の世界。

一度も外に出たことがない、夏。

誰もいない世界。

誰も挑戦したことがないことを、俺はやってのけるんだ。

ゆっくりゆっくりと歩いて玄関に到着し、俺は深呼吸をする。

「皆さん、それでは、外に出てみます!」

そう言って、俺は扉の鍵を回し、ドアを開けた。

「……え?」

さわやかな風。

さっぱりとした空気。

「ニャー」

猫の鳴く声。

スマホで気温を測る。

25度の世界がそこには広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空白の夏 やゆよ @yayuyo_yo0010

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ