第3話 ロッジマイヤー

アルファがパブでゴールドを飲んでいると、絡んでくる中年の女性がいた。


「ねえ聞いてよ、あたしこれでも、身分の高い人の屋敷で働いてたの。あたしが屋敷を仕切ってたのよ。家庭教師もしてたわ」


突然泣き出した。


「世の中って、世知辛いものね。今はこのテキーラ飲んで、親指に載せた塩を舐めて、ライムをかじるのが最高のひとときなの」


アルファも酔い始めていた。


「あんた名前は?」


「ロッジよ。ロッジマイヤー。そんなことより、今晩どう?安くしとくわよ」


ロッジマイヤーは恥ずかしそうに顔を赤らめ、小さな声で独り言のように言った。


「あたし、まだ処女なのよ」


ロッジマイヤーの胸の膨らみを見て、アルファが聞く。


「乳はいくつあるのさ。男はよ、多いほうがいいんだよ」


「え!...ちょっとたれたけど2つよ。ふ、た、つ」


「んじゃだめだ。うちのは4つあるんだぜ。全部で12個。すげーだろ」


「なんの話よ。普通は2つよ」


「フッ、世界は広いんだぜ。あんたにも世界を見せてやるよ」


そう言って、ロッジマイヤーを連れて、おんぼろアパートに帰った。


ドアが開き、ハジィとロッジマイヤーが顔を合わせた。


一瞬時間が止まり、ハッとした。


「マイヤー先生!」


帰ろうとするロッジマイヤーの手をハジィが捕まえる。


「マイヤーさん、あのときはありがとうございます」


泣き崩れるマイヤー。


「マイヤーさん、よろしければ、トゥエンティミルキーを手伝っていただけません」


そして翌日のトゥエンティミルキーでは、怒声が響いていた。


「お客様に、見えるように歩くのよ」


牛の歩きかたを見たロッジマイヤーが、牛たちに説教を始めた。


「あなた達は言葉がわからないと思うけど、それは仕方がないこと。だって牛ですもの。しかしね、態度では示せるはずよね」


メガネを押し上げ、怒声を飛ばす。


「ちがーう!そうじゃない。こうするのよ。わかった。品が大切なの。テーブルマナーと一緒よ。もう一度!」


ハジィは、誰にでも厳しいあの頃のロッジマイヤーが戻ってきたと喜んだ。


トゥエンティミルキーで働き始めた三日後、ロッジマイヤーは、町で偶然、彼女を見かけた。


高圧的に乗馬用の短いムチを持ち、ホームレス達を率いて車椅子を押させている。


車椅子の隣で、体の大きい只者ではない雰囲気をまとっている男が一緒に歩いている。


彼女の名前はケリリ・ガーゼマン。四ヶ月前まで、ロッジマイヤーが働いていた屋敷のお嬢様だったケリリだ。


彼女は登り詰め、町のホームレスを仕切り、独自の組織を築いていた。


ロッジマイヤーは駆け足でケリリを追いかけ声を掛けた。


「ケリリお嬢様、お元気でしたか。心配しておりました」


「ロッジさん。はしたないところを見られてしまいました」


周りにいるホームレスたちを視線で紹介する。


「彼らは私の友人たちで、新しい事業を手伝ってもらっています。隣にいる方は、共同経営者のセバスチャン。ロッジさんは仕事が見つかりました?」


「はい、わたくし、今はトゥエンティミルキーという店で働いております」


そう告げると、ケリリの雰囲気が変わった。暗い目でロッジマイヤーを見つめる。


「ハジィの店ね。あそこは、詐欺まがいの行為を行ってるから、従業員を店の前で生活させて、潰してほしいと依頼が来てるの。そんな店、やめておしまい」


ロッジマイヤーは困惑した。


「確かにハジィさんの店ですけれど、詐欺まがいって...確かに看板には間違った数字の20乳と書いてますけれど...」


「そうじゃないのよ、牛ばかりで、人間が見ないのに、返金もしないらしいじゃない。20乳ということはね、女性が10人いると思うでしょ。だから詐欺なのよ」


「人間が10人と思うのはそちらの勝手で、こっちは14の乳を揃えてるわ。どこが詐欺ですの?」


「ロッジさん、あなたはぬくぬくパークの意味はわかってるの?」


「ぬくぬくパークとは、看板に一言も書いてないですわよ。というよりも、ぬくぬくパークの定義はなんですの?ぬくぬくパークの定義をそちらが勝手に作っても、私どもとは違うということです。私どもは牛の乳を見せ、乳搾りをするパーク。搾りたての牛乳を飲めるパークですわ。それをお客が勘違いして入ってきても、それはお客の勝手ですわよ。牛だってちゃんとしつけたし、文句の言われようはないと思いますよ、元お嬢様」


ケリリの顔が歪んだ。


「元お嬢様に、カチンときたわ。潰すわよ」


バカにしたように、ロッジマイヤーが言い返す。


「品のない喋り方になりましたわね」


ロッジマイヤーは、ギンと目を開き、宣戦布告をした。


「かかってらっしゃい、元お嬢様!トゥエンティミルキーがお相手いたしますわ!」


「近々、潰しにお伺いするわね、元家庭教師さん」


そう言うとケリリは去って行った。





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