令和鬼合戦3:倉敷蹂躙 〜漆黒の外骨格とシンワの地へ〜
岡山基地の倉庫を飛び立った三機の輸送ヘリは、西へと全速力で飛行を続けていた。
機内には、重苦しい駆動音と電子音が混ざり合う。羅夢多(らむだ)は、今日支給されたばかりの『犬牙専用外骨格(けんがせんようがいこっかく)』の冷たい感触を確かめていた。
「……これが、俺たちの装備か」
人桃衆(じんとうしゅう)の華美な装甲とは対照的な、艶消しの漆黒。「機動性」を重視したこの漆黒の鎧は、軽量化を徹底的にしており見た目よりはるかに軽い。
「倉敷駅前に現れたのは、『大門』だ!」
副隊長の相田謙心(あいだ・けんしん)が、ハッチの縁を掴みながら怒鳴った。
「既に十メートル級の巨鬼と、八本角の上位個体が複数確認されている!S級やA級もいるかもしれない!人桃衆の倉敷隊ですら壊滅寸前だ!」
ヘリが倉敷駅上空に到達した瞬間、羅夢多の視界に飛び込んできたのは、燃え盛る美観地区と、逃げ惑う人々の群れ。そして、空を食い破るように開いた巨大な門から、滝のように降り注ぐ異形たちの姿だった。
「先に行く!戌亥 (いぬい)指揮は任せた!」
源雲切(みなもと・くもきり)が咆哮した。ヘリが着陸態勢に入るよりも早く、地上百メートル程の高さを無視して、源と相田が空へと躍り出た。
「……マジかよ!」
羅夢多は後に続くかためらっていると。戌亥副隊長が止めてくれた。
「ヘリが着地したら俺と一緒に戦闘だ。俺から離れるなよ!」
ドォォォォォン!!
着地と同時に、源隊長が眼前にいた十メートル級の赤鬼の足に拳を叩きつけた。
「蛇咬爆(じゃこうばく)!!」
不気味な衝撃音と共に、鬼の脚部に巨大な噛み跡が穿たれる。一拍置いて、鬼の巨躯が内側から爆ぜ、赤黒い肉片が豪雨となって周囲に降り注いだ。
隣では相田副隊長が、二本の直刀を独楽(こま)のように振り回し、黒い八本角の特殊個体と切り結んでいる。
「一、二、三……チッ、もう三本欠けやがった!」
相田は折れた刀を迷わず捨て、背負った予備の鞘から新たな一振りを引き抜く。その動きには一切の停滞がない。
「羅夢多!ボサッとするな!」
齊藤太郎(さいとう・たろう)がだんごのようなものを口にし、青白い光を纏って加速する。
「……分かってる!」
羅夢多は気合を入れなおした。
「一閃(いっせん)!!」
直刀が描く銀色の軌跡が、一本角の群れが、何が起きたかも理解できぬまま、その胴体を真っ二つに分けた。
源の巨大な掌が青い八目鬼の膝に触れた瞬間、ドシュッという不気味な衝撃音と共に、巨大な噛み跡が穿たれた。次の瞬間、鬼の脚部が内側から細胞ごと爆ぜ、巨躯がバランスを崩して沈み込む。源は止まらず、倒れ込む鬼の顔面に飛びつくともう一撃。断末魔を上げる暇もなく、八目鬼の巨体は赤黒い肉片となって四散した。
「ここは任せる!」
源は血煙の中で叫ぶ。
その向かう先は、鬼が溢れ出す『地獄の門』の深奥だ。源はそのまま、地獄の瘴気が渦巻く門の中へと弾丸のように突っ込んでいったのだ。
「隊長!?門の中に直接入ったぞ!」
羅夢多が驚愕の声を上げる。
「源さんの十八番だ!あの中で鬼を堰き止める気だ、俺たちはここの掃除だ!」
相田に続くように、羅夢多も鬼の群れに突っ込んでいく。その時、頭上の『門』が激しく鳴動した。
――ドォォォォォォォン!!
裂け目の内側から、耳を劈くような爆発音が響き渡る。門から出ようとしていた十メートル級の巨鬼たちが、内側から「破裂」して吹き飛んできたのだ。
「万蛇連爆(まんだれんばく)!!」
門の中から、源隊長の野太い声が地響きのように降ってくる。
源が地面に両手を叩きつけると、目に見えない「噛み跡」の衝撃が、門の奥へと波状攻撃のように広がっていった。
――ドォォォォォォォォォォォン!!
鬼の群れの足元、胴体、頭部。あらゆる場所に無数の穴が穿たれ、それが一斉に内側から爆ぜる。門の通路を埋め尽くしていた数百の鬼たちが、たった一撃で、文字通り肉の霧へと変えられた。
源は門の縁に陣取り、這い出そうとする鬼たちを片っ端から片付けていった。内側から細胞ごと爆破していた。最強の牙が入り口を塞いだことで、地上へ降り注ぐ鬼の数が劇的に減少していく。
「今だ!一気に叩くぞ!」
真壁剛(まかべ・ごう)の土遁・土壁が鬼の進撃を止め、秋山三弥(あきやま・さんや)の火遁が群れを焼き払う。
門内の鬼を爆砕して源隊長が帰還、直後に上空で待機していた九十九薫(つくも・かおる)ら雉翼衆(ちよくしゅう)が大量の物資と共に「地獄」へと飛び込み、門は内側から封鎖し固く閉じられた。倉敷の空に、ようやく静寂が戻った。
「索敵完了。二時の方向に五体!」
北条結衣(ほうじょう・ゆい)の警告が無線に走る。
「……真壁、行けるか!」
「任せろ。土遁(どとん)――『不動城壁』!」
真壁剛(まかべ・ごう)が地面に掌を突き、広範囲に巨大な岩の壁を構築して鬼の進撃を食い止める。その隙間を縫うように、秋山三弥(あきやま・さんや)の火遁が炸裂した。
九番隊、怒涛の蹂躙。
最強の牙である彼らの介入により、倉敷を埋め尽くしていた鬼の群れは次第に数を減らした。
隊員たちが返り血を拭っていたその時、源隊長の通信機に岡山基地のオペレーターから緊急入電が入った。
『――源隊長!至急伝達します!』
普段は冷静なオペレーターの声が、恐怖で震えている。
「出雲派遣隊の一番隊、二番隊より応援要請を受信しました!音声はノイズが酷く途切れ途切れですが……直後に通信が途絶……現在、出雲一帯の信号が消失しました!」
「……何だと?」
報告を聞いた源の眉間に深い皺が寄る。通信を聞いていた相田も、信じられないといった表情で絶句した。
「早く向かおう!」
「休んでいる暇はない。総員、ヘリに戻れ」
源雲切の目が、再び戦鬼のそれへと変わる。
「向かう先は出雲市。……強い鬼がいるようだ」
再び飛び立ったヘリの窓から、羅夢多は西の空を見た。出雲市。かつて神々が集ったその地の上空は、もはや「門」などという生易しいものではなかった。空そのものが巨大な怪物に食いちぎられたかのように黒く歪んでいる。
「……行くぞ、羅夢多」
相田が予備の刀を確認しながら低く言った。
「弾丸の補給や壊れた装備の変更を忘れるなよ」
鈴木羅夢多にとって、それは真の意味で「地獄」を知る戦いの始まりだった。
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