第4話 親友二人のお茶会 後編
作戦の第一段階はコレットがその可愛らしい容姿を生かして、セドリックを誘惑するところから始まる。コレットがセドリックと意図的に距離を取っていたため、今までは関わりがなかったが、コレットはセドリックの好みに合致しているため、この第一段階は成功する可能性が高いだろう。
コレットがセドリックの近くに入り込んだら、次は第二段階だ。コレットは現在のセドリックが一番寵愛しているデボラに、挑発的な視線を送る。あくまでも視線のみだ。後に残るようなことはしない。
しかしそれだけでも、プライドが高くセドリックの一番の側妃を狙っているデボラにとって、耐え難いことだろう。コレットの予想では、十中八九コレットに嫌がらせをしてくるそうだ。
これにはカトリーヌも同意だった。そもそもデボラはセドリックの寵愛を得るために、犯罪スレスレのようなこともやっている。
第二段階まで完了すれば、もう作戦は佳境に入る。第三段階としてコレットが虐められていることをセドリックに伝え、その相手を明言しない。さらにセドリックがカトリーヌが犯人ではないかと誤解するように仕向ける。
ここまでいけば最終段階。常日頃カトリーヌと婚約破棄をしたいと溢すセドリックは、これ幸いとカトリーヌを糾弾して婚約破棄を突きつけるだろう。その場を公のパーティーなどにすれば、セドリックは婚約者であるカトリーヌを冤罪で糾弾し、名誉を深く傷つけることになる。
「私が隣にいるだろうから、カトリーヌは関わってないって必ず証言するわ。あとはデボラが犯人である証拠も集めておくべきね。どう? これなら完璧でしょう。ここまでやらかしたセドリックは、さすがに白の塔にでも入れられるはずよ。カトリーヌとの婚約だって、当たり前に破棄となるわ」
白の塔とは、王族が犯罪を犯した時に入れられる塔だ。一生そこに幽閉されるということもあり得る。
最後まで話を聞いたカトリーヌは、楽しそうなコレットとは対照的に眉を下げていた。
「あまりにも大胆な作戦すぎるわ。それに、コレットが危なすぎる」
聞いた作戦の内容は、ほぼコレットが動くものだったのだ。カトリーヌはコレットの親友として頷けるわけがないし、そもそもコレットがここまで危険を冒す必要はない。
「わたしは大丈夫だから。そんなに心配しなくても……」
「もうっ、そうやって私のことを遠ざけるのは禁止よ!」
ビシッと人差し指を突きつけられ、カトリーヌは思わず口を閉じる。
「私たちはなに? 親友よね?」
「ええ」
「親友のために危険を冒すのなんて当然よ。いい? カトリーヌ。あなたは絶対に幸せになるべき人なの! あんな馬鹿王子に一生を無駄にされるなんて絶対にダメよ。セドリックと結婚するのは私が許さないわ!」
今まではここまで強く言ったことがなかったコレットに、カトリーヌは驚いてしまう。
しかしそれと同時に、とても嬉しかった。
(わたしのことをここまで真剣に考えてくれるなんて……)
思わず緩んだ頬を、身を乗り出したコレットにむぎゅっと摘まれる。
「もう、可愛いんだからっ。とにかく分かった? カトリーヌがセドリックとの婚約を破棄するのは決定事項なの! その上でカトリーヌの瑕疵で婚約破棄なんて絶対にダメ。あいつがやらかして婚約を破棄にするのよ」
そこで一度言葉を切ったコレットは、表情を真剣なものに変えて言った。
「それと、セドリックが王になったらこの国は終わりよ。だから今回の作戦は、国を救うためにもなるの。私がちょっと危ない橋を渡るだけで親友も国も救えるなんて、最高だと思わない?」
にっこり笑って首を傾げたコレットは、最高に可愛くて最高にかっこよかった。
「コレット……」
「それに、別にそんなに危ない橋でもないと思うのよね。私は特に何もしないもの。セドリックが迫ってきたから断れなくて付き合っていた。虐められたことを少し話したらセドリックが勝手に勘違いした。それだけよ。私だって巻き込まれた被害者だって主張するわ。唯一の懸念はあの馬鹿と関係があったかもしれないってことで、婚約者が見つからなくなることだけど……」
コレットは握り拳を顎の下に当てて、ふざけたように告げる。
「そこは、私の魅力でなんとかなるわ。もしなんとかならなくても、コルディエ侯爵になんとかしてもらえるでしょうし」
コルディエ侯爵はずっとセドリックとカトリーヌの婚約破棄を望んでいたのだ。しかし立場的に強く動くことができず、カトリーヌも自らの家が傾くのを恐れて侯爵が動くのを止めていたため、歯痒い思いをしていた。
それを知っていたコレットは、カトリーヌを助けた恩を着せる気満々である。
コレットと侯爵の仲がかなり良いからこそ、想定に取り入れられる話だ。
「まあ、お父様ならばなんとかしてくださるでしょうけど……」
「そうよね! じゃあ、なんの問題もないわ。この作戦、決行するわよ!」
もう作戦決行を決めたような雰囲気だ。
それにカトリーヌが慌てて口を開く。
「待って、こんなにすぐ決めるなんて……やっぱりコレットの負担が大きすぎるし、他にもいい方法があるかもしれない」
慎重派なカトリーヌの言葉に、コレットは首を横に振った。
「ううん。そんなこと言ってたらいつまでも実行できないわよ。こういうのは勢いも大事なのよ。それに、私はこれ以上カトリーヌが傷つくのを見たくないわ。あなたはさっきから私の危険ばかり気にしてるけど、セドリックとの婚約が続けば続くだけカトリーヌの心が傷つくのは計算に入れてないでしょ。もっと自分も大切にして」
その言葉は、カトリーヌの胸に深く刺さった。
確かにカトリーヌは、自らを二の次にする癖があった。自分が我慢をすれば丸く収まることは、我慢すればいいと考えてしまうのだ。
しかし、自分が傷つくことで他の人も傷つくのだと思えば、もう少し自分も大切にしなければと思えてくる。
「――コレット、ありがとう」
「ふふっ、親友なんだから当たり前よ。じゃあ、作戦を進めるのでいいわね?」
「うん、わたしも頑張るわ」
「頑張りましょう」
二人は決意を固めた表情で頷き合った。
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