異能犯罪組織の構成員ちゃん
dsar325
プロローグ
多分、それなりに幸せな人生を送ってきたのだろう。
よく言えば、優しい母と厳格な父。
悪く言えば、私に過保護な母と、高圧的で厳しい父。
思い返してみると、悪いところばかりが思い浮かぶが、それでもそれなりに楽しかった。
母は私に優しかった。
私の話す、くだらない話を真面目に聞いてくれたし、人と目を見て喋ることが苦手だった私にとって、唯一目を見て喋ることができる相手だった。
父はたまに褒めてくれた。
父はいつも機嫌が悪そうな顔をしていたが、私が勉強などを頑張っていると、時折頑張れ、と言葉をかけてくれたし、結果を出すと褒めてくれた。
昔は、頑張れという言葉が嬉しかった。
父は私に期待してくれているんだなと思えたし、その期待に応える続けることができたから。
でも、頑張れという言葉が、段々と私を苦しめる呪いの言葉のようになっていった。
どれだけ努力をしても結果が出なくなったからだ。
苦しかった。
ずっと苦しかった。
頑張れという言葉が苦しかった。
頑張って勉強した。平均点以下の点数しか取れなかった。
もっと頑張れと言われた。
もっと頑張って、勇気を出して声を出してみようと先生に言われた。
体育の時間、持久走で走らないといけない距離の半分も走れなかった。
怒られた。もっと頑張れと怒鳴られた。
人と話すのが苦手だった。少し頑張って話しかけても、小さな声は、相手に自分の言いたいことを伝えられなかった。
私の周りには誰もいなかった。
親には頑張ればできる子だと言われ、親の知り合いが運営しているという有名な進学塾に無理やり通わされた。
応用ばかりの授業だったから、基礎ができていない状態でついていけるはずもなく、周りとの学力の差が開くばかりだった。
親に怒られた。高い金がどうこうだとか言っていたので、かなり月謝が高かったのだろう。
勉強できないのは努力が足りないせいだといい、もっと頑張れと言われた。
最初は良かった。
何かが駄目でも、他の何かに才能があると思えたから。
だけど、あらゆる分野に挑戦し、それらすべてが駄目だったとき、心の底から絶望した。
目の前が真っ暗になった。
才能があるという希望が無くなってしまったのだ。
いままで、壊れてしまいそうな心を、希望で無理やり補強して誤魔化してきた。
なのに、もう誤魔化すことすらできない。
私には何の才能もないのだと、親が私にかけた金も、期待も無意味だったんだと理解してしまったからだ。
その後は地獄だった。
父は以前にもまして頑張れというようになった。私が父の期待に応えることができないと分かっていたはずなのに。
母は何を考えているのか分からない黒い目で私を見ていた。
落胆、悲しみ、絶望、憐憫、感情が混ざりすぎて目が黒く染まっていた。
家族間の仲はギクシャクとし始めた。母は私を諦めたかのようで見ていたのに、父は私にまた塾や何か習い事をさせようとしていた。
馬鹿な私でも分かった。父は私に期待しているのではない、自分の子供は優秀であるという強迫観念に取りつかれているだけだと。
辛かった。冷たい目で見る母と狂ったような目で見る父。
父は以前にもまして私に頑張れというようになった。
バカの1つ覚えのように頑張れ、頑張れ、お前ならできると。
苦しかった。
頑張れと言われるたびに胸が締め付けられた。
頑張れと言われるたびに、何か結果を残さないとという焦燥感が沸いて出た。
気づけば、生きるのが嫌になっていた。
もう、疲れてしまったんだ。
頑張れという言葉が私の心を締め付け、すり減らす。
終わりたい。
この苦しみを終わらせたい。
だから、私にとって、夜闇よりも暗い、底の知れない深い色の海は救いだった。
海の磯臭いにおいが鼻腔を突き抜ける。
初めて肉眼で見た海は思ったよりも綺麗だった。
夜空に宝石のようなきらめきをもって輝いている綺麗な三日月。
そんな三日月が、なんだか矮小な存在に思えてしまうほど、広大に広がっている海。
見ていると心が少しずつ安らぐ。
なんだかセンチメタルな気持ちになりながら足を進める。
暗い夜の中、無理やり歩いてきたせいで、体はボロボロだ。
肌が露出している場所は虫に刺され、ひどい有様になっている。
足元がよく見えなかったせいで、何度も転び、擦り傷だらけだ。
足は無理に酷使したせいで、一歩進むごとに激痛が走る。
息はとっくの昔に切れているし、水分を取らなかったせいで口の中はカサカサだ。
だけど、そんなことはもうどうでもよかった。
だってこれで終わるんだから。
苦しいことも、期待に応えないとという焦燥感も感じなくていい。
そう思うと体が軽くなった。
最後に綺麗なものが見られたし、多分死ぬには悪くない。
人生の幕引きといこう。
気力を振り絞って、足を進める。
ゆっくり、ゆっくり、着実に進んでいく。
体が限界を迎えて悲鳴を上げているが、無理やり動かす。
あと一歩。
これで終わりだ。
最後の一歩を踏み出そうとしたところで
「あっ」
かすれた言葉が思わず漏れた。
全身の感覚が無くなり、体が肉塊になったようだ。
体のコントロールが効かなくなり、海に向かって倒れ込んだ。
奇妙な浮遊感が訪れる。
自分が確実に死ぬことができると理解し、頬が緩んだ。
心をやっと軽くすることができた。
久々に心が幸福で満たされる。
死ぬことに対する安堵感が体を包む。
後悔はない。
...ただ、もう二度とこの広大な海を見ることができないのは、少し残念だと思った。
私の心に、一瞬だけわずかに後悔が生まれる。
これ以上考えると後悔ばかりが思い浮かぶと思い、目をつぶり、重力に身を任せることにした。
最後に私が感じたのは、体を打ち付ける感覚でも、水に溺れる苦しみでもなかった。
体が上に引っ張られる不思議な感覚と、手首に感じる少し冷たい手の温度だった。
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