異世界に転生したら、認知症老人だった件〜レベル1の私と12人の問題児、ときどき神様〜

沢田柚美子

プロローグ〜介護つらくて当たり前⁈〜


「なるみ! 八千代さんの着替え、そこに置いたからね!」

「わかってるって、お母さん。もう、何度も言わないでよ……」

岩音(いわね)なるみ、28歳。会社員。独身。

今の私のステータスをRPG風に言うなら、間違いなく『MP(メンタルポイント)がマイナスに振り切れた村人A』だ。

目の前には、虚空を見つめて口を半開きにしている祖母・八千代(88歳)。要介護3。最近の趣味は、タンスの中身を全部ぶちまけることと、1分おきに「ご飯はまだかね?」と尋ねること。

「ほら、おばあちゃん。お風呂入るよ。さっぱりしようね」

努めて明るい声を出す。でも、心の中はどす黒い雲で覆われていた。

母の三千代はパートを掛け持ちしながら、ほぼ一人で八千代の面倒を見ている。父の佐々礼(さざれ)はといえば、介護の話が出た瞬間に「空気」と化して自室に消える、実質的な透明人間だ。

正直に言おう。

介護は、美しくなんてない。

感謝の言葉が返ってくるわけでもない。

ただひたすら、底の抜けたバケツに「日常」という名の水を注ぎ続ける作業だ。

「さあ、おばあちゃん。脱ごうか」

「……行かない。どこにも行かないよ」

「お風呂だってば。さあ、立って」

無理やり腕を引く。八千代の肌はカサカサしていて、なのに掴むと驚くほど強い力で抵抗される。

――なんで私、こんなことしてるんだろう。

友達はみんな、キラキラした週末をInstagramに上げている。私はといえば、ボケた祖母の着替えに四苦八苦して、おしっこの匂いに鼻を曲げている。

「重い……本当に、重いよ……」

その重さは、物理的な体重だけじゃない。

私たちの未来をじりじりと押し潰していく、終わりの見えない時間そのものだった。

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