復讐の女神

tona

第1話 私の正体

 あぁ。今日も退屈な日だった。私は大きなため息をついた。

 私の名前は、鈴木すみれ。現役高校生。友達は、いない。親もいない。私を産んで二人ともどこかへ行ってしまった。遠い昔のことだ。別に何とも思わない。親の代わりに叔父が育ててくれているが、いつも仕事で忙しいので、見かけたらラッキーな感じだ。

 私はずっと独り。きっと、そんな生活が一生続くんだろう。

 昔は、青春というものに憧れたもんだ。友達も、作ろうとした。けれど、親がいないというだけでみんなは私を腫れもののように扱った。近づけば近づくほど、みんなは私から離れていく。

だから私は、とっくにほとんどの学生がしているであろうことをほとんど諦めた。

 私はかばんを肩にかけた。下を向いて、誰とも目が合わないようにして教室から出る。靴を履き替え、校門を出た。大きく深呼吸する。

「・・・まぶし」

 太陽に手をかざして、目を細める。私には明るすぎる。なぜか晴れの日はみじめな気分になる。やっぱり、雨の日が好きだ。

 そう思いながら、駆け足で家へ向かう。太陽の光が降り注ぐ外に長いこと居たくない。

 家の電気をつけると、なぜか玄関に黒猫がいた。律儀に座り込んでいる。叔父が飼い始めたのだろうか。せめて、メモでも残してくれればいいのに。私はため息をついた。動物は苦手だ。その黒猫を避けるようにして奥の廊下に進もうとしたとき、誰かに肩をつかまれた。

「お待ちください!」

 驚いて振り向くと、百七十センチもありそうな男が必死の形相をしていた。黒髪に赤い目。もしかして。そう思って地面を見ると、やっぱりいなくなっていた。

「・・・さっきの黒猫?どうやって?」

 私がつぶやくと、彼は慌てたように手を離した。そして、なぜかすっとひざまずいた。

「そうです。先ほどの黒猫です。・・・お迎えに上がりました、リュシエンヌ様」

「・・・私、すみれですけど。人違いでは?」

 私が訝しみながらそう言うと、彼はふるふると首を振った。

「あなた様は、こちらの世界に来た時に記憶を失ったのです。思い出させるために、少しだけ過去を語らせていただきます」

「・・・別に要らないんですけど」

「まぁ、そう言わずに」

 彼はそう言って、こほんと咳払いをした。

「あなたは、我が国の第一聖女でした。そして、第二聖女であるロザリー様を暗殺した罪で、記憶を失わせて異世界に追放しました。以上です」

「え、それだけ?」

 私はあっけにとられた。たったそれだけか。あっけな。

彼は私の記憶が戻らなくて焦ったのか、目をきょろきょろさせながら唸った。

「そうですねぇ・・・ロザリー様が現れるまでは、聖女ではなく女神だと国民から慕われていました」


 女神様。女神様。リュシエンヌ様。ありがとうございます。女神様。女神様。


頭の中に、声がたくさん響いてきた。それと同時に、記憶も一気に流れ込んでくる。頭の中が引っ掻き回されたようにくらくらして気持ち悪い。

 時間がたつにつれ、落ち着いてきた。

 そうだ。私はリュシエンヌだ。すみれじゃない。そう思った瞬間に、体が輝いた。あまりのまぶしさに、思いきり目をつぶる。

「・・・うっ!!」

 私は恐る恐る目を開けた。そして、玄関にあった姿見を覗き込んだ。そこには、懐かしい私の姿が映っていた。ゆるやかに波打つ長い金色の髪に、はちみつ

色の瞳。あぁ、私だ。懐かしい、私だ。

「・・・アドルフ」

「お、やっと俺のこと思い出したか」

 アドルフは嬉しそうに言った。彼は私の使い魔だ。冤罪で捕まった時も、ずっと傍にいてくれた大切な人。

「・・・それで、わざわざ追放された人がどうして呼び戻されるのかしら?」

「おぅ、それがよ・・・」

 そう言ってアドルフは話し始めた。

「俺も元に戻されてあのくそじじいから教えてもらったんだが、今あの国が超絶荒れてるらしくてさ。それを元に戻すためにリュシエンヌを呼び出せ、だとよ」

 ちなみに、くそじじいとは国王のことである。

 その話を聞いて、私はすっと目を細めた。

「あのくそじじいがすんなりと私を戻すわけがない。となると・・・秘密裏に連れてきて元に戻し、その功績はあのくそ女にいく。んで、何事もなかったかのようにまたこの世界に飛ばされる、そういうことかしら?」

「恐らくそうだろうな」

 アドルフはゆっくりうなずいた。

 私はにやりと笑った。いいことを思いついた。

「いいわ、国に戻る」

「お前、正気か!?」

 アドルフが目を剥いて叫んだ。それを見て、私は肩をすくめる。

「私があいつの言うことを聞くと思う?しかも、ロザリーのためになるようなこと、するわけないじゃない」

「じゃあ、どうするんだ?」

 アドルフが首を傾げて聞いた。

「アドルフ、次の王都舞踏会の日程をこっそり入手してくれるかしら?」

「・・・まさか・・・おまえ・・・」

 アドルフの顔がどんどん驚愕に染まるのを見て、私は不敵に笑った。

「ど正面から会いに行ってやろうじゃないの」



女神様。今日もありがとう。女神様。女神様。

 今でも耳の奥で響いている、民たちの声。愛情と尊敬に満ち溢れた声。その声を聞くたび、些細なことでも役に立てたことがうれしくなったものだ。

そんな私の楽しみを、幸せを、生きがいを、あの女は私から奪った。

私に冤罪を擦り付けたことは一生許さない。

あなたの本性を、民の前で見せてやろうじゃないの。

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