恋愛をしたくないからパートナーになろうとした俺とカノジョが、本気で恋に落ちてしまったらどうなる?
世界るい
第1話
☆前書き
お読みいただきありがとうございます!
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桜の花びらがなんとか生き残った4月最初の金曜日。高校の入学式を終え、帰ろうとしたところだった──。
「カノジョいないんですよね? もしよかったら私のカレシになって下さい」
「……今は募集していないから」
そこからの会話は思い出すのも億劫だ。いかに自分が優れていて、いかに恋人を作らないことが愚かであるかを説かれる。
それも続けざまに3人も。
名前も知らない相手から交際を申し込まれる異常事態。ちなみに俺だけが特別ではない。そこかしこで似たようなことが起きており、顔は見えないが、とある女生徒など、まるでラグビーのスクラムのように男子が群がってるのも見えた。
「ただいまー」「おかえりー、どうだった?」
家にいたのは4つ上の姉──
「だーかーらー言ったじゃん。春休みの間に恋人見つけておかないと入学式で大変なことになるよって。姉の言葉を軽視するからそうなる。アンタ見た目はいいんだから」
友紀が左手の手首のブレスレットを見せながら、説教をしてくる。今日はほとほと身に染みた。
「分かってる。というよりイヤというほど分かった」
手首のブレスレットは今の俺からすれば喉から手が出るほど欲しい一品。最高の魔除けの腕輪だ。
「じゃあ、早くアンタも恋人作りなー。今のうちにイイ子見つけないと余りものから選ぶことになるよ?」
「いや何度も言うが、恋人はいらないから。誰かの恋愛対象にならない最短の道が恋人を作るっていう矛盾なだけだ。それも恋人という名目ではなく利害関係の一致したパートナーがいい」
「かぁーーーっ。つまらん男。アンタ本当にキンタマついてんの?」
「家族に下ネタはやめろ」
「はいはい。じゃあその条件に合う子の中で、一番まともそうなの選んであげるから、姉ちゃんにスマホ貸して。あ、マイナマッチは開いといてよ?」
マイナマッチ。マイナンバーマッチングアプリの略だ。政府公認どころか政府が推奨するマッチングアプリ。
少子化に歯止めがかからず、人口減少、国力衰退、移民難民トラブル増を受け、政府が出した答えはパートナーを作れば人生イージーモードになるよう支援するというものだった。
最初は世論も圧倒的に否定派が多かったのに、今じゃそれも逆転している。
それこそ恋人がいる認定を受けると役所でもらえるパートナーブレスレットは受験や就活の面接においてもプラスだし、会社の出世や給料の手当、学費軽減、奨学金から保険料、各種税金の優遇、映画館に飲食店の割引と、とにかく優遇っぷりが凄まじかった。
「なに、アンタ一人でブツブツ言ってんの? キモっ」
「うるさい。じゃあ任せた。あ、でも勝手にマッチングはするなよ?」
「りょーかい。未来の私の可愛い義妹だからね。ちゃんと選ばなきゃ」
「……ハァ。まったくイヤな世の中になったな」
捨て台詞を吐き、姉にスマホを預けたままリビングを去る。
「今の社会構造だとパートナーがいた方が優遇されるとは言え、それでも独り身の方がコスパやタイパは上だと思うがな……」
一人ごちながら自室で勉強に励む。奨学金すらパートナーがいないと申請が下りない世の中だ。幸い我が家は大金持ちではないが、そこそこ余裕のある家だ。だが、無駄な金を使わすこともない。大学は国公立に行くつもりだ。
時計を見る。気付けば3時間ほどが過ぎていた。
「んー、休憩するかー」
コーヒーでも飲もうかと下へ降りる。姉はリビングでまだ俺のスマホをいじっていた。
「あ、修二。マッチングしたよ!」
「……俺がなんて言ったか覚えてるか?」
姉はドヤ顔るんるんでスマホ画面を見せつけてくる。そこにはマッチングした相手のプロフィールとメッセージが。
『シュウジくんって言うんですね。私は橘あかねって言います。同じような状況の方がいてとても嬉しいです』
丁寧な文章に適度な絵文字。というか既にメッセージまで始めていた。
「おい」
「うっさい。タマなし修二のことだからマッチングするのもメッセージ送るのもどうせネチャネチャ言って時間かかるからスキップしてあげたのよ。むしろ感謝しなさい」
まさかの逆ギレだ。しかし、腐っても姉。俺のことをよく分かっている。反論できない。
「……」
姉との口論には勝てないため諦めてプロフィールを読む。年齢は15歳──同い年だ。地域設定は同じ区内──移動の面倒がないな。
そのほか趣味や特技などパーソナルなデータはほとんど空欄。
最後にアピール文がわずか一行『大学受験を頑張っています。恋人ではなくパートナーを募集しています』
と。
「合理的だ」
「フフ、でしょ? てか写真見た?」
見てなかった。姉に言われ、改めて写真を見る。一枚しか登録されていない。非常に整った顔立ちをした少女だ。
「……」
「感想は?」
「加工されてなければ整った顔立ちだし、まぁ逆に言えば加工されている可能性が高いと思う」
「ちげーよ! お姉ちゃんっ、最高に可愛い子とマッチングしてくれてありがとう〜! だろーが!」
ゲシゲシと蹴られた。
「見た目にこだわりはない。それより、求めてるパートナー像としては理想に近いと思う。ありがとう」
「うむ。まぁ、いいだろう」
何が? と思ったがツッコむと長くなりそうなのでスルーし、自室へと戻る。
流石にこれ以上メッセージされるとめんどくさいことになりそうなのでスマホの回収は忘れない。
こうして俺は最高のパートナー候補を見つけたが、それが俺の人生にとって大きな試練となることをこの時はまだ知る由もない。
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