愛してほしい。それだけなのに
ヘビーなしっぽ
愛憎皆無
目に前で、二人の若い男女が頻繁に唇を接触させながら、お互い幸せそうに笑って、愛を伝え合っている。
それを、私はブランコに座りながらじっと見つめていた。
何時間ここにいるのだろう。いや、きっとまだ数分しか経っていないはずだ。
数分が何時間にも思えるほど、その行為を見ているのは億劫だった。
他人が愛し合っている現場など、愛されていない人間からしたら退屈なことこの上ないだろう。
私もそのうちの一人だ。もっとも、私は人ではないのだが。
鬼。それはまだ、この世界にあまり普及し切っていない言葉だ。
人間と、獣人。そして魔族、エルフ、ドワーフ以外の新しい種族。それが鬼。
元々私たちは地下暮らしだったため、他の種族に発見されることもない。いわば鎖国状態だった。
私は、つい最近地下から出てきたのだ。
理由は単純にして明快。私が忌み嫌われる存在だからだ。
第一に、鬼の中では珍しい白髪。鬼は基本的に赤髪だが、私は白かった。
第二に非力だった。金棒など持ち上げられない。鬼としてこの上なく不十分。
そして第三に、私の目が赤かったことだ。鬼の目は基本黒。その上、赤は魔除けの力を持つとされていて、魔族に近しい鬼からしたら迫害の対象だった。
これだけの理由で、鬼達は私を里から放り出した。
母も父も、鬼達を止めてはくれなかった。
私は、人間でもない上に鬼でもない。ただの木偶の坊なのだ。
人間だと主張するには、この頭に生えたツノは邪魔であるし、鬼だと言うにもあまりに欠陥塗れ。
ということで、私は無一文で里を摘み出された。
金はない。食料もない。服は…少し大きめの、ゴブリンが使っていた毛布一枚。
働こうにも、やはりツノが邪魔だ。
人間界で生き抜こうにも、やっぱり私には無理難題である。
「終わったな」
何度も思っていたが、今初めて口に出した。
その声を聞いて、カップルがようやくこちらの存在に気づき、気まずそうにそそくさと去って行く後ろ姿を見つめながら、ブランコを漕ぎ始めた。
ゴブリンの毛布は案外大きくて、私の頭まですっぽり覆っているから、カップルたちは私の正体に気づかない。
ぎーこ、ぎーこ。
ブランコ特有の、形容し難い音が真夜中の公園に響く。
どうしようかなあ。
真っ黒の空を見上げながらそう思った。
やっぱり、このツノを切り落とさないといけないんだろうか。
痛いだろうな。辛いだろうなあ。もしかしたら死んじゃうかもな。
…いや、それがいいのかもしれない。
誰にも必要とされてない私なのだ。死んだほうがマシかもしれない。
そうだよ。やっぱりいっそのこと死んでしまおう。
死のう。
と、そう思うたびに私の脳内にはこの6文字が毎回こびりついて邪魔をしてくる。
死にたくない。
この6文字が、鬱陶しくて仕方がない。
うるさいな。黙ってろよ。私は死にたいんだ。
無理矢理ねじ伏せようとしても、やっぱりこびりついた言葉は取れない。
ブランコを止めて、立ち上がると、なぜか足がガクついてしゃがみ込んでしまった。
死にたくない。
いやだ。まだ生きていたい。
一度でいいから。愛されたい。
「ああ…なんなんだよ…私…」
目から唐突に涙が溢れてくる。
手の甲で目をぐしぐしと擦って、涙を無理矢理に掻き消す。
もう一度立ってみた。今度はちゃんと立てた。
「やっぱり、死のう」
そう言って歩き出すと、やはり脳内に、「死にたくない」と文字が溢れ出してきて、私は段差で躓いた。
受け身もロクに取れず、顔面からグシャっと砂利の地面に落下する。
「………死にたくないなあ…ぁ」
掠れる様な。蚊の鳴く様な。か細すぎる様な。誰にも聞こえない声量で声帯を振るわせる。
痛みすら、もう私の中には入っては来なかった。
死にたくない。
本当はまだ…生きていたいんだ。
私は起き上がって、体育座りで座り込んだ。
「何がしたいんだよ…私…」
嗚咽が混じった小さい声だけが、誰もいない公園に響いた。
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