ヒロインなんかになりたくなかった

中頭

第1話

 ヒロインは主人公と結ばれなければいけない。それが物語の掟だ。

 だから勇者であるトレムくんと出会った瞬間、私は直感した。

 「ああ、私はヒロインで、彼と結ばれる運命なんだ」と。

 けれど、同時に雷が落ちたような衝撃に駆られた。

 何故なら隣にいる魔剣士であるシュトくんに、一目惚れしたからだ。


「君がカルタロ村のアンヘラ?」


 囚われの身であった私を古城から助け出したのは、トレムくんとシュトくんだった。

 二人は額に汗を滲ませながら、檻の鍵を壊して薄暗い部屋から私を連れ出した。

 その頃、魔王が頻繁に村を荒らしては楽しんでいた。

 例に漏れず、私の住んでいた村が襲われ、挙げ句の果てに誘拐までされた。

 私は鎖で繋がれたまま、ゆっくりと頷いた。

 それを合図に、彼らは私の拘束を解き、自由の身にしてくれた。


「はい、そうです……」

「よかった、無事か?」


 馴れ馴れしく話しかけてきたトレムくんに、私は頬を引き攣らせた。

 この溢れんばかりの自信と輝きは、主人公としてふさわしいオーラだ。

 苦手だなぁと思いつつ「助けてくれて、ありがとう」と感謝を述べる。

 彼は鼻の下をこすり「気にすんなよ! 人助けするのは当たり前だろ!」と歯を見せた。


「村が襲われて、娘が攫われたって村長が騒いでたから、心配でいてもたってもいられなくてさ」


 なるほど、父の差金か────と私は小さく頷いた。


「俺はトレム、こいつは幼馴染のシュト」


 トレムくんは自分と隣に立っているシュトくんの自己紹介をした。

 不意にシュトくんと視線が混じり合う。彼はミントグリーンの切れ長の目をフッと細めた。

 遮るようにトレムくんが私の前へ出てきた。

 何事だと驚いていると、手を差し出される。


「よろしくな!」


 弾ける笑顔でそう言われ、反射的にその手を握っていた。汗ばんだ、熱い手だった。

 咄嗟に振り払いたかったけど、それはヒロインとしての立場上、してはいけないことだと思った。

 「こちらこそ」と微笑むと、トレムくんは照れくさそうにしていた。

 ふと、私はシュトくんにも手を伸ばす。しかし、トレムくんの「さぁ、こんな気味悪いところからさっさと抜けようぜ!」という太陽みたいな声で、手を引っ込めた。

 シュトくんは「そうだな」と頷いた。私には視線さえ向けない。

 それがとても悲しくて、宙に浮いた手を胸元でぎゅっと握った。

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